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JOG(1313) 教師が語る歴史人物学習による生徒の人間的成長 ~ 歴人(歴史人物学習館)便り(5)

 歴史人物学習に取り組んだ中学校3校の教師が、生徒の人間的成長を語ってくれた。


■1.教師も驚く生徒の人間的成長

 4月1日に実施した歴人(歴史人物学習館)セミナーでは、歴史人物学習で、生徒がどう人間的に成長したのか、3名の中学教師の方々に体験を語っていただきました。それぞれ長らく教職のご経験を持つ先生方ですが、生徒たちが歴史人物の声に直接耳を傾ける事が、どれほどの効果を持つのか、驚かれている様子が窺えました。

 当日の録画の総集編は、以下のYouTube動画としても公開していますが、本号は、先生方のご発言を中心にレポートさせていただきます。

「先人の声を聴いて生徒たちが成長 ~ 歴人(歴史人物学習館)セミナー第1回」

【目次】
00:20 開会のご挨拶(副理事長 絹田洋一)
02:21 ご報告「偏向教育を吹き飛ばす歴史人物学習のパワー」(理事長 伊勢雅臣)
27:54 運営状況報告(監事 天本和馬)
32:14 感想文祭り「間宮林蔵」実施報告 東京都立中高一貫校
45:21 感想文祭り「古代人物」実施報告 横浜市立中学
57:03 感想文祭り「八田與一」実施報告 横須賀市立中学
1:09:30 「授業での活用方法のご案内」(理事 安達弘)
1:15:03 ご意見・ご質問(齋藤武夫先生、『学校で学びたい歴史』著者)

■2.「とりあえず資料集とか教科書で、調べたい人物を探そう」?

 冒頭に登場いただいた東京都立中高一貫校の先生は、自分の小学生時代の歴史授業をこう振り返ってくれました。

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 私も小学校6年生ぐらいで歴史学習が始まった時に、多分20年くらい前で学習指導要領が変わった頃だと思うんですね、ゆとり教育とか言われてる時代で、とにかく子供が何か興味を持って調べようという時間が設けられたんですね。

 最初の歴史の学習で、とりあえず資料集とか教科書で、調べたい人物を探そうみたいなことを、いきなり言われて、何もわからず、とりあえず探して、クラスのみんなもわかりませんから、なんか面白い顔してるやつ探そうとか、適当なことをやってですね。

 で、結局出てきた人物を時代別に並べて、教室の後ろに貼って、その時代を勉強したらその人物を調べようとか言ってました。結局手段も何もなく、僕も、陸奥宗光かなんか選んだんですけど、調べる時間もなく、なんもなく終わったっていう記憶がありましてね。

 ええ、こういった(歴史人物学習館の)サイトがまず現在あるっていうのは、非常に有意義なことなんだなと思っております。
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「生徒が自分で調べる」というところに力点が置かれているようですが、予備知識も無いままに生徒に「調べたい人物を探そう」では、たとえば修学旅行で、ガイドブックも与えないまま、生徒たちを知らない場所に放り出して、さあ「見たい所を自分で探しなさい」と言っているようなもので、途方もなく非効率で無責任な教育方法ではないでしょうか。

■3.「歴史人物の言葉そのものに触れるってことは、教科書では全くできない」

 本来なら、教科書がガイドブックとして、どの時代にどんな面白そうな人物がいる、という案内をすべきだと思うのですが、今の教科書があまりにも無味乾燥で、かつ偏った見方をしている、という点を、2番目に登場いただいた横浜市立中学の先生がこう語っています。
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この歴史人物学習館が生まれたことで、とても良い方向に向かうんじゃないか、そんな気がしてならないんですね。

 実際に先ほどご紹介ありましたけども、教科書っていうのは本当に無味乾燥というか、せいぜい事実の羅列です。

 聖武天皇のところも、私のところは帝国書院なんですけども、まあ本当に事実がざっと書いてあって、東大寺を作ったこと、国分寺や国分尼寺を作ったこと、さまざま書いてあるんですけど、最後の最後に結局、多くの寺院が作られたことで、仏教が広まりましたが、寺院建設は民衆の新たな負担にもなりましたって、結局くさして終わるっていう「なんなの、この教育」っていう感じなんです。

