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JOG(1306) 中学生たちは八田與一の物語で心を磨いた ~ 歴人(歴史人物学習館)便り(3)

 台湾の人々と力を合わせて、戦前、東洋一のダムを作りあげた八田與一の物語は歴史教育だけでなく、道徳教育にも有用。


■1.「小学校1年生に道徳の時間で八田與一を教えている」!

「小学校1年生に道徳の時間で八田與一を教えている」と、小学校教師から聞いた時、心底、驚きました。八田與一は戦前の台湾で東洋一の巨大ダムを作り、「100万人ほどの農家の暮らしを豊かにしたひと」(李登輝・元台湾総統)[JOG(216)]です。その人物の話を聞いて、小学校1年生でも「すごい人がいたんだ!」と感動するそうです。

 小学1年生に八田與一の凄さが分かるとは、思いもよりませんでした。しかし、歴史はまだ習っていなくとも、人物が織りなすドラマは小学1年生でも分かります。歴史人物学習は、道徳にも効果的なのですね。

 今回、歴史人物学習館の「第3回感想文祭り」として、横須賀市の中学3年生140人が八田與一のページでお勧め動画/記事を視聴し[八田]、感想文を書きました。うち28編を優秀作品として歴史人物学習館の感想文ページで公開しました[感想]。これらを読むと、確かに八田與一の物語は歴史学習だけではなく、道徳教材としても優れたものであることがよく分かりました。

 なお、この28名に優秀賞として表彰状と500円図書カードを贈呈しました。図書カードの費用は、賛助会員として3千円/年をお納めいただいた中から支出しています。皆様のお志が、次世代の日本国民の育成に、このように役立っています。まだ、賛助会員のお申込をいただいていない方には、ぜひご参加、ご助力をお願い申し上げます。

歴史人物学習館 賛助会員申込み => https://rekijin.net/sanjyo_kaiin/

■2.「支えあえる人との信頼が苦難を乗り越え、偉大なことを成し遂げる」

 まず、中学生たちが最も感動したのは、東洋一のダムを作るという偉業は八田與一と台湾の人々の間に良き信頼関係があったからできた、という点です。

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 台湾の人々は八田與一さんが考える以上に八田與一さんのことを信頼し、ダムを完成させると思っていたのです。今までは八田與一さんが引っ張っていると思っていましたが、今度は台湾の人々が八田與一さんを引っ張ったところを見て、お互いは対等の立場で信頼し合っているんだと気づきました。
 支えあえる人との信頼が苦難を乗り越え、偉大なことを成し遂げると私は学びました。(女子)
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 ダム建設の最中には、トンネル掘削中に石油ガスが噴出して爆発し、50人もの作業者が亡くなるという事故もありました。この事故で、次のような感想を持った生徒もいます。
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 建設から2年目で起こった石油ガスの爆発事故では計五十人の作業員が亡くなられました。それを知った時、私は他に働いてる人たちはこれを機にやめてしまうのではないかと思いました。ですが、実際にやめてしまいたいと思ったのは八田さんだけであり、逆に働いている人々は将来の台湾の為に作業を続けたいと言っていたそうです。
死者が出るほど危険で大変な作業を続けたいと思わせてくれた八田さんは、台湾に愛された日本人という名が最もふさわしい人物だと思いました。(女子)
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 石油ガスによる爆発事故は本当に不幸だったとしか言えません。八田さんが工事を辞めたいといったときの気持ちはすごく理解できます。しかし、遺族の方の言葉に励まされ、「君たちの死をオレは絶対に無駄にはしない」と言った八田さんの言葉には、胸を打たれました。
 その後、月日が経ち、東日本大震災が起こった際には台湾が真っ先に日本へ駆けつけ、支援してくれたことは本当に感動しました。これらも含め、八田さんの活躍があったからだと思います。(女子)
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 困難を乗り越えるためには、人々との信頼と協力がいかに大切か、ということを、八田與一の物語は史実を通じて語っているのです。

