見出し画像

「タコの介の浮きっぱなし7」将棋とヘラブナ釣りはまったく同じ頭脳ゲーム

■戦いはなかなか始まらない

「ここは考えたいところです」
と解説者言う。なんの解説かというと、将棋の解説だ。その考える時間が1時間をこえる。

このように、聞き手と解説者がいるならまだ分かる。だが、解説者もなく、ただ対局だけが延々と無言で流れる。

対局者はこの間、膝を崩したり、お茶を飲んだり頬杖をついたり、ときおり駒台の駒を触ったり、腕を組んで身体を前後に揺すったりして、時間が過ぎるのをじっと待つ。そして、とうとう席を外す。それでも、手番の棋士は指さない。

「早く指せよ!」
タコの介は画面に向かって怒鳴ったりする。こんな失礼な番組があるだろうか。これがAbemaTV。これをタコの介は横目でチラチラ見ている。見る人はいるんだ、自分のように。

そんな呆れた対局を見ているうちに、タコの介ははたと気づいた。どこかでこの感覚を体験してるぞ。

ヘラ釣りそのものだ。

岸辺の草をかき分けて設置した釣り台。ここは信州の中綱湖。北アルプスの麓の美しい湖。対岸は緑の森だ。その森が湖面に映っている。

釣り台に竿掛けの万力を留める。15尺の竿を継いで竿掛けに乗せた。仕掛けにウキを付けて、道糸にハリの付いたハリスを2本結ぶ。釣り台を離れてエサを作った。ふたたび釣り台に座り、ウキを調節しながら底立ては終えた。

■ヘラ釣りは所作が美しい

このヘラ師の流れるような一連の動作を、ヘラブナ釣りを初めて見る30代の女性がこう言った。

「まるでお茶のお作法を見ているみたい」

無言で釣り道具をセットするヘラ師。両者ともに決まった手順がある。それはまるで対局前に、盤上に美しい手付きで駒を並べる棋士の姿とダブる。

そしてヘラ師はエサ打ち繰り返す。じっと見つめるウキに動きはない。身をよじって尻の位置を変える。お茶を飲んだり頬杖をついたり、ときおりボウルに入ったエサを触ったり、腕を組んで身体を前後に揺すったりしてウキが動くのをじっと待つ。そして、とうとう釣り台を下りて背伸びをして腰を伸ばした。それでも、ウキは動かない。

「早く動けよ!」
この描写はお気づきの通り、将棋の対局とまったく同じだ。

思えば将棋の対局もヘラ釣りも、まったく気の長い話だ。指さない相手を待つ。動かないウキを待つ。それだけ忍耐力の勝負だが、頭のなかはじつはフル回転している。棋士はもちろん、指し手の数十手先までを必死に読んでいる。

ヘラ師はポイントの選定、竿の長さ、タナの選択、ウキの大小、ハリスの長さ、ハリの大きさ、エサのバラケ具合、エサ打ちのリズム。チェックするポイントは山ほどある。そこから答えを見つけようと、ヘラ師の頭のなかは火が燃えるほど熱くなっている。

将棋とヘラ釣り。じつはまったく同じ頭脳ゲームなのである。深く読んだ方に勝利の女神が微笑む。

#ヘラブナ釣り #釣り #将棋

タコの介のnoteに来てくれて、ありがとうございます。小学3年生。はじめて釣り竿を両手でにぎりしめてから、釣りが趣味となり、いつの間にか仕事にも。書くことの多くが釣りになりました。そんな釣りにまつわるnoteです。どうぞよしなに。