見出し画像

成功したら人は謙虚になると思っていたら大間違いだ問題

混迷を極める現代社会の病巣に、臨床医学的な見地から軽妙洒脱な筆致で快刀乱麻にメスを入れるサブカル産業医・大室正志と、特にメスは入れていない朝倉祐介による、内角高めギリギリストライクゾーンを狙った新春放談企画。
第2回は前回の「なぜ人はプロフィールを盛るのか」というテーマから派生して、「盛り」に対する文化の違いや自己肯定感、「権威自己申告制」について、ああだこうだ言っています。
ディスクレーマー:最後まで読んでも、特に得るものはありません。
本稿は「論語と算盤と私とVoicy」の放送に加筆修正した内容です。

(編集:代 麻理子)

「盛り問題」の日米比較文化論

朝倉:前回、話やプロフィールを「盛る問題」、「盛り盛り問題」についてお話しをしたんですけど、これってやっぱり文化的な違いが表れる話だと思うんですよ。

大室:はい。

朝倉:例えば僕、マッキンゼーに在籍していた頃にビジネススクールを受けたことがあって。これ言うと、また「盛ってる」って言われるかもしれないけど、まぁ一応受かったんですよ。UCバークレーに受かってスタンフォードは落ちたんですけど。で、ビジネススクールって受ける時にエッセイを書くんだよね。自分が今まで何をしたか。GMATやTOEFLはセンター試験の足切りみたいなもので、エッセイがほぼ入学考査の全てらしいんだけど。
で、傾向として、日本人ってやっぱり謙虚らしいんだよね。外国人でエッセイを添削してくれる予備校の先生みたいな人がいるんだけど、最初は「お前、すげーつまんない人生歩んでんなー」みたいなことを言われるわけですよ。で、向こうからさらに色々聞かれて、「実際こういうことしたよ」って話したら、「お前、なんでもっとそういうこと書かないんだ」って、強調すべきポイントを指摘されるんだよね。
ビジネススクールを受験する人用に、過去にハーバードに受かった受験生のエッセイ集みたいな受験対策本が売ってるんですよ。で、アメリカのビジネススクールって、たいていはアメリカ人がほとんどだから、主にアメリカ人のエッセイが掲載されているんだけど、そういうのを見てみると、彼らのエッセイってめっちゃ「盛り盛り」なのね。世の中にはどれだけ偉人が溢れているんだって思わされる。実際にすごいのかもしれないけど、これって文化的にも社会的にも自己主張しないと生きていけない人達だから、相当盛ってるってことだと思うんだよね。
で、盛るってことを改めて考えてみると、明白な嘘はダメだけれども、自分がやってきたことを、より強調するっていうことは、さじ加減次第であって然るべきだと思うんだよね。その点、日本人でビジネススクールに出願する人達は、そうした文化に合わせるために、結構盛ってると思うんだよ。というか、盛らざるを得ない。そうしないと他の国の人と比べた時に明らかに差が出ちゃうから。だから、嘘はつかないまでも、意識的に強調はしていると思うんだよね。

大室:なるほど。

朝倉:で、自分の強みを意識的に強調するそういった人達が、一般的な日本社会というか、謙虚な人々の中にぽつんと一人混じると、周りから見た時に「あいつすげー胡散臭い」みたいに思われてしまうこともあるんじゃないかと思うわけですよ。盛り具合のエルニーニョ現象というか、落差が激しくハイライトされるシーンがあるでしょう。

謙虚だから盛らないのではない 得するから盛らないのだ

大室:それは想像にかたくないね。確かに盛ってるわけじゃないけど、自分のことを自分でどれだけ優秀かって言えるタイプは日本人では多くない。朝倉さんが昔いた会社の大前研一さんなんて、当時の日立で自分がどれだけ浮いていたかってよく書いてますね。日立は日本有数の総合電機メーカーで、東大の博士みたいな人が沢山いる。そういう優秀な方々が慎ましやかにやってる中で、大前さんのように「オレ度」が高い人はやっぱり少し浮くと思うんですよ。ただ日立では浮いてしまった大前さんの性格があったからこそ、当時のマッキンゼーで日本のプレゼンスが上がったことは間違いない訳で。それは大前さんの大きな功績ですよね。
僕の好きな人に一橋大学の教授だった山岸俊男さんという方がいて。この方は日本人は謙虚なわけではなくて、ムラ社会のような流動制が少ない社会の中では、そういう風に生きてたほうが得だからそうしてるだけだということを様々な実験から論証しているんです。つまり環境に最適化しただけだと。これは「盛り問題」でも言えることで、沢山の人種がいて、さらに移民も多いようなローコンテクストな国では多少盛ってでも、自分をアピールしていかないといけないと分かってもらいにくい。

