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【書評】組織を芯からアジャイルにする

たびたび本noteにも出している市谷氏の最新本です。

私は彼とお仕事をしているのですが、読んだ感想としては、本当に普段から言っていることとブレておらず、一貫して筋を通していて、話もしてくれているし実際彼自身も動いてくれているなということです。つまり、有言実行。
たまに本を書いている人がメディアに出て喋ると違和感を感じることがありますが、彼の場合、この本(他の彼の本もそうですが)と本人の両方を知ると、同じ人が書いているんだなと確信できます。

まさに、彼自身の「芯」を通した本になっています

序盤に出てくる「3つの最適化(方法・体制・道具)」なんていうのは古くからある企業に勤めている人はその硬直具合をよく感じるのではないでしょうか。いや、むしろそれすら感じていないまま、思考停止で働いている人も多い。

今のままで特に問題がないと感じているなら、何故変えなければならないか?自体を想像すらできないでしょう。市谷氏が「呪縛」といってるのも最適化の呪縛であり、思考を変えることすらかなわない呪縛。

しかし自分や自分の会社の周りは大きく変わり、そしてとても速いスピードで流れてしまっている。認識したときには既に過去のものとなっていることも。最適化されきった会社と組織がまずそれに気づけて、変えるという方向付けができるかが大事である。

市谷氏がDX(デジタル・トランスフォーメーション)は政府も打ち出している後押しがあり、考えを変えるきっかけである、というとも言っている。
本来我々が周囲をちゃんと見た上で自ら感じなければいけなかったことを国という大きな力で気づかせてくれているということであるが、実際どう動くべきなのか?ということは実はよくわかっていない。

自分たち自身が変わるきっかけとその入り口をまずつくる、それこそ市谷氏が言う「アジャイル」である。
アジャイルは決して何か固まった方法論やプロセスではなく、「動き方」とこの本でも書かれているように、少しでも会社や組織を変える希望をアジャイルに持っている人にむけて、まず動けるようにするための基盤となる考え方と、まず試して欲しいやり方を書いている。

特に私が良いなと思った、この本で取り上げている項目やキーワードは以下です。

  • 意図・方針・実行

  • 経験とは最初の行動を起こした者への報酬

  • 選択肢を作り出し、留保する

  • インセプションデッキ(組織アジャイル版)

  • 組織アジャイルの成熟度を測る指針(5段階)

  • 組織アジャイルは組織の中に互いの関心を取り戻す活動

  • むきあわせ

  • 組織アジャイル適用の7つの原則

  • アジャイルCoEの8つのバックログ

  • ものわかり

  • OODAのO2の合わせ込みこそ、むきなおり

  • スプリントの数だけ、変われる機会がある

特に「