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【エッセイ】カレーパンマンの真実

近所に美味しいパン屋さんがある。
週一回、そのパン屋さんに行くのが密かな楽しみだ。

朝7時のオープンに合わせて行くと焼きたてのカレーパンが。
表面がカリっと揚げられ、まだ油の落ち切っていないテカテカしたカレーパンを見てしまうともうダメだ。
自然とトレーに乗せている。

家に帰り、何よりもまずそのカレーパンにかぶりつく。
外はカリっ、中はふわっとしたパン生地に辛口のキーマカレーがベストマッチ。
口いっぱいに広がったスパイシーな香りをコーヒーで流す。
至高の朝ごはんと言っても過言ではないだろう。

そんな優雅な朝ごはんの最中。僕はこう思う。
「カレーパンマンか…」

・・・

子どもの頃、よく「アンパンマン」を見ていた。
「アンパンマン」に登場する個性豊かなキャラクターのなかでも、
僕が一等尊敬しているのが「カレーパンマン」だ。

彼は主人公である「アンパンマン」の友人的ポジションであるため、
よくお話に絡んでくる。
レモン型の顔にオレンジ色の服、黄色い手袋とマント。
とくれば、大多数の日本国民が彼を特定できるのではないだろうか。

彼の戦闘スタイルは登場キャラの中でも異質だ。
口から熱々の激辛カレーを飛ばす必殺技「カレービュー」は諸刃の剣。
自身のアイデンティティとも言えるカレーを飛ばし、攻撃を繰り返すと、
彼の顔をみるみる萎んでしまう。
自分の身を挺してでも悪と戦うその姿は多くの子供から羨望の眼差しを向けられていたに違いない。
僕もその一人だ。

しかし。
彼の出生やパーソナルなことまでは、知らない方も多いと思う。
少し語らせて欲しい。彼の悲哀に満ちた過去と生き様を。

彼がアンパンマンシリーズで初めて出てきたのは、漫画『れんさいまんが アンパンマン』の第15話で、アンパンマンが「おとうとをつくってください」とジャムおじさんに頼んだところ、カレーパンとして彼が生まれた。
しかし、このエピソードは漫画版でのみ描かれており、アニメ版での初回遭遇時には、アンパンマンはカレーパンマンの事を一切しらない描写がある。
さらに、キャラクターソング『とべ!カレーパンマン」では、
生まれたところは知らないが―――』
と彼自身が元気に歌いあげている。

おかしい。明らかにおかしい。
カレーパンマンはアンパンマンが「おとうと」としてジャムおじさんに望んだはず…
ジャムおじさんはどうして「おとうと」をアンパンマンに知らせていないのだろうか…
ジャムはなぜ彼に自分の子だと告げないのか…

ここまでくれば、もう子供ではない、大人になった僕にはわかる。

カレーパンマンは、ジャムの妾の子なのだろう。

そうなれば全てに辻褄があってくる。

アンパンマンからおとうとをせがまれたジャムは、バタコに相談したものの断られたのだろう。
そんな時にスパイスの香りのする女性と知り合ってしまった。
一夜の過ち。その後に生まれたのが「カレーパンマン」。

だが、ジャムは知っていた。
バタコがそんな事、許せるはずもないことは。
ジャムは隠れて養育費を払い、「カレーパンマン」は遠い国で育てられた。

だからカレーパンマンは自分の出生を知ることもなく、
父に認知されておらず、兄との絆はない。
でも。
それでも彼は平和のために戦う。

ほのかに感じているジャムとアンとの繋がりを信じて。

・・・

カレーパンを食べ終えた僕はその余韻に浸りながら、テーブルに着く。
もう一口、コーヒーを啜る。
次のパンに手を伸ばす。

「やっぱり、あんぱんが一番うめぇや」


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