■3.「この人は人々のダムだ」

 数千人の農民と力を合わせる、これだけの人間が一つになって力を合わせる様を、こんなふうに表現した生徒もいました。

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 私は八田與一という人のことを調べてみて、この人は人々のダムだと思いました。
 私はダムの水のようにバラバラなところにいた多くの人々を與一は水を出し入れするかのように動かし、水を発電に使うかのように上手く能力を活用してできたのが、このダムだと思いました。(女子)
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 さらに、東洋一のダムは、八田與一の生き様そのものだ、と語る生徒もいます。
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「八田與一」彼の生き方がとても美しいと思う。強い信念を持ち、個々を大切な存在として扱った。平等に、対等に、真摯に向き合ったからこそ、東洋一とも言われる巨大ダムが完成したのだと思う。私はそのダムこそが彼の生き様であり、台湾の人々との絆でもあると思った。そしてその絆は今も続いている。(女子)
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■4.「仲間のこと、家族のことを大切に思っているからこそ台湾の人々も八田さんを信じてついてきてくれてた」

 八田與一が、台湾の人々との強い信頼関係をいかに築いたかについて、何人もの生徒が感想を書いてくれました。
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 現場に住み込みで働き、作業員そして家族二千人が住めるよう学校や病院まで作るという行動力にとても驚きました。また八田さんは自分の子供達を台湾の子供達と一緒に学校に通わせるなど、台湾の人々との人間関係を大切にしていた事がよくわかりました。このような八田さんの行動は台湾の未来を変えたと言っても過言ではないと思いました。(女子)
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 まず私が驚いたのは與一さんの「よい仕事は安心して働ける環境から生まれる」という考えから、宿舎だけでなく、学校や病院など、豊かな畑を超えて豊かな町づくりへと目標が大きくなり、実際に作り上げてしまっているということです。
 與一さんはいまもなお誰かの記憶にあり、(伊勢注:蒋介石政権により)日本人の銅像が回収されていく中、人々に守られていました。これは與一さんがダムを作ったからではなく、台湾人たちに寄り添った結果だと感じました。(男子)
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冒頭写真 ellery - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8750375による

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 八田さんは東洋一の巨大なダムを作り、台湾を生まれ変わらせました。そして今もなお、台湾の人々から尊敬され、台湾と日本を繋いでくれています。私はそんな偉業を成し遂げられたのは八田與一さんの考え方に理由があると思います。
 八田さんが残した言葉を見ると、仲間のこと、家族のことを大切に思っていることが分かります。そんな八田さんだからこそ台湾の人々も八田さんを信じてついてきてくれてダム作りを成功させることができたと分かりました。(女子)
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 こうした八田與一の姿勢は、台湾の人々の間に、「感謝し合う」関係を築きました。ある生徒は、こう語っています。
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 感謝し「合う」ということの大切さを、私は八田與一さんから学びました。
 八田與一さんは自分に協力し、自分のもとで働いてくれる労働者に感謝していました。そしてその感謝から、労働者にとって安心して働くことのできる環境をつくったのだと思います。また、労働者たちもそんな八田與一さんに感謝をしていたからこそ、厳しい環境の中で最後まで協力したのだと思います。人と関係を築いていく上ではお互いがお互いに感謝をすることが大切です。(女子)
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 仲間を大切にしてこそ、相手も応えてくれる、互いに感謝し合える関係も作れる。その結果、大きな偉業も残せる。これはまさに道徳の徳目です。

