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【第4回】模倣のなかで僕はつよくなる【ほ】遙か彼方の空の下、桜舞い散るミツナの詩(124P)

 『あめつちの言ノ葉』は想像を上回るペースで頒布することができ、
2022年6月19日、なんと最後の1冊をお渡しすることとなった。
 すなわち完全頒布達成。世に言う「完売」である。御礼である。
 ありがとうございます、ありがとうございます……。

 もうこの世に頒布できる『あめつちの言ノ葉』はないのだが、
当然お手元に『あめつちの言ノ葉』がある方がいらっしゃるわけで、
皆様のためにも、この連載は続けたいと思う。
(亀連載で本当に申し訳ないです……)

 さて今回は、今田ずんばあらずが人生で初めて新人賞に送りつけた作品
「【ほ】遙か彼方の空の下、桜舞い散るミツナの詩」
(略称「ハルカナ!」)に焦点を当ててみたい。
 本作品は2006年10月起稿。当時中学生であった。
 ただ、そのときの題は「麻生勇輝の春」で、
「【ほ】遙か彼方の空の下、桜舞い散るミツナの詩」として書きはじめたのは翌年2007年11月24日とある。

「ハルカナ!」の構想が収められたノート

 作品の内容と含め、あれこれおしゃべりできればと思う。

登場人物と歩んだ、「最初の」物語

 当時僕は学園ラブコメにハマっていた。
 そのためか本作主人公剱崎ユウトは、数多の女子生徒と当然のように知り合いで、当然のように仲がいい。
 オレっ娘スポーツ少女の唐木ハルカ、病弱な永久ノ瀬カナタ、ツンデレ幼馴染みの星下ソラ、眼鏡学級委員の染井野サクラ、組長の娘で天然あざとかわいい紅花マイ。そしてメインヒロインは上咲ミツナ、両親の出張で急遽主人公の家に住むことになった、無口系詩作少女である。
 「【ほ】遙か彼方の空の下、桜舞い散るミツナの詩」という長文系作品タイトルは、6人のヒロインの名前からとったものなのだった。
 ただ『あめつち』に収録されているのは第1話で、上記キャラクターのうち、実際に登場するのはソラとサクラとミツナだけだ。
 ハルカとマイは3話から、カナタに関してはもっとずっと先に登場する。
 それなら3話以降の話を収録したほうが面白かったかもしれないがさておき。

 今振り返ってみると、この物語は僕にとって、様々な人物描写を習得するために必要な過程だった、と思える。
 そう思えるくらい、登場人物が多く、その誰もが特徴的な個性を持っている。

 一見のんびりに見えて実はバイオレンスな母チヒロ、口下手な父トオル、豪快なクラスの担任コバケン先生、クラスのムードメーカー麻生コウジ、イケメンの磐城マコト、臆病でいじめられっ子の素原シズク、知的でビタークールな立花ミズキ、親友でオタクな「であります」口調の夕立タイチ……。
 そして主人公の剱崎ユウトは、流されやすい頼りなさげな「僕」系男子なのだ。

 やや暴論とも言えるが、今後登場する今田ずんばあらず作品の人物は、ほとんど全員が上記15名の派生と考えていいのではないかとさえ思う。

 たとえば最新作の『海の見える図書室』の人物に置き換えてみると、
 春菜コハルは天然系かわいい紅花マイ、
 夏樹マナツは「僕」系剱崎ユウト、
 秋穂チアキは幼馴染星下ソラと委員長染井野サクラのミックス、
 冬草ミフユは無口系な上咲ミツナ、
 御咲サキは活動的な唐木ハルカとムードメーカー麻生コウジのミックス、
 風宮カザミはツンデレ星下ソラと知的クールな立花ミズキのミックス、
 折節先生は豪胆なコバケン先生、
 カジ先輩はオタク男子夕立タイチ。
 ……と、言い換えることもできる。

 当然、意図してやったことではない。
 それに登場する人物の数でいえば、処女作となる「【あ】ソフィアの物語」のほうが多い。全篇通して60名以上登場するらしい。
 が、彼らの魂、すなわち僕のなかにある人物描写スキルの多くは、「【ほ】ハルカナ!」を原点にしてもいい気はする。

