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JOG(884) 国際社会は嘘ばかり ~ 北野幸伯『クレムリン・メソッド』を読む

アメリカ、中国、ロシア等々、それぞれが自国の戦略に沿ったプロパガンダで国際社会を騙している。


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■1.中国の「平和的台頭」という嘘

 2010年に起きた尖閣諸島における中国漁船体当たり事件は、日本中を震撼させたが、その2年前に「尖閣諸島から日中対立が起こる」ことを予測した識者がいる。本誌にもたびたび登場いただいているモスクワ在住の国際関係アナリスト北野幸伯氏である。

 氏の最新著「日本人の知らない『クレムリン・メソッド』世界を動かす11の原理」[1]では、なぜそういう予測ができたかの種明かしをしている。

 それは簡単なことで、「アメリカが撤退した後に、中国が何をしたのか」に関する事実を見てみればすぐに分かるという。

(1)1973年にアメリカは南ベトナムから撤退。翌1974年1月、中国は西沙諸島の南ベトナム実効支配地域に侵攻し、占領。その後、同諸島に滑走路や通信施設を建設。

(2)1992年、アメリカ軍はフィリピンのスービック基地、クラーク空軍基地から撤退。1995年1月、中国はフィリピンが実効支配していた南沙諸島ミスチーフ環礁に軍事監視施設を建設し、そのまま居座った。

■2.『国益』のために国家はあらゆる『ウソ』をつく

 中国は口先では「平和的台頭」などと言っているが、「国益のために、国家はあらゆるウソをつく」というのが、国際社会の原理であり、それを見破るためには、「真実は、言葉ではなく行動にあらわれる」というのが、氏の考え方だ。

 中国の「平和的台頭」に呼応するように、日本国内でも「沖縄に米軍基地はいらない」「平和憲法を守っていれば戦争は起きない」などと言う人がいまだにいる。そういう嘘に騙され続けたら、我々の子孫はベトナムやフィリピンのみならず、チベットやモンゴル、ウィグルのような目に逢うかもしれない。

 それを避けるためには、こういう嘘を見破るだけの見識を我々は持たなければならない。

 北野氏はロシアの外交官や情報員を養成するモスクワ国際関係大学を日本人として初めて卒業しており、国際政治の嘘を見破る方法を今回「クレムリン・メソッド」として説いている。そのさわりを紹介したい。

■3.「世界のすべての情報は「操作」されている」

 前節の「国益のために、国家はあらゆるウソをつく」というのが、クレムリンメソッドの第7の原理だが、それに続く第8の原理が「世界のすべての情報は操作されている」だ。

 世界にはいろいろな「情報ピラミッド」があり、その国の国民や世界に対して、都合のよい情報を流すというプロパガンダを行っている。

「米英情報ピラミッド」では、「米英に都合のよい情報」が流される。

「中共情報ピラミッド」では、「中国共産党政府に都合のよい情報」が流される。

「クレムリン情報ピラミッド」では、「ロシア政府に都合のよい情報」が流される。

 日本人は「米英情報ピラミッド」しか知らないので、そのプロパガンダに騙されやすい。しかし、たとえば、「クレムリン情報ピラミッド」がどんな情報を流しているか調べてみれば、両者の食い違いから、世界の実態がよりよく見えてくる。

 一例として、2014年3月のロシアによるクリミア併合を取り上げれば、欧米そして日本では「ウクライナ領クリミア自治共和国とセヴァストポリ市を、ロシアが武力を背景に併合した国際法違反」と言われている。

 しかし、クレムリン情報ピラミッドでは「クリミアは1783年から1954年までロシアに属していたロシア固有の領土」であり、「クリミアで住民投票が実施され、97%がロシアへの編入を指示したから」と一蹴する。

 そして「欧米は2008年、コソボ自治州がセルビアから一方的に独立するのを支持したではないか? コソボが合法なら、なぜクリミアは違法なのか?」と反論する。

 こうした二つの対立する「情報ピラミッド」を比較すれば、その矛盾から、どちらが嘘をついているか、見えてくる。これが北野氏の強みであろう。

■4.「世界の『出来事』は、国の戦略によって『仕組まれる』」

「中共情報ピラミッド」から流されているのが、「日本の軍国主義復活」「日本は第二次大戦の結果を覆そうとしている」「日本は中国から釣魚諸島(尖閣諸島)を盗んだ」などというプロパガンダだ。北野氏は次のようなロシアからの報道を紹介している。