■5.「外国のために尽力するというのはすごいこと」

 特に八田與一が台湾の人々と、民族の違いを乗り越えて力を合わせた点を、生徒たちは「すごい」と感じていました。

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 すごいと思ったのは、このような大規模工事の指揮を母国でもない国のためにとり、豊かにさせたということです。日本国内も不安定な状況であったにもかかわらず、外国のために尽力するというのはすごいことだと感じました。
 私は今回の学習で八田さんの凄さを感じました。人種差別をせず、台湾のために生きた八田さんのように、周りを気遣える人が世界にはもっと必要だと感じました。同時に私は八田さんのような人間になりたいと思いました。(男子)
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 私は、この話を通して、歴史上の人物を知ることで、国どうしの繋がり、今の世の中に必要なことが分かると思いました。国どうしの繋がりという点では東日本大震災では台湾からの支援がありました。これは台湾の人々からの「恩返し」に思えました。
今の世の中に必要なことという点では、八田與一の「差別をしない」「どんな人でも平等」にする人柄にあると思いました。この二つのことから、私が世界に伝えることは「国や人種関係なく人助けすることは自分に返ってくる」ことです。(男子)
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 グローバル化、国際協力などという抽象的な掛け声だけでなく、実際に民族の違いを乗り越えて、台湾農民と力を合わせた八田與一の物語こそ、生徒たちに真の「国際派日本人」の姿を教えるものであったでしょう。

■6.「八田與一さんが残してくれた日本と台湾の信頼をこれからも大事にしていきたい」

 先の東日本大震災でも、台湾は先陣を切って大規模な支援をしてくれましたが、その陰には台湾と日本の強い絆があり、八田與一の事跡もその大きな一因となっていることを生徒たちは学びました。
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 八田與一さんが台湾の方々から慕われているのは、功績以外にもあると気が気づきました。国境を越えて思いやるという八田與一さんの行動は人々に敬われるべきものだと思いました。八田與一さんが残してくれた日本と台湾の信頼をこれからも大事にしていき、誰もが国や世代に関係なく人を想う心を持って、あたたかい世界になれたらいいなと思いました。(女子)
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 私は八田與一さんが台湾に残した功績を学び、人に感謝する気持ちは世界共通なんだと感じました。
 当時、台湾は日本の統治下にあったわけですが、現在でも八田さんの追悼式が行われたり、日本と友好関係を築き続けてくれる台湾を見て、どんな状況にあっても人々の助けになることを続ければ、その分遠い未来までも感謝し続けてもらえるんだなと感じたお話でした。(女子)
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 これこそ、理想的な国際交流でしょう。

■7.真の深い学びとは

 ちなみに、現在の中学歴史教科書が八田與一を記述しているか、調べてみますと、8社中3社が記述なし、3社が数行のコラムなどで紹介。人物として、その苦闘ぶりを記述しているのは育鵬社、自由社のみでした。噴飯ものは教育出版で、「歴史の窓 台湾の植民地化」というコラムで、まずこう台湾統治を記述します。

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下関条約によって,日本は台湾を植民地とし,総督府をおいて約50年にわたつて統治しました。鉄道、ダムの建設や,産業の発展を図る一方で,日本の支配に反対する台湾の人々の運動を厳しく取りしまりました。しかし,日本からの独立を求める運動は,その後も長く続きました。[教育出版、p189]
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 この直ぐ横に、「台湾の鳥山頭ダムの建設に力を尽くした八田與一の像」と説明した写真をつけていますが、それ以外の説明はありません。これでは生徒たちは、八田與一は植民地支配の一環としてダム建設をした人間と捉えてしまうでしょう。

 八田與一の苦闘ぶりをしっかり辿れば、台湾統治に関しても、次のような感想も出てくるのです。
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 植民地と言えば、命令に従わなければならないし、自由や大切なものまで奪われてしまうようなものだと認識してきたが、日本による台湾の植民地化はそうではないことに気づいた。また、見下ろすような像にだけはしないでほしいと言った八田さんの言葉から、すごいことを成し遂げても慢心したり、人の上にはたとうとはしない欲がない性格だったことが分かった。(女子)
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 このように歴史人物を通じて史実をありのままに学べば、上述の教科書記述がいかに一面的、概括的なものか、分かるでしょう。こういう思想誘導型の教科書で学んでいる生徒たちにこそ、歴史人物学習で精確に史実を学んで欲しいと思います。

