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研究室を脱出せよ!【7】ポスドク、覚醒する。

少し早めに自宅に帰った僕は、本の続きをむさぼるように読んだ。その内容は魅力的で、一気に読み終った後は、久しぶりに心地良い充実感を感じていた。それとともに、もう一つ、不思議なことを発見した。

まず第一に、この本の作者だと思っていた帯の写真が、どうやら翻訳者のものらしいということだった。そして、翻訳者序文というやつが、本文よりも前に堂々と鎮座しているのである。僕が居部屋で読んで感動したのは、この序文のところだったらしい。だから、この本をパッと見ると、なんだかこの人が書いたみたいになってしまっている。

さらにその序文の内容というのが強烈である。原作者の人気というのはアメリカではすごいものだそうで、早々たる重鎮が集まるようなパーティーによく招かれているそうなのだ。で、翻訳者はそのパーティーで彼と直接会ったというのだ。つまり、翻訳者=重鎮、ということになる(のだがそこまではさすがに書かれていなかった)。ここまで自信たっぷりに書かれていると、嫌味というのを通り越して、何だかおかしくなってしまう。

僕はこの翻訳者のことがちょっと気になり始めていた。この人は何者なのだろう。そう思って、ネットで調べて見ることにしたのだが、これが僕の運命を変えることになるとは、このときは思ってもいなかった。

まず驚いたのが彼の経歴である。アメリカで工学の博士号を取得したとあるから、なんと同業者なのである。いや、正確に言うと同業者だった、というのが正しい。日本に帰国した後は理系の研究者として企業に勤めるが、そこで働くことに疑問を持ち、すぐに辞めてしまう。その後、外資系の企業にヘッドハンティングされるのだが、その企業がまた変わっていて、経営者に対して経営戦略のアドバイスをおこなうというのである。工学博士で研究一筋だったヒトが、どういう理由でこんな会社に雇われることになったのか謎すぎるのだが、それでもみるみるうちに頭角を表し、出版した本はベストセラー、その後選挙に出たり、学校をつくったりと八面六腑の活躍を見せ、今に至るというのだ。とんでもない人がいたものだ。

それはそうと、この人の肩書きである「経営戦略コンサルタント」とは一体なんなのだろうか。そういえば、大学のサークルの同期でコンサルになったという奴がいたが、あれのことだろうか。

気がつくと僕はいつのまにかコンサルという商売について調べていた。このところ実験が忙しくてあまり寝ていなかったのだが、夜が更けるに従って僕の頭はむしろ覚醒していき、やがて明け方になるころになると、ある一つの考えが僕の心を捉えるようになった。

これこそが、自分のやりたかったことかもしれない!

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