 実際にね、聖武天皇がどんな方か、どんなことをおっしゃってたのか、そういう歴史人物の言葉そのものに触れるってことは、教科書では全くできないんですよ。
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 この先生は、教科書や資料集が、無味乾燥なだけでなく、非常に偏向した内容になっている点をこう指摘されています。
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 今までは本でもサイトでも、調べると非常に悪意のある、もう意識的に偏向してるなって、日本の悪いことを書かないと済まない、そういうところも余計に勉強することになって、へんに子供が洗脳されてっちゃうっていう部分が、多々あったんです。
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■4.「歴史人物の言葉そのものに触れるっていうのは生徒の琴線に触れる」

 それに対して、「歴史人物の言葉そのものに触れるっていうのはやっぱり、生徒の琴線に触れるっていうか、すごく効果があると思います。とてもいい感想書く子が多くて、私も実施してみてびっくりしたところなんですね」と、この先生は述べています。

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 教科書の記述では、空海とは真言宗を作って、お寺はどこで、みたいな、そんな話ぐらいで具体的な話はもうほとんど出てない。

 ところが、歴史人物学習館で空海を調べた男の子は、空海がこんなことをしたとか、こんな失敗があるとか、あんまりこういうことはうまくできなかったとか、いろんなエピソードを知ることになるんですね。

 で、そのことでかえって非常に親近感が湧いて、それでも頑張ってた空海に、とても共感を覚えるなんて言う感想を書いてる子もいるし、自分もあの空海みたいに何事にもチャレンジしていけるような人間になりたいとか、一つ人生の指針っていうんですかね、そういったものを得られてる。・・・[JOG(1302)]

 今までやってきた、図書室の本を借りて、ちょっと自分で調べるという既存の調べ学習では得られないような効果が、あちこちに見られてます。ですから、非常に何か今までにないような勉強ができるんじゃないかなというふうに感じてるんですね。
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■5.「来年も、先生やるの」「来年もやろうと思ってるよ」

 この先生は生徒の反応も語ってくれました。
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 授業って立て込んでまして、あまり余裕がなかったんですね。で、何か課外的なものでできないかなと考えたところ、たまたまなんですけども、冬休みが迫ってきていて、ここで一つ冬休みの宿題にしたらどうかなと思ったんですね。

 普段冬休みは短いですし、ちょっとのんびりしたいところもあるでしょうから、あんまり冬休みに宿題を出すってことはしたことなかったんですけど、ちょっとサイトを見て感想を書くってことですから、そんなに大きな負担にはならないだろうと。で、冬休みの宿題をこの感想文祭りにあてたんですね。

 ただ外部に出すものなので、保護者に「参加します、しません」ていう参加承諾も取るんですが、かえってそれがよくて、親御さんも、結局その参加承諾を書くにあたって、子どもの書いたものに目を通すんですよ。

 それがとても大事でね、この親御さんと子供との間の「ああ、うちの子はこんなふうに思ったのか」と言うことを知ってもらうってことも、二次的な効果でよかったな、なんて思うんですね。

 また図書カードをもらえるっていうので、結構子供のやる気が出る。「ただ提出して、はい終わり」とか、または「入選するとボールペンがもらえるよ」とか、「ファイルがもらえる」とかって、それだとあんまり盛り上がらないですね。やっぱり図書カードって、大きいかなと思いましたね。まあ、千円程度ですけども、子供にとっては非常に嬉しいところですね。

 子供の反応も、やっぱり非常によくて、表彰もちゃんと朝会でやってもらったんです。それで、選ばれた子には、みんなが「いいな、いいな」って、「図書カードもいいな」って。「来年も、先生やるの」「来年もやろうと思ってるよ」みたいなね。とてもやる気が出てますね。
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■6.地理教育、歴史教育の目的は「人間形成」