 また道徳の教材としても、「人に親切にしよう」とか「差別はやめよう」などと抽象的な徳目を学ぶよりも、次のような「深い学び」ができるのです。
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 八田さんについての動画を見たとき、第一に思ったことは「こんな人になりたい」です。
 私は私生活でも人の手助けや手伝いを積極的に行っています。ですが、自分にとっての「鏡」となる存在がいませんでした。今回その「鏡」となる人物を見つけられたので、それに向かって走り続けたいと思います。(男子)
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 八田與一を「鏡」として、自分が日常生活で問題にぶち当たった際には、「八田與一ならどうする?」と自問する事ができます。単に「人に親切にしよう」などと抽象的な徳目を覚えるよりも、はるかに自分の生き方に根ざした学びとなるでしょう。

 歴史教育においても道徳教育においても、歴史人物学習は、これほど深い学びをもたらすのです。あなたが歴史人物学習館の賛助会員となっていただければ、毎年3千円の賛助会員費で、30名の生徒をこういう深い学びに導けます。明日の日本を支える国民を育てるために、ぜひご支援をお願い申し上げます。

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(文責 伊勢雅臣)

■おたより

■生徒たちの成長こそ教師のやりがい(Naokiさん)

 中学校教師の労務環境はあまり良いとは言えませんし、働き方改革もなかなか進まない現状から、教員不足・ブラック校則などメディアではあまり良いイメージでは捉えられておりません。

 しかし、今回の授業での感想文のように中学生は瑞々しい感性をみんなが備えていて、本物の人物・生き方に出会うことで、確実に成長します。

 授業中の真剣な眼差しを一番近くで、Liveで、体感できるのは中学教師だけの喜びであり、やりがいです。そこにこそ、中学教師としての矜持を感じます。

■伊勢雅臣より

 こういう教師を後押しするのが、国民の責務です。読者の皆さんもぜひ歴史人物学習館の賛助会員として、学校の先生たちへの後押しをお願いいたします。

歴史人物学習館 賛助会員申込み => https://rekijin.net/sanjyo_kaiin/

■「もし自分だったらどうする」と想像するのが歴史教育(智子さん)

 今回の八田與一さんのエピソードもそうですが、子どものこころに響く歴史上の人物エピソードをもっとたくさんの子供たちに知ってほしいと思います。

 学校で使う歴史の教科書はわかっている人が誰からも文句がつけられないようなあたりさわりのない事実を並べていて、正直つまらない。というか、歴史を学ぶことの魅力がそこからでは感じられない気がします。

 歴史上の人物、直接会うことはできないけれど、その人の生き方や思いを知って、「ふーんそういう人なんだ」と身近に感じられたとき、自分はその時代にいるような気になって、「もし自分だったらどうする」などの想像を働かせて楽しくなるのかなと思います。

 自分の生き方や人生にも何かつまずいたときに支えになったり、道の選択に参考になったり、ひいては日本という国の進むべき道を考える礎になるように思うのです。


■伊勢雅臣より

 NHKの今年の大河ドラマ『どうする家康』も、「もし自分だったらどうする」という想像を働かせながら、視聴できる歴史劇ですね。こういう形の歴史教育がもっとも効果的だと思います。

■リンク■

・日本志塾YouTube学園「歴史教育再生プロジェクト ~ ここが変だよ!歴史教育」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLnYMaJS6V450xRRdW7erazxdr4wP1yzwB

・JOG(216) 八田與一 ~ 戦前の台湾で東洋一のダムを作った男
 台湾南部の15万ヘクタールの土地を灌漑して、百万人の農民を豊かにした烏山頭ダムの建設者。
YouTube版: https://youtu.be/MGPlNbbr5Mg
ブログ版: http://jog-memo.seesaa.net/article/490131304.html

・歴史人物学習館「八田與一」
https://rekijin.net/hatta_yoichi/

・歴史人物学習館「感想文祭り 第3回(八田與一、中三、横須賀市R050211)
https://rekijin.net/kansou_hatta_yoichi/

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