見出し画像

春は、まだか。


人の写真が撮りたいと思った。

恋人の目線のような優しい眼差しのシャッター。
時間限定でも誰かの恋人の視線になりたかった。
それを写真という形に残したかった。

憧れている人の写真の世界を真似して、少しでも近づきたかった。



良かったら、写真撮らせてくれませんか?とインスタで繋がっていた人に勇気を出してDMをしてみた。
彼は、自分は被写体向きじゃないです。
と返信してきた。

被写体向きかは、撮り手が決めることです。
君を撮ってみたい。
と返した。
がっかりしても知りませんよ・・・と言いながら、とりあえず会ってくれることになった。


後日、彼の住む調布に会いに行った。
彼はとても背が高く、すぐ見つけることができた。

どんな服着てますか?と彼からメールがきた。
彼はまだ気付いていないらしい。

少し驚かせみようかなと急に
初めまして!!!!と笑顔で声をかけると、
とても驚いたようで
目を伏せながら
は、初めまして、、、と挨拶を返してくれる。

ちょっと散歩しようと提案し、駅の周りを話をしながら散歩する事に。
お互いカフェによく行く事から、この辺りにはよく行くお店あるの?と聞くと、ちょっと行ってみたいジェラートのお店があってというので、じゃそこ行こうかとお店に行く事になった。

2種類のフレーバーをそれぞれ選んで、一口だけそれぞれのも貰いながら
話をした。

彼はあまり人と話すのが得意ではないようだった。
どこか不安げで、あまり目が合わないので、緊張してる?と聞くと。
ハイと。

あまりにも目を合わせてくれないものだから、目線を外した先に
自分の顔を持っていって、

人と話すときは目を見て話をしましょう。多分そんなに悪い人じゃないですよ?と無理やり目線が合うようにしていたら

ちょっと悪そうです。と返されて、あははと二人で笑った。

少し打ち解けてきた所で、お部屋で少し撮影させてもらう事にして、彼の住む部屋に一緒に向かった。

ここです。どうぞ。と部屋に入れてくれる。

どうすればいいですか?と。
いつもの部屋着とかラフな感じで撮りたいなと伝え着替えてもらった。

ベッドの上で、いくつか撮影して、恥ずかしがる彼を可愛いと思った。

あまり顔は撮れせてくれなかったけど、それもまた恥ずかしがる恋人のような雰囲気で、それはそれで良い写真が撮れた。


とても気持ちの良い日で、桜の咲いている春の日だった。

ふとバスに乗って桜が見たいなと伝えると、良いですよと。
準備して、一緒に部屋を出る。
お邪魔しました。と。


駅前から出るバスに乗り込みバスの後ろの2名席に座った。
少し開いた窓からの風がとても気持ちが良かった。

桜の場所近い?と聞くと、近いですと。

まだ若干目線を外しながら、話していた。

そんな彼が、外を見ながら手を握ってきた。

え?と思ったけど、こういう事は出来るのかと意外に思って、
どうしたの?といたずらに聞くと、別になんでもないです。
と外を見ながらぎゅーっと強く握ってきた。

彼なりの何かの言葉だったのだろう。


とても平和な日だった。

河原で遊ぶ子供たちも。
風も全てが優しく、気持ちの良い昼寝の時間のような昼下がりだった。
ひらひらと舞う桜もとても儚く美しかった。

春になると、この日を思い出す。

春は、まだか。

いろんな意味でそう何度も自分に問う。





















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?