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サマーランドで溺れたカバの話

小学4年生で、すでに80キロを超えていた私は身長も大きく、多摩の怪童「カバッチョ」と呼ばれていた。

そんな私がサマーランドに行った時の話だ。
到着して着替えると、私は巨体、いや、巨パイを横に揺らし、その先端は右へ左へと、ダウンジングのように屋外プールを探していた。

探し当てた屋外プールには、水面より2m程度上にロープが張り巡らせてあり、同年代の子供たちはプールサイドからそのロープ目掛けて飛び移り、またそこから飛び込んだりと、アスレチックなプールを楽しんでいた。

私もその猿技をやってみたかったが、このカバのような体だ。そんな軽快な動きはできないので、とりあえずはよく公園に設置されている「ウンテイ」のようにロープを掴み、そのまま水面に足をつけないよう反対側まで行ってみようと決めた。

私はプールサイドからロープめがけて飛んだ!
そして両手でロープを掴んだその瞬間、一気に私の両肩は脱臼したのだ。

カバは静かに沈んでいった。
もがこうにも両腕は戦い終えた矢吹ジョーのごとくノーガード戦法状態であり、わかめダンス。

私は痛みに耐えながら必死に足をバタつかせ、とりあえず顔だけは水面をキャッチしようと、タツノオトシゴ泳法を試みた。
しかしバタつかせても浮き上がらず、逆にエビ反りしたまま後転するというトリッキーな動きをみせ、新しいシンクロ技で「命」という計点超え背面ロールを成し遂げたのである。

後転しても事態はまったく好転せず、次第にプールの水が鼻と口から大量に入ってきて目の前は暗くなっていった。

気がついたら私は医務室で横になっていた。
監視員の人が気がつき、救助してくれたのだ。
脱臼した「わかめカバ」は、一命をとりとめた。
痛かったけど、安堵して泣く方が先だった。
「生きている」という実感を、サマーランドが教えてくれたのだ。

それ以来、私はバンザイができないカバになった。

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