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 中国の著名な専門家は、中国と同様、日本と領土問題を抱えるロシアと韓国に対し、反日統一共同戦線を組むことを呼びかけた。(中略) 郭氏(上記の専門家)は対日同盟を組んでいた米国、ソ連、英国、中国が採択した一連の国際的宣言では、第二次大戦後、敗戦国日本の領土は北海道、本州、四国、九州4島に限定されており、こうした理由で日本は南クリル諸島、トクト(竹島)、釣魚諸島(尖閣諸島)のみならず、沖縄をも要求してはならないとの考えを示した。[1,p294]
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 中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは1971年であり、第2次大戦とはまったく関係がないので、上記の主張は完全な嘘である{C]。おそらく言っている本人も、そんな事は百も承知だろう。知っていながら、平然と嘘を流すのがプロパガンダである。

 しかも、中国は尖閣諸島だけでなく、沖縄への野心を持っていることをこの発言は示している。尖閣と沖縄を中国が握れば、中国海軍は太平洋に自由に侵出できるようになり、米軍はグアムまで後退して、西太平洋は「中国の海」となる。

「中国の海」に浮かぶ日本列島は、資源輸入のシーレーンを支配されて、中国の属国とならざるをえない。中国は日本の富と技術を自国のために使えるようになる。そうすれば、アメリカにも十分対抗できる覇権を確立できるのである。[a,b]

「世界の出来事は、国の戦略によって仕組まれる」とは、クレムリン・メソッドの第9の原理である。中国漁船体当たり事件も中国の太平洋侵出という戦略の一環である。

■5.「戦争とは、『情報戦』『経済戦』『実戦』の3つである」

 続く第10の原理が「戦争とは、情報戦、経済戦、実戦の3つである」。武士道の伝統を持つ日本は、戦争と言えば、武器を持って戦う戦闘という先入観がある。その「実戦」の前に、相手を周囲から孤立させる「情報戦」、相手の経済力を弱める「経済戦」がある。孫子を生んだ中国人は「戦わずして勝つ」ことを目指す「情報戦」が得意である。

 北野氏は、先の大戦での我が国の敗戦は、日本が孤立してアメリカ、イギリス、中国、ソ連と戦った点にあるとして、その起点を1932年11月、「満洲国問題」を検討する「国際連盟理事会」に求める。

 この理事会で中国側代表は、すでに「偽書」と判明している「田中メモリアル」の有名な一節を読み上げた。1927年に当時の田中義一首相が天皇陛下に上奏した、とする偽文書である。

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 シナを征服せんと欲せば、先ず満蒙を征せざるべからず。世界を征服せんと欲せば、必ず先ずシナを征服せざるべからず。
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このプロパガンダが奏功して、翌1933年2月の国際連盟総会では満洲国建設の是非に関する採決が行われ、42カ国が反対、賛成は日本だけ。激怒した日本は国際連盟を脱退した。この後、日本は中国全土で「日貨排斥」という経済戦争を仕掛けられる。[d]

 現代中国の仕掛ける「南京大虐殺」「日本軍国主義」「靖国参拝」「魚釣諸島」など対日批判は「情報戦」であり、日本企業をターゲットにした暴動やキーマテリアルの対日禁輸は「経済戦」である。戦前も戦後も中国のやる事は変わらない。「戦争はもう始まっている」と北野氏は指摘する。

