JOG(515) 石油で読み解く覇権争い
北野幸伯著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』を読む
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■1.アメリカは民主主義のために戦っているのか?■
ブッシュ大統領は二言目には「民主化」「民主主義」と言うが、それが「インチキなみせかけ」であることを、「一瞬にして証明しましょう」と北野幸伯氏は新著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』で語る。[1,p74]
■2.アメリカにとって「石油は民主主義よりも大事」■
アメリカと仲良くしているこれら4つのイスラム教独裁国家には共通点がある、と北野氏は指摘する。[1,p75]
枯渇していく世界の石油供給の中で、いかに自国の生存と繁栄をかけて、石油を確保するか。国際社会では激しい石油争奪戦が繰り広げられており、その中でアメリカが本音では「石油は民主主義よりも大事」と考えるのは、当然なのである。
■3.「アメリカ政府は躊躇なく武力を行使する」■
その石油をどこから調達するか。埋蔵量で見ると、1位サウジアラビア、2635億バレル、2位イラク1125億バレル、以下、アラブ首長国連合、クウェート、イランと続くが、バーレーン、オマールなどを含め、中東の9カ国で全世界の65%を占める。
当然、中東石油への依存度は高まっていく。1999年の中東石油は世界需要の27%をカバーしていたが、2020年には39%となる。
アメリカが中東の重要性を認識したのは、73~74年のオイルショックだった。1973年に第4次中東戦争が勃発すると、アラブ諸国はイスラエルの肩を持つアメリカへの原油輸出停止と他諸国への輸出制限を行った。このオイルショックが世界経済に大打撃を与えた。
1975年、国務長官キッシンジャーは「(産油国の行動が)なんらかの形で先進工業世界の首を絞める事態が起これば、アメリカ政府は躊躇なく武力を行使する」と断言した。
1979年、イランの親米的な国王がイスラム原理主義勢力に追放される革命が起こり、世界は第2次オイルショックに直面した。カーター大統領は「ペルシャ湾の支配権を握ろうとする外部勢力の試みは、いかなるものであれ、アメリカ合衆国の死活的国益に対する攻撃と見なされ、必要ならば武力行使を含むあらゆる手段によって排除される」と警告した。
1980~88年のイラン・イラク戦争では、アメリカはサダム・フセインを支援したが、そのフセインがクウェートに侵攻すると、アメリカを中心とする多国籍軍が湾岸戦争に踏み切った。
敗戦後、フセインは国連の許可を得て、石油輸出を再開したが、相手はロシア、中国、フランスだった。国連常任理事国に石油利権を与えて、アメリカの攻撃をかわそうとしたのである。しかし、アメリカは3国の抵抗を押し切って、第2次湾岸戦争を始め、この利権を取り戻した。
こうして見ると、アメリカは中東石油の利権を脅かす存在には、武力行使をためらわない、というのが、石油ショック以来の確固たる国策となっている事が分かる。
■4.イランと北朝鮮■
イラクのフセイン政権が打倒されて、いまや中東産油大国でアメリカの支配が及んでいないのは、イランだけとなった。そのイランの核開発問題に関して、ブッシュ大統領は武力行使もありうることを示唆している。
しかし、ここでも核問題は表向きの理由のようだ。2005年にラムズフェルド国防長官(当時)は、「現時点では(核兵器を)保有していないことは、イラン側の公式声明から極めて明らかだ」と語っている。
北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)から脱退して、核実験に踏み切ったのに対し、イランはNPTとIAEA(国際原子力機関)の中での平和的な核技術開発を主張している。それなのに、ブッシュ大統領は「北朝鮮を攻撃する意思はない」と明確な意思表示をする一方、イランに対しては「どんな選択肢も決して除外しない(武力攻撃もありえる)」と語っている。
これほどあからさまな二重基準もないだろう。核兵器問題は表向きの理由に過ぎず、本当の狙いはイランの石油にあるのである。
■5.中国とイランの接近■
石油を巡ってアメリカとの覇権争いを演じているのが、中国である。中国の石油消費量は、1999年の日量430万バレルから2030年には1500万バレルまで、3.5倍に増加すると予測されている。世界の石油需要において、アメリカの23%に続き、第2位の13%を占める。
自国の経済成長のためにも石油が必要であり、また枯渇していく石油資源を囲い込むことで、アメリカの覇権に横やりをいれることができる。
そこで、中国は中東産油国に着々と接近している。まずはアメリカに睨まれているイラン。04年10月、イラン西部にある確認埋蔵量300億バレルの巨大油田ヤダバランを中国のシノペックが開発するという覚え書きを交わした。
また06年1月、チャイナ・オイルフィールドがカスピ海の海底油田採掘工事に関する契約を締結。駐イラン中国大使は、契約締結後の式典で「中国とイランは世界の主要国から偏見を受けている被害者で、両国の協力関係を強化すべきだ」と発言した。「世界の主要国」とは、もちろんアメリカのことである。中国のイランからの石油輸入量は激増し、サウジからの輸入を抜いてトップとなった。
■6.親米産油国にも接近する中国■
中国の触手は、親米産油国にも伸びている。クウェートの投資を得て、広東省広州市にクウェート産原油を精製する工場を建設する計画が進んでいる。
またサウジアラビアのアブドラ国王と、胡錦涛国家主席は相互訪問し、石油・天然ガス・鉱物分野の協力強化に関する議定書に調印した。
2004年、胡錦涛主席がカイロを訪問した際に、第一回の「中国・アラブ国家協力フォーラム」が開催され、翌2005年にはアラブ22カ国の代表を北京に招いて、第2回を開催した。その場で2008年までに、初の「中国・アラブ石油協力会議」を開くことに合意した。
