慈恩堂

虚構

慈恩堂

虚構

最近の記事

  • 固定された記事

アジフライ

「アジフライ食べたくない?」 ダメ元で誘ったら、意外にものってきた。冬休みも残り2日。ガソリンスタンドの拭き上げコーナーで、冷えた手を缶コーヒーで温める。ちょっと遠くの岬まで、ドライブだ。 駅前のロータリーで彼女をピックアップして、環状線を走る。年末に何となく気まずくなった空気が車内に広がる。ほとんど知らない曲のベストアルバムは、なかなか話すきっかけをくれない。 「なんで急にアジフライ?」 「日本人はアジだろ、やっぱ」 「あはっ。なにそれ、意味わかんない」 意味のわからない、

    • 森の見張り台から

      • 森の見張り台から

        午後の仕事をエスケープして、車を走らせた。同僚には適当に理由づけて、午前中に最低限のタスクをこなして。上司は少し心配してくれた。職場には恵まれていると思う。 市のはずれ、山間の森林公園に着いた。エスケープのことは家族にも誰にも言っていない。僕が今ここにいることは、僕しか知らない。 第6駐車場に停まっている車には、同じようにサボっているのだろうか、働き盛りのおじさんが多いように思える。エンジンを止めて少し窓を開け、読みかけの本を開いた。 一章を読み終えて、少し伸びをする。

        • 灯台へ

          「ご馳走様でした」 地物の刺身定食は存外にボリューム満点で、ベルトをひとつ緩める。湯気の消えたお茶を一口啜ると、会計を済ませた。 店を出ると、若い男女が笑い合っている。ランチタイムに滑り込み、彼らはこれから何を食べるのだろうか。ご飯は少なめにした方がいいかもしれないよ、と心の中で呟くも、若者には要らぬお節介だったかとひとりで苦笑いしてしまう。 寒空の中必死に温めてくれている太陽を見上げた。空にポツポツと浮かぶ雲は、海を泳ぐ魚のようにも見える。ふと、灯台の看板が目に留まる。昼

        • 固定された記事

        アジフライ