 というのも「【あ】ソフィアの物語」では、(ソフィアと、僕の依り代たる主人公を除き)物語を夢想し、その場その場で人物を生み出していたのに対し、
「【ほ】ハルカナ!」は、人物を構想段階でメイキングしている。
 つまり物語進行のついでに人物がつくられたわけではなくて、物語を始動させるため、明確な意志をもって人物をつくったのだ。

 この2つは似てるようだけどまったく異なる。
 こうして当時を思うと、自覚的に人物をつくろうとしたことは、もの書きとしてとても大きな一歩だったように思える。

「ハルカナ!」のイメージスケッチ
つまり「こんな雰囲気のを書きたいな」というラフを綴ったもの

〈模倣〉の物語

 「【ほ】ハルカナ!」は『あめつちの言ノ葉』の第一章〈模倣と翼〉に収録されている。
 模倣、とは「他のものをまねること。 似せること」である。
 この物語を描くにあたって、つまり参考にした作品があるということである。
 前項冒頭で述べた通り、当時僕は学園ラブコメにハマっていた。
 なかでも漫画『新世紀エヴァンゲリオン 碇シンジ育成計画』の影響が強い。

 「【ほ】ハルカナ!」には多くの人物が登場する。
 そして今後のずんば作品にも彼らの魂は生きている、とも書いた。
 が実のところ「多くの人物」の大半が、『碇シンジ育成計画』の人物と置き換えられると言っても過言ではない。
 上に添付した漫画1巻表紙の3名と「【ほ】ハルカナ!」の誰が置換可能かなんて、おそらく語る必要もないかもしれない。

 さらに言えば『碇シンジ育成計画』の第1話と『あめつち』にも収録されている「【ほ】ハルカナ!」第1話は、実によく似た構成をしている。
(朝寝坊したり、幼馴染みが迎えに来たり、母が父にバイオレンスしたり、クラスメイトから二人の関係をからかわれたり、今後同棲するヒロインと偶然の出会いを果たしたり……)

 唯一の違いは「今後同棲するヒロイン」とのファーストコンタクトが、
服を濡らして雨宿りしていたか、
あるいは桜の生えた小さな丘の上で詩を口ずさんでいたか。
 その違いである。
 読み返してみても、この場面だけ、妙に空気がしっとりしている。

 ちなみにこの「桜の生えた小さな丘」であるが、モデルがある。
 当時平塚のダイクマ通りにできたばかりの「桜ヶ丘公園」だ。
 この公園の完成は2008年で、「【ほ】ハルカナ!」の執筆開始は2007年である。
 執筆中公園へ立ち入ることはできなかったが、近くにある高麗大橋から見下ろすことができた。
 少しずつ現代的な公園に姿を変える様子を眺めながら、ここで遊ぶ自分を思い描き、物語へ昇華したのだろう。
(なお高麗大橋は2003年3月に開通した。小4の春休み中の出来事であった。
https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/shokai/page-c_00025.html

 閑話休題。
 この物語は、模倣の物語である。
 言ってしまえばキャラとストーリーをパクったわけである。
 そしてこの作品は、おそろしいことにライトノベルの新人賞(スクウェア・エニックス小説大賞。第5回か第6回)に応募したのであるから、怖いもの知らずである。

 そういう経緯がゆえに、正直僕は、この作品に後ろめたさを覚えていた。
 ほぼ同時期に書かれた伝説の「【ほ】トリガー」とはまた別の方向性で、〈黒歴史〉といえる作品なのだ、と。

 だがしかし、このnoteを書くにあたり、当時の資料を読み返して、
「もしかするとこの作品は、ゼロからパクって肉付けしただけのつまらん作品ではないのかもしれない」
と思うようになった。

 つまり僕は、本当に描きたいものを表現するために、あえてテンプレを利用したのではないか、という可能性である。

一点の創造性とテンプレート

 イントロダクションで、この作品は元々「麻生勇輝の春」というタイトルだった、と書いた。
 現在、その資料はノートの1ページ目に書かれた12人の人物設定と、「ラストは麻生の告白」「四真六嘘」というメモ書きのみである。