 冒頭の東京都の先生は、地理の時間に、歴史人物学習館の間宮林蔵のページを使って導入講義をし、たとえば、樺太が島であることを発見したことにどんな意味があるか、と発問すると、生徒たちは話し合って「樺太がロシアと陸続きだったらロシア領にされてしまうけど、 島だったら日露間で交渉できる余地もある」というようなことも言ってくれたそうです。

 最後に感想文を書いてもらうと、「僕も間宮林蔵のように、日本の為に努力しようと思う」と書いた生徒がいました。[JOG(1299)]

 この先生は、結びで山口幸男という地理学者の言葉を引いて、こう語ってくれました。

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 地理教育と地理学は目指すところが異なっており、両者は本質的に別個のものである。・・・地理という素材、考え方を生かして児童生徒の人間形成を図っていくこと、すなわち教育して行くことが地理教育であり、その目的は人間形成にあると、これはまさに歴史教育でも同じことが言えるのではないかと思っております。

 歴史、つまり、その中には人が生きてますから、歴史人物という素材、それから考え方、生き方を通して人間形成を図っていくというのが、歴史教育の目的にもなろうかと思います。

 もう一つこのような言葉もあります。戦後の学会レベルにおける地理教育研究、社会科教育研究は、日本、日本国家、日本国民という主体性を忌避し、欠落させてきた。日本における日本国民のための地理教育である限り、日本の主体性に立脚した自立教育でなければならないのは当然である、と言ってるわけですね。これも深く歴史教育にも同じことが言えるのではないかと思います。・・・

 歴史教育がめざしていくものを最後、私なりに整理しました。先人が守ってきた国土や歴史に感謝し、我が国の国土や歴史に対する愛情を育てる。これが国民意識の芽生えだと思います。そして、その国民意識が形成されることで祖国愛、そして国防意識が芽生えて、持続可能な国家社会の形成者としての自覚が持てるのではないかと思っております。
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「国家社会の形成者」を育てるとは、学習指導要領で中心に置かれている教育の目標です。何のガイドも与えずに「面白そうな人物を調べなさい」とか、「聖武天皇が東大寺を作りました」程度の知識の詰め込みでは、この目的とはほど遠いことは明らかです。

■7.「生徒の心の中に志の火を灯せる授業を実施し続けていきたい」

 3人目の横須賀市の中学の先生も、人間形成について語ってくれました。この生徒は、戦前の台湾で東洋一のダムを作って、台湾南部の百万人の農民の暮らしをよくした八田與一(よいち)を取り上げました。[JOG(1306)]

 生徒の感想を紹介して、こう言われています。

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 八田さんについての動画を見たとき、第一に思ったことは「こんな人になりたい」です。私は私生活でも人の手助けや手伝いを積極的に行っています。ですが、自分にとっての「鏡」となる存在がいませんでした。今回、その「鏡」となる人物を見つけられたので、それに向かって走り続けたいと思います、という感想です。

 日本人は歴史を鑑と呼びました。鎌倉時代の歴史物語でしたら『吾妻鏡』とか、『今鏡』とかあります。あの生徒はそういった言葉を知らないはずだったんですけれども、素直な心の中から「鏡」っていう存在が出てきたっていうのが非常に大きいなあっていうふうに思いました。
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「歴史を鏡」と捉える考え方は、「歴史を通じて、己の生き方を見つめる」ということで、人間形成につながります。現代の歴史学では全く無視されている考え方でしょうが、歴史教育では重要な柱なのです。
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 歴史上の人物の志に触れることで、生きる意欲や勇気を持って行動したいという感想が多く見られました。高校入試の面接練習を校長と教頭が実施してるんですけれども、その際に「学校の授業では歴史の授業が印象に残っている」という生徒が多くいましたと校長と教頭から言われて、ちょっとびっくりしたんですけども、やってよかったな、というふうに思いました。