■6.慰安婦問題は中国の対日情報戦の傑作

「慰安婦」問題も中国の仕業で、表だって動いている韓国は「中国の操り人形」だと、米国の著名なジャーナリスト、マイケル・ヨンが指摘している。

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 グレンデール(JOG注: 慰安婦像が建てられた米国の市。日系市民を中心に像撤去の裁判を起こしている)で起きた裁判の訴状を見ると、グローバル・アライアンス(世界抗日戦争史実維護連合会)が姿を見せています。この組織は在米中国人を中心とし、中国政府との協力も密接です。慰安婦問題ではこの中国の動きこそが核心なのです。[2]
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 マイケル・ヨン氏は、米政府が8年もかけた日独の戦争犯罪に関する調査で、日本の戦争犯罪に関する14万2千ページの未公開・秘密公文書でも慰安婦の強制連行を裏付ける史料は一点も発見されなかった事を指摘している。[3]

「慰安婦」問題は、次の目的にかなう情報戦の傑作である。

  • 韓国内の反日運動を盛り上げ、同時に日本国内でも執拗な韓国の執拗な攻撃に反韓ムードを盛り上げる。

  • 米国で日本の「戦争犯罪」をアピールし、日米関係にひびを入れる。

 すなわち「慰安婦」攻撃は、韓国を中国陣営に引き入れ、米国を日本から遠ざけ、日本を孤立させるための「情報戦」なのである。

■7.「『日本』情報ピラミッドは存在しません」

 こういう中国の「情報戦」にどう応戦するか。「慰安婦」問題については、河野談話の検証がなされ、日本軍が強制連行したという事実は一切、見つかっていない事が再確認された。自ら「慰安婦強制連行をした」という吉田清治の証言が嘘であったことを、朝日新聞もようやく認めた。

 上記のマイケル・ヨン氏の紹介した米政府調査とあわせて、今後、日本政府や民間が粛々と事実を発信していけば、「慰安婦問題」はプロパガンダだったということが判明するだろう。

 ただ、これは「慰安婦問題」という「中共情報ピラミッド」からの攻撃の一つをかわしたというだけで、防戦だけでは勝てない。北野氏も「『日本』情報ピラミッドは存在しません」[1,p260]と言っているが、情報戦においても「専守防衛体制」しか、持っていない点が、我が国の最大の弱点なのである。

 日本情報ピラミッド、それもプロパガンダではなく、事実と良識に基づいて、国際社会が共感、納得できるような歴史観、世界観を発信する必要がある。こうした日本情報ピラミッドによって、日本人も世界の人々も、中共情報ピラミッドの嘘を見抜けるようにすることが、情報戦争に勝ち、中国の属国に転落する道を避ける戦略である。

■8.「日本の自立」は、『私の自立』からはじまる

 日本情報ピラミッドのひな形はすでにある。それは「日本はソ連や中共の全体主義の防波堤として戦ってきた」という史観である。
これはアメリカ共和党陣営の中で脈々と伝えられている「第2次大戦でアメリカは戦う相手を間違えた」という史観に通ずる。

 現在の「アメリカ情報ピラミッド」は民主党系のマスコミが握っているので主流にはなっていないが、第2次大戦中の資料の公開が進み、次第にこの史観が力を得ている。

 すでに弊誌で何回か紹介したが、そのあらましを述べれば、

(1) ルーズベルト政権内にソ連スパイが多数潜入しており、ハル・ノートなどで日本に無理矢理、開戦させるように仕向けた[d]。(日本側でも、尾崎秀實らソ連スパイが日本と蒋介石を戦わせるよう世論工作をしていた[e])
(2) 日本敗北後も、米政府の中に、蒋介石の足を引っ張り、中国大陸が中国共産党の手に落ちるにを助けた人物がいた[f]。
(3) ソ連・中共は朝鮮半島全域の共産化を狙って朝鮮戦争を引き起こしたが、防波堤だった日本を破ってしまった事により、アメリカは直接、戦わねばならなくなった。[g]

 この史観から見れば、現在も日米同盟が中国に対する「防波堤」となっていることが容易に見てとれる。

この史観を、日本国民が自らの頭でしっかりと理解・納得していく事ができれば、現代日本を欺いている中共やアメリカの情報ピラミッドから自立できる。

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「日本の自立」は、『私の自立』からはじまる[1,P348]
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 北野氏は、これがこの本を書いた理由だと語っているが、まさに同感である。

