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細かすぎる英文契約解説(第7回)〜論点抽出のフレームワーク〜

はじめに:フレームワークの重要性

契約ドラフトの担当者は、一般に日々多岐にわたる契約書をドラフトする必要があります。例え同一のビジネスに関する契約書でも、その取引条件は様々なバリエーションがありますし、ときに全く経験のない契約書のドラフトも求められます。そのような際、論点抽出のフレームワークを知っておくと、大前提として「そもそもこの取引は何をしようとしているのか」を把握すのに大変役に立ちます。契約の趣旨を把握することで、効果的にサンプルや雛形、関連法令をリサーチしたり、上司や同僚の助言を求めたりすることができます。また、契約ドラフティング以外にも様々な取引スキームに関する助言をする際に役立つでしょう。

はじめの一歩:5W1H

まず、契約の目的と内容を理解するために、5W1H(Who, What, When, Where, Why, How)の手法を使用します。これにより、契約に関与する当事者(Who)、契約の対象物やサービス(What)、契約の期間や実施時期(When)、契約が適用される場所(Where)、契約の目的(Why)、契約遂行の方法(How)が明確になります。総論としてこの手法が重要であると同時に、次の述べる各論の検討時にも常に頭に置いておくべきなのが5W1Hです。

抜け漏れ防止の“Mr.SEC”

私がロースクールで学んだフレームワークは、ビジネス契約書において通常検討が求められるMoney, Risk, Standard, Endgame Issues, そしてControlです(Tina L. Stark, Drafting Contracts: How and Why Lawyers Do What They Do, Second Edition (Aspen Publishing 2014),p369-376)。

これらの頭文字をとって、私は勝手に Mr. SEC(証券取引委員会)と名付けています。順番に、個人的な経験も踏まえて解説していきます。

Money

支払額や条件は明確か?取引においては、契約における金銭の授受が最重要です。支払いの金額、支払い方法、支払いのタイミング、通貨、為替リスクの取り扱いなどMoneyの条項レベルでも可能な限り5W1Hを明確にしましょう。特に、ライセンス契約におけるランニングロイヤリティや企業買収における価格調整条項など、金額決定のフォーミュラが複雑になるケースは事業担当者と綿密なディスカッションが必要です。

Risk

想定外の不利な事象に対する手当されているか?リスク管理は契約の重要な部分です。大きくは、①製造物責任をはじめとする不法行為責任のリスク、②当該契約それ自体から生じる契約が執行できないリスク(競業避止義務の一部が無効となる可能性等)③特定の産業規制に違反するリスク(日本でいう業法)及び④債権回収をできないリスクが挙げられます。

インデム、表明保証や危険負担に関する条項はもちろん、その他の潜在的なリスクや不利益な事象が発生した場合の担保、保証人や保険の取り決めなどを検討しましょう。

Standard

意図せず不明瞭になっている基準はないか?各条項の多くには要件と効果が規定されており、その要件充足性が適切にドラフトされている必要があります。

例えば、サービス契約における役務提供の完了をどのように規定するかはよく問題になります。Good faithに履行されれば良いのか、受益者の検収を要するのか、色々な決め方があります。必ずしも細かく書けば書くほど良いというものではありませんが、少なくとも役務提供者側は何を持って代金を請求できるのかクリアにしておく必要があります。

特に問題となるのが、は基準の問題にもなりますが、ここで特に注目したいのはより細かなレベルです。各用語の定義が明確であることが重要です。不明瞭なルールや曖昧な表現はトラブルの原因となることがありますので、できるだけ具体的かつ明確に記載しましょう。

Endgame Issues


契約終了後の処理は明確か?一般に契約締結時には当事者は一定の友好関係にありますが、契約解除が必要な状況下ではそうとも限りません。解除条項は雛形やサンプルから引っ張ってくる場合が多いと思いますが、当該契約固有の事情を考慮してよく検討しましょう。

特に検討が漏れがちなのが、契約は終了後の処理です。継続的契約の場合、契約中の引き渡された相手方の権利に属する財産(貸与品や秘密情報)をきちんと返還され、目的外使用されないようにする必要があります。

Control

契約上必要な各行為を行う権限はどちらの当事者にあるか?契約において、権限や義務を適切に割り当てることが重要です。株主間契約やパートナーシップ契約など契約当事者の組織に対するコントロールがメインの契約ではもちろん、通常の取引契約であっても、紛争解決や協議条項でいずれの当事者がどのようにイニシアチブをとっていくのか決めておくことは実効性のある契約を書く上で必須になってきます。

おわりに

以上のフレームワークを使用することで、英文契約のドラフト作成において、契約の目的や範囲を明確化し、リスク管理や権限分担を適切に設定し、不明瞭なルールを排除し、終了時の処理を明確化することができます。Mr.SECで全てを網羅できるわけではありませんが、どの契約でも主要な論点を落とすことはないでしょう。契約ドラフティングはもちろん、ビジネススキームに関する法的側面からの助言を求められた場合でも活用いただければ幸いです。




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