 心に響く授業が子供達に必要で、それがやっぱり(心に)残るっていうのが私にもわかった感想でした。

 これからも受け持つ生徒たちには、必ず歴史人物学習館を利用した感想文祭りに取り組ませ、感激する心を育み、歴史から学ぶ楽しさを実感させたいと思っています。自分自身がまず先人の生き様、志を一つでも多く学び、感動することで、生徒の心の中に志の火を灯せる授業を実施し続けていきたいなあっていうふうに思っています。
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 教育基本法でも「主体的に社会の形成に参画」する人間を育てることが、目標の一つとされています。そのためには、知識の注入だけでなく、「生徒の心の中に志の火を灯」すことが必要なのです。

 そのためには、この3人の先生方に実践いただいたような歴史人物学習が正道だと、改めて感じました。

 歴史人物学習館では、本年、350人の賛助会員にご参加戴き、その賛助会費を持って、1万人の子供たちにこうした歴史人物学習を通じて、将来「主体的に社会の形成に参画」する国民に育つことを期待しています。ぜひ皆様のお力添えをお願いいたします。

賛助会員募集: https://rekijin.net/sanjyo_kaiin/
感想文祭りにご興味ある教員の方: info@rekijin.net にメールをお送りください。
(文責 伊勢雅臣)

■おたより

■歴史上の出来事を、その時代に生きた人々のリアルな物語としてとらえれば(夏子さん)

 私の友人に中学校の元先生がいて、教科は社会科ではありませんでしたが、私が日本の歴史の話をすると、熱心に聴いてくれます。

少し前に、東大寺の大仏に関連した、面白い動画を見つけたのでリンクを送ったところ、こんな感想をくれました。

「東大寺の仏像は、修学旅行の引率で何度も見たのに、歴史はあまり覚えていません。この動画にあるように、国民の半分ほどが従事し、今の何千億円というお金を使うどれだけ大きな出来ごとであったか、怒れる仏像のことなど知っていたら、みる気持ちが違っていたと思います。」

子供も大人も 、歴史上の出来事を、その時代に生きた人々のリアルな物語としてとらえ、それを自分に照らしたり重ねたりして見るようになると、うんと心のひだが深くなるなと実感しました。

■伊勢雅臣より

「その時代に生きた人々のリアルな物語」として歴史を捉えるのが、まさに歴史人物学習ですね。それは我々が生き方を学ぶための正道です。

■リンク■

・JOG(1311) 歴史人物学習が育てる「共同体感覚」~ 歴人(歴史人物学習館)便り(4)
 先人に対して「共同体感覚」を抱くことで、生徒は人格的に健全に成長していく。
【YouTube版】https://youtu.be/rfNtWf1sudo
ブログ版】   https://note.com/jog_jp/n/nd8d99215d954

・JOG(1306) 中学生たちは八田與一の物語で心を磨いた ~ 歴人(歴史人物学習館)便り(3)
 台湾の人々と力を合わせて、戦前、東洋一のダムを作りあげた八田與一の物語は歴史教育だけでなく、道徳教育にも有用。
【YouTube版】https://youtu.be/rfNtWf1sudo
【ブログ版】
   https://note.com/jog_jp/n/n7cbf969fd90b

・JOG(1302) 中学生の素直な感性が古代人物を蘇らせた ~ 歴人(歴史人物学習館)便り(2)
 歴史教科書では単なる暗記用人名に過ぎない古代人物たちを、中学生たちは、悩み苦しみつつも自分たちに功績を残してくれた人々として思い描いた。
【YouTube版】https://youtu.be/8R9CdNVAn6A
【ブログ版】
   https://note.com/jog_jp/n/n736f281000ef

・JOG(1299) 歴人便り(1): 「歴史人物学習館」始動 ~ 樺太探検家・間宮林蔵の生き様に中学生たちが感動
「新しい事に逃げずに挑戦する」「根気よく物事に取り組む」「将来の目標をもつ」、、生徒それぞれが自分の足りない面を見つめた。
【YouTube版】https://youtu.be/QDCAYDmOCNU
【ブログ版】   https://note.com/jog_jp/n/n7a8f9e78fcff


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