 人物設定も現行とは異なる。
 声が高くてキュートで知的な山極末美、物憂げな主人公の友人斎藤利三、ちょっぴりマゾっ気なイラストマンガ部部長の魚村円、不良三人衆の一人でわりとやさしい中井忍……。
 ヒロインは白峰美津奈(ミツナ)。しかし主人公の転校生でもなければ無口少女でもない。ブラスバンド部のエースで学級委員で次期生徒会候補という最強キャラである一方で、誰にも言えない趣味(詩作)をしている女の子だ。
 主人公麻生勇輝は、野球部部長で成績もそこそこ優秀、次期生徒会候補と、美津奈に負けず劣らず肩書きだけは一丁前で、周囲から羨望の眼差しで見られている。が、当人は自身を弱虫で優柔不断だと思う二面性を持つ人物とされている。
(これは当時の僕自身とよく似ている)

 こうして見ると、『碇シンジ育成計画』要素がかなり薄いように思える。
 また、ヒロインのなかにクラス全員から陰湿ないじめを受けつつも、登校を続ける野坂美浦という人物がいる。
 当時僕はいじめ問題について真剣に考えていた時期でもあった。
 中学三年のときに僕は生徒会長になった。その際公約に掲げたのが「いじめゼロ計画」である。
 今思えば実に中学生らしい公約なのだが、作中で「いじめ問題」を描こうとしていた可能性は大いにある。

「麻生勇輝の春」人物設定。
野坂美浦の設定はえげつない。

 「四真六嘘」というメモ書きは、「四割ノンフィクション、六割フィクションで物語を書こう」という意思表示に思える。
 がしかし、結局「麻生勇輝の春」の本篇は書かれることはなく、「【ほ】ハルカナ!」として書きすすめられることになった。
 野坂美浦の設定は素原シズクに引き継がれているようにも思えるが、結局その要素は活かしきれないまま、物語は完結している。
(「いじめ問題」を描くことは、僕にとって転換点であった。『あめつち』で第二章に移行するキッカケとなった作品は、ずんば初の私小説でいじめ問題を書いた「【や】未来がある君たちへ~信号機~」である)

 さて、「麻生勇輝の春」から生き残った設定は、主人公の「麻生」という名字が友人の名に用いられていることと、ヒロインの名前「美津奈(ミツナ)」、
 そしてそのミツナが、詩を書いているということだけである。

 つまり僕は「麻生勇輝の春」から「【ほ】ハルカナ!」への移行に伴い、
たったひとつの書きたいこと、
「詩作する少女との出会いと交流」
以外のすべてを削り、テンプレートに移し替えた、とも考えられる。

 これを先鋭化と呼ぶか、陳腐化と呼ぶかは読者の皆さんに委ねたいと思う。
 しかしながら、僕は学園ラブコメのテンプレ上で物語を動かし、そして人物同士が語らうことで、創作スキルを磨いていったこともまた事実である。
 もしこの物語が存在しなかったとすれば、初期の代表作「【ら】翼の生えた少女」ひいては「【ふ】イリエの情景」や『海の見える図書室』は誕生しえなかった。

それまで僕は、自分の内側の世界しか知らなかった。
 「【ほ】遙か彼方の空の下、桜舞い散るミツナの詩」は、初めて外部から吸収した要素を取り入れた作品であるといえる。(※)
 外部から吸収したと言いながら、その内容がまるで「作者の妄想を具現化したような青臭い恋愛話」になっているのが実に面白い。

 どちらにせよ、読者にとってこの物語は実に退屈な話なのだろう。
 しかし僕にとっては、なくてはならない大切な物語なのだと気付いた。
 物語は、ただ無言で、僕の心の深淵で、じっと僕を見つめている。
 ……なんて実にアホらしい過剰表現の一文であるが、それでもやはり、僕は遥か昔の自分から、脈々と今に至るまで途絶えることなく続いていることを実感する。
 過去の作品を棄てる必要はないし、固執する必要もない。
 ただそこにあるだけ。
 それだけ分かって、あとは書きつづけていけばいい。

 そんなこんなで、「【ほ】遙か彼方の空の下、桜舞い散るミツナの詩」は、特にずんば作品に登場する人物の原点的な立ち位置として見ることができる。
 もし僕の他作品を読む機会があれば、「ああ、こいつは星下ソラの派生キャラだな」「お、上咲ミツナ登場か?」といったふうに楽しんでいただければ幸いである。


※「【ほ】ハルカナ!」以前に「【め】ドラえもん のび太と戦国パニック」があるが、これは二次創作であり、自分のものでないものとして利用したものになるので、除外する)

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1500ページで振り返る、ひとりのもの書きの生きざま。
『あめつちの言ノ葉』
完売御礼!
https://johgasaki.booth.pm/

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