こうした中国の暗躍を、アメリカは苦々しい思いで見ているに違いない。
■7.カスピ海に手を伸ばすアメリカ■
石油確保のために、中東の次に重視されているのが、カスピ海沿岸の地域である。米エネルギー省は2000年6月に、この地域の埋蔵量は2350億バレルに達する可能性がある、と発表している。これは世界の埋蔵量の20%に相当する。
特にカスピ海西岸のアゼルバイジャンは旧ソ連時代から石油の一大供給地だった。ソ連が崩壊して、1991年にアゼルバイジャンが独立すると、アメリカが目をつけた。
しかし問題は、どうやって石油を運び出すかである。すぐ北はロシア領土であり、そこを通るパイプラインは、ロシアの管轄下に入ってしまう。1996年、クリントン大統領は、アゼルバイジャンのゲイダル・アリエフ大統領に電話をした。西の隣国グルジアを経由し、トルコから地中海に抜けるパイプラインを建設して、世界市場に供給する、という提案である。アリエフは即座に同意した。
グルジアも1991年に旧ソ連から独立し、親米路線をとってきた国である。ロシアはパイプライン建設を阻止しようと、グルジアに圧力をかける。グルジア内で独立を目指して中央政府と対立する地方政府を支援し、紛争を煽った。またグルジアへのガスや電力の供給を制限して、経済に大打撃を与えた。
ロシアの圧力でグルジアがぐらついてきた処に、2003年11月、議会選挙が実施され、与党が勝った。そこにアメリカが支援するNPO(非営利団体)が、出口調査では野党が勝っていたと発表。これを口実に親米派の野党勢力が大々的なデモを展開し、国会議事堂を占拠。ついには、政権を奪取した。
アゼルバイジャンからグルジア経由でトルコに抜けるパイプラインは2006年6月から稼働を始め、ロシアに大打撃を与えている。
この地域は、ロシアにとって裏庭のようなものである。しかもかつては自分の領土だった。そこの石油をアメリカに奪われて、プーチン大統領は激怒した。
■8.反米同盟、上海協力機構■
2001年6月、上海協力機構が創設された。加盟国は、中国、ロシア、それに中央アジア4カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン)。
中国から見れば、ロシアは武器輸入の90%を占める貿易相手であり、なおかつ石油の供給源でもある。ロシアにとっても、アメリカはソ連崩壊後、IMF指導を通じた「経済改革」で大混乱させられた敵であり[a]、その敵の敵・中国は味方である。
そして中央アジアには巨大な石油資源があり、しかもここは中ロの間に位置する、防衛上きわめて重要な地域である。
中、ロ、中央アジア諸国の結びつきは地政学的に見ても、当然のシナリオなのである。
しかし、アメリカはこの動きを座視してはいない。キルギスでは、05年3月「チューリップ革命」が起きた。グルジアと同様、アメリカが暗躍して親米勢力に政権を取らせたのである。ウズベキスタンでも、その2カ月後に革命未遂が起きたが、もうアメリカの手口は明らかになっていた。ウズベキスタン政府は、親米勢力を武力鎮圧した。
旧ソ連諸国の独裁者たちは、はっきりと理解したのである。アメリカとつきあっていると、いつ「民主革命」を起こされるかわからない。ロシアや中国は同じ独裁国家で話もしやすい。
05年7月、上海協力機構の準加盟国として、イラン、インド、パキスタンが承認された。中東で唯一、アメリカに従わない国イランを準加盟国とする、ということは、中ロがイランをアメリカから守る、というメッセージであろう。これまで3回戦争をしているインドとパキスタンが仲良く入っていることは、中ロ同盟の影響力の強さを示している。
中ロを枢軸として、ユーラシア大陸の内陸部は反米同盟で固まりつつあるのである。
■9.石油争奪戦を超越するには■
こうした石油を巡る覇権争いの中で、我が国はどう振る舞うべきか。北野氏は、いくつかのシナリオを提示しているが、それは著書を見ていただきたい。
我が国のとるべき短期戦略について、私見を述べれば、米国の覇権のもとで供給される中東石油に依存している以上、米国の政策がいかに自国本位のものであれ、それに協力していくことは我が国の国益にも適う。
しかし日米同盟は、米軍のアジアからインド洋への展開に不可欠であり、この点でアメリカは日本を同盟国として尊重せざるをえない[b]。したがってアメリカの戦略に盲従する属国ではなく、主体的に物言う同盟国となりうるし、またそうなるべきなのである。
それでも中期的には、世界の石油供給がいずれ枯渇してしまう以上、石油はますます高価になり、その争奪戦はますます激しくなっていくであろう。その争いから身を守るためにも、早く代替エネルギーを開発し、石油依存から脱却すべきである。それが真の平和、安定、繁栄への道である。[C]
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(382) 覇権をめぐる列強の野望 ~ 北野幸伯『ボロボロになった覇権国家(アメリカ)』を読む。
b. JOG(084) 気がつけば不沈空母
国民の知らないうちに、国内の米軍基地は、米国国際戦略の 拠点となっている。
【リンク工事中】
c. JOG(513) 石油で負けた大東亜戦争
日本は石油供給をストップされて敗北したが、 現在でもその リスクはさらに深刻化している。
【リンク工事中】
■参考■
(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け) →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 北野幸伯『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』★★★ 草思社、H19
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