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研究室を脱出せよ!【14】ポスドク、ケースに泣かされる。

フェルミ推定に比べると、ビジネスケースは非常に取っつきにくかった。多くの問題は、「OOの売り上げを上げるには?」という形式を取っている。Webなどでビジネスケースの解き方を調べてみると、この手の問題は「売り上げ = 客単価 x 客数」と分解するのがセオリーで、それぞれの因子を更に深掘りしていくことにより打ち手を出していく、と書かれていた。このようなロジカルな思考を積み重ねることにより、例え経験したことのない業界であったとしても適切な解が出せる。それがロジカルシンキングの最も重要な点である、という。

なるほどなあ、とは思うが、しかしどうだろう。

例えばだ。今、自分はPCRをやっているとする。PCRというのは分子生物学系の実験では必ず出てくる超有名な反応だ。ゲノムテンプレートで5kbのサイズを増幅しようとしたのだが、うまく増幅しない。さあ、あなたならどうする?これだって立派なケースだろう。そうすると、

増幅されない原因:1. テンプレート 2. 酵素 3. 反応条件 4. プライマー

という4つの原因が考えられ、それぞれに対して具体的な打ち手というのが直ぐに思いつく。さらに言えば、そもそも5kbのDNAフラグメントが欲しいというのが実験の目的なわけだから、場合によってはPCR以外の方法で合成したっていいことになる。最近は従来の固相合成では実現できなかった長さのDNAでも合成できるようになってきているので、予算と時間と研究の重要度によっては化学合成するというのも一つの解決法だろう。こうやって考えれば、実験というのはロジカルシンキングでいうところの「ピラミッドストラクチャー」の積み重ねだということが良く分かる。

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これがもしPCRを一度もおこなったことのない人だったらどうだろう。PCRの原理は教科書を見れば分かるだろうが、具体的な解決方法というのはすぐには思いつかないのではないか。アイディアがそれなりに浮かばなければ、それらを並べ替えたり組み替えたりしてツリー構造を作るのも難しくなる。従って、論理的な議論ができていないということになる。あるいは、普通に考えていては思いつかないような、サイエンスの醍醐味である奇抜なアイディアなども出てこない。

ということで考えれば、ビジネスケースの場合も所詮は経験に根ざした議論が必要ということになってくるのではないか。生まれてこのかた研究室を出たことのない人間が、経営企画室などで腕を磨いてきた若手に勝てる見込みはあるのだろうか。

こうした懸念は、残念ながら現実のものとなった。宿題として渡されたビジネスケースを青木さんに見てもらったが、何問解いても芳しい反応はかえってこなかった。曰く、場当たり的な思いつきの解決策が散見され、全体感が感じられない。従って、コンサルにとって最も重要であるロジカルシンキングの能力をアピールできていない。また、誰が考えても思いつきそうな平凡な考えしか出てきておらず、既視感を覚えるというのだ。

僕の目の前にPCR初心者の学生がいたら、まったく同じことを言ったであろう。

というわけで、ビジネスケースについてはお手上げとしかいいようがない状態が続いた。

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