見出し画像

不可避に見えたバイデン交代〜トランプ暗殺未遂事件によって急転直下?〜

ジョウ・バイデンにとって散々だった討論会から2週間経っても収まらなかった「バイデン交代論」。もはやバイデン撤退は避けられないと思われていた最中、トランプ暗殺未遂事件が起こって状況は大きく変わった。ここでは、なぜバイデン撤退問題が急転直下の収束を迎えそうかについて解説する。


「バイデン交代論」の現状を簡潔にまとめると?

完全に鎮火された。前回の解説では「政界で一旦吹き始めた風は暴風になりやすく止めにくい」と分析したが、「バイデン交代論」という暴風は「トランプ暗殺未遂事件」という台風に吹き飛ばされてしまった。

バイデンの撤退を求めていた民主党の議員の反応は?

暗殺未遂事件があった7月13日(土)時点で、19人の民主党所属の連邦下院議員と1人の民主党所属の連邦上院議員がバイデンに撤退を求めており、その人数は3日間で急増していた。しかし、彼らは暗殺未遂事件が起こったことで当面この問題を持ち出すことができない空気になっており、新たに撤退を求める議員もピタリと止まった。

暗殺未遂事件に対するバイデンの対応は?

危機管理ほど大統領が大統領らしさを発揮できる場面はなく、バイデンは見事に時機を捉えたと言えるだろう。

暗殺未遂が起こった時にバイデンは地元のデラウェア州にいたが、彼は直ぐホワイトハウスに戻り、数時間以内に、関連当局から報告を受け、政治的暴力を非難する記者会見を行い、トランプと電話で会話した。

また翌日14日(日)には、昼間に記者会見を行っただけではなく、夜には大統領執務室(Oval Office)から国民に向けて演説を行った。

どれも"大統領らしい"行為であり、失言の指摘や認知能力への懸念は示されていない。

マスコミの反応は?

暗殺未遂事件以降、マスコミはバイデン交代論に対する関心を一切失った。

討論会があった6月27日から暗殺未遂の前日である7月12日まで、マスコミは毎日バイデンの言動1つ1つに注視しては認知能力の問題が表れてないか分析していたが、今は完全に暗殺未遂事件、具体的には銃撃者の動機に関心が移っている。

今後、バイデン交代論が鎮火されたままになる可能性はあるの?

暗殺未遂事件はバイデンが抱えていた次の三つの問題を一遍に解決したので、このまま交代論が消える可能性が極めて高くなった。

(1)マスコミの関心はもっぱらバイデンの健康

バイデンにとっての最大の問題は、討論会以降、毎日マスコミが自分の高齢と健康の話ばかりしていたことだった。いくら記者会見やインタビューをしても話題を変えることができず、11月の本選挙までその状況のままだと、改選を迎える連邦議員まで心中する恐れがささやかれていた。

バイデンの撤退しか焦点をバイデンの健康からトランプの非道に移す方法はないと思われていたら、トランプ暗殺未遂事件がバイデンの健康以外の焦点をもたらした。

(2)バイデンの雲隠れ

討論会以降表面化したのは、バイデンが表に出てくるイベントの数が過去の大統領に比べて異常に少ない事実であり、それはスタッフがバイデンの認知能力の低下を隠すためだったのではないかという疑惑が上がった。実際、暗殺未遂事件の前日にバイデンが行った記者会見は8ヶ月ぶりで、マスコミから「稀な単独記者会見」と揶揄されるほどだった。

しかし、トランプ暗殺未遂事件が起こって以降、バイデンは積極的に国民の前に姿を見せるようになり、雲隠れの批判が通用しなくなっている。

(3)「悪魔の証明」問題

討論会以降、バイデンはインタビューに応じたり決起大会の参加を増やしたりして高齢に対する懸念を払拭しようとしたが、どれも確定的に認知能力に問題がないことを示すには至らなかった。まさに「悪魔の証明」問題である。

だが、暗殺未遂事件という危機に正面から立ち向かうことで、バイデンは自分に認知能力の問題がないことを示せるようになっている。

では、バイデン交代論が再浮上する可能性はないの?

可能性がゼロでない理由は、そもそもバイデン交代論が広がったことに根拠があったからだ。

たとえば、バイデンは討論会での惨めな姿はあの場限りのものだったと主張しているが、ニューヨークタイムズ紙はバイデンの認知能力がこの数ヶ月間著しく低下していたと報道した

また、人気俳優であるジョージ・クルーニーは討論会の2週間前に2800万ドル(約45億円)の選挙資金を集めたイベントをバイデンのために主催したが、彼はそのイベントで見たバイデンと討論会で見たバイデンは同じだったと述べた。

よって、今後、インタビューや記者会見でバイデンが衰えを感じさせるようなことがあれば、バイデン交代論が再熱する可能性は否定できない。

で、結局のところ、バイデンが撤退する可能性はどれくらいあるの?

討論会直後は10%未満1週間後は30%と見積もったが、現在は3%未満だろう。

賭博市場では、バイデンが民主党指名候補になる確率が一時期30%台まで暴落していたが、今では60%台まで回復している。

実際問題として、民主党の党大会後にバイデンを交代させることは現実的ではない。党大会の開催日は8月19日である。バイデンからするとそれまで時間を稼げれば撤退しなくて済むわけで、暗殺未遂事件のほとぼりが数週間で冷めるとは考えにくい。

バイデン撤退問題は、まさに急転直下で収束しそうだ。

[注:この記事は2024年7月に自分のアメリカの政治に関するサイトに載せた投稿に微修正加えた上で再掲したものです]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?