朝倉:文化的な背景もバラバラの社会で謙虚にしていたら勝ち上がれないからね。

大室:だからこれはどっちかっていうと、「心」は内面になるというよりは、「型」に最適化するってことなんじゃないかなとも思います。例えば、日本の総理になった竹下登さんみたいな人も、自民党で耐えに耐えて当選回数増やしながら主要閣僚ポストのスタンプラリーのような出世を重ねることであそこまで上り詰めた。性格的には少なくとも外面的には押出しの強い感じはない。ただ今のアメリカの大統領選みたいなやり方になると、永田町内での権謀術策より、国民に向けての「華」が重要になる。

朝倉:まぁそうだよね。その点でいうと、「高度経済成長期」と言いきっていいのかどうか分からないけれど、普通にエリートコースをたどってキャリアのレールに乗っておいたら、そんなに変なことにはならず、将来が予見できて安泰だっていう社会の中においては、あんまり傑出しないほうがかえってよかったりするわけだよね。「治世の能臣」が向いている。だからまぁ盛らないほうがいいんだよね。

どこまでいっても人は承認欲求の奴隷

大室:そう、盛らないほうがいい。一方で、あの当時も、例えばそういう路線からはずれた、マッキンゼーの大前さんとか、BCGの掘紘一さんみたいな人もいる。NewsPicksで連載されてた掘紘一さんのイノベーターズトークとかって、最初から最後まで言うなれば全部「自慢」でしたからね(笑)
いや、これは悪い意味ではなく、本当にすごいなぁと。

朝倉:手を変え品を変え自慢してるからね(笑) すごいよね。

大室:よく日本ではしっかりと名をなした人は謙虚だとか言われるますよね。もう十分に承認は受けてるから自慢しないで済むんだって。
・・・・・・嘘だね(笑)

朝倉:どこまでも人は承認を求めてしまう。

大室:僕はプリンスが好きなんだけど、プリンスってみんなが天才だと思ってるわけ。デビューアルバムで全曲作詞作曲、一人で全部の楽器も弾いてプロデュースもしまうような人だし。でもプリンスのすごいのは、みんなが天才だと思ってる以上に自分がもっと天才だと思ってるところなんですよ。

朝倉:うん、滲みでてるよね。

大室:やっぱりだから、成功したら人は謙虚になるとか、謙虚な人じゃないと成功しないっていうのは嘘ですよ。そういう人を多くの日本人が好きだから応援されやすいだけで、そうじゃない成功パターンも沢山あるんだって思う。

朝倉:みんながみんな松下幸之助だと思うなよと。

大室:そう。松下幸之助の成功は日本人に許容されやすい成功のパターンであって。

朝倉:そのほうが受け入れやすいって思ってるんだよね。けど、日本電産の永守さんにしたって、晩年の松下幸之助の書籍は好きじゃないとおっしゃるじゃない? 最後に人生をまとめに入っている感じが出ていると見る人もいるし。

大室:PHP出版に今残ってるような、あの感じよりもむしろ書籍化されない当時の「売れ!稼げ!」って言ってたほうが好きだって人もいるもんね。

自己肯定感の耐えられない低さ

朝倉:だけどそれが経営者として本当の姿だよね。やっぱり後世とか意識しだすと、きれいにまとめに入るのかなと。
ちょっと大室さんの専門に近い話になるかもしれないけど、日本人ってよく「自己肯定感が低い」って言われるじゃないですか。子供に対しても「自己肯定感を身につけるような育て方をしましょう」なんてことがよく言われている。「義務教育に入った途端、自己肯定感が低くなるような教育が行われている」っていう批判の声がよく上がるわけだけど。
その一方で、嘘はもちろんダメだけど、自分に自信を持ってアピールしてる人をみんなで寄ってたかってフルボッコにする状況って大人の世界でも目にするじゃないですか。それはひょっとしたら低い自己肯定感を植え付けられた成れの果てなんじゃないかとも思うわけですよ。それはそれで、ちょっと違うよなって感じたりもするのよね。

大室:なんかすごいよね。ちょっとでも盛ろうものならみんなでフルボッコだもんね。ただまぁ盛った経歴で商売をしようとかしてくるとちょっと意味合いが異なってくる。

朝倉:それは分かる。

大室:盛り許容度っていうのかなぁ。それは本当に難しいなぁ。

朝倉:難しいよね。僕とかもさ、経歴が嘘みたいなところもあるじゃん。

大室:やや、本宮ひろ志漫画みたいだもんね。

朝倉:15歳で海外で競馬の騎手になろうとして、なれなかったんだけど、その後東大法学部入ってマッキンゼーいって起業して、上場企業の社長やってましたって言ったら、まぁ嘘っぽいよね。知らない人の前でそのまま話すと胡散臭く聞こえてしまうから、控えめに言わざるを得ないし、なんだったら初めて会う人に自分のこと言いたくないもん。

名刺の肩書き長すぎ問題

大室:朝倉さんは元の物語が漫画っぽいもんね。元の物語は普通で、本当は履歴書3行とかで終わるのに、元どこどこのトップセールスマンとか書く人もいるじゃない(月次か年間かは書いてない)。後は学生時代に数十カ国を放浪とか。経営者になるにはやっぱり放浪しないとダメなの?(笑)

朝倉:いるねぇ。あと、やたらと色んな団体に名を連ねるというか、なんたら協議会会長、とか言いたがる人いるよね。名刺の肩書き長い問題。

大室:あれはちょっと盛ることによってブランディングに失敗してるんじゃないかって気もするけど・・・・・・。

朝倉:あんだけブワーって肩書が並んでいると、逆に胡散臭いもんね。長い名刺のタイトル見た瞬間、一発で胡散臭い奴に思われてしまう。逆効果なんじゃないかな。

大室:ただ、名刺にそれだけ書けると、かえって素直な人だなって気持ちもするわけですよ。普通だったらさ、ちょっと・・・・・・間引くじゃん。(笑)

朝倉:逆シグナリングだと思うんだよね。

大室:「なんとかをなんとかにして売り上げ倍増」とかさ、なんで名刺の裏こんなに書いてあるんだって時もよくあるよね。

朝倉:あるねぇ。

大室:そうなるとなんかちょっと逆に価値を毀損してるんじゃないかなって勝手に心配しちゃったりもするんだけど。

朝倉:まぁねぇ。上昇志向を持っていること自体は素晴らしいと思うんだけどね。

「権威自己申告制」だよ現代社会は

大室:でも一方で、昔は職業の数自体も少なかったし、医者、弁護士、なんとかって、わかりやすい職業が多かった。ただ今は職業の種類が多いし、言わないと分からないという側面もある。僕これを「権威自己申告制」って呼んでるんだけど。自己申告していかないと、よく理解されない。例えば産業医っていう業種だって、多分そんなに存在を認知されてる仕事でもないし。

朝倉:まぁそうだよね。

大室:だから自分で自分の価値っていうのを説明していかなきゃいけない時代なんだなぁという思いもあって。人が普通に暮らしてて認知できる量って限られてるから、そこでアンテナに引っかってもらえる程度の発信は、場合によっては必要じゃないかと。でもそこは盛りって考え方と限りなく紙一重なんですよね。

朝倉:それでいうと、僕が以前にVoicyでも取り上げた、HLABというNPOやっている小林くんっていう、学部でハーバードに進学した立派な若者がいるんだけど、僕たち周りの大人は一生懸命彼に「ハーバード小林って名乗れよ」って言い続けてイジってる(笑)

大室:ラサール石井じゃん!(笑)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?