(文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a.JOG(481) 中国、太平洋侵出の野望 ~ 西太平洋を「中国の海」に 日本を「中国の海」に浮かぶ孤島列島にするのか。
【リンク工事中】

b.JOG(641) 太平洋侵出を狙う中国の「悪の論理」
 米中で太平洋を分割管理する構想を中国はアメリカに提案した。

c. JOG(152) 今日の南沙は明日の尖閣
 米軍がフィリッピンから引き揚げた途端に、中国は南沙諸島の軍事基地化を加速した。
【リンク工事中】

d. JOG(116) 操られたルーズベルト
 ソ連スパイが側近となって、対日戦争をそそのかした
【リンク工事中】

e. JOG(263) 尾崎秀實 ~ 日中和平を妨げたソ連の魔手
 日本と蒋介石政権が日中戦争で共倒れになれば、ソ・中・日の「赤い東亜共同体」が実現する!

f. JOG(441)中国をスターリンに献上した男
   なぜ米国は、やすやすと中国を共産党の手に渡 してしまったのか?
【リンク工事中】

g. JOG(281) 金日成 ~ スターリンのあやつり人形
 スターリンは、朝鮮人のソ連軍大尉を伝説の英雄・ 金日成に仕立て上げ、朝鮮戦争を仕掛けた。
【リンク工事中】

■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け) 
 →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1.北野幸伯『日本人の知らない「クレムリン・メソッド」世界を動かす11の原理」★★★、集英社インターナショナル、H26
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4797672811/japanontheg01-22/

2.マイケル・ヨン、古森義久「慰安婦問題はフィクションだ」、『Voice』、H27.23.産経新聞、H28.11.27「米政府の慰安婦問題調査で「奴隷化」の証拠発見されず…日本側の主張の強力な後押しに」http://www.sankei.com/world/news/141127/wor1411270003-n1.html

■おたより■

■日本発の世界観を我々が建設しなければならない(犬飼裕一さん)

 今回の北野さんの議論を踏まえた記事に感銘を受けました。
 要点は、日本情報ピラミッドがまだ未成立であること。
 そして、その核は共産主義の蔓延に対する防波堤としての日本の責務。 
 そしてアメリカ共和党の中枢に受け継がれている歴史観との連携。
 まったく賛成です。
 ただ、ここまでで仕事は半分で、あと遠大な半分が残っています。つまり、では、どうやって日本発の世界観、歴史観を打ち立てていくのか。
 ここでいきなり難しくなってくるのは、いままでアメリカ民主党(ルーズヴェルト)・中共史観で押してきた朝日やNHKそのほかの左翼・共産主義史観をたたいて非難していればよかったのが、今度はわれわれの独自の立場を問われることになってしまうからです。いうならば、ボールがこちらのコートに打ち返されてしまう。
 まさにこれが小生も日ごろ苦闘している問題で、単に左翼たたきではない保守の理念をいかに建設するのか、いかに世界中の人々を説得できる世界観を、日本と日本人に、日本の歴史や伝統に結び付けるのか、まさにこの問題です。
 そして、それには単に経済や単に宗教、単に伝統だけではない、世界に愛される 日本を打ち出していかなければならない。
 ただ、好都合な条件はあります。
 それは、中国や手下の韓国がいくらプロパガンダに熱心で、いくら巧妙であっても実は世界中の人々に信用されていないという実情です。
 今の世界で中国を相手に金儲けをしたい連中は 、ヨーロッパやアフリカを中心にいくらでもいますが、心の底から中華人民共和国を尊敬する人はほとんどいない。
 これに対して、日本は逆ですね。北野氏が毎度強調するように、七十年の平和な歴史を築いてきた日本は、実は世界中に愛されている。
 まさにこの実績を世界に向かってアピールしつつ、同時に対立や紛争しか生み出さない、
 グローバル資本主義や共産主義とは別の日本発の世界観を我々が建設しなければならないのです。

■編集長・伊勢雅臣より

「日本発の世界観を我々が建設しなければならない」とは、全く同感です。そして、そのヒントは我々自身の歴史伝統の中に見つかるでしょう。これだけ立派な国を創ってきた歴史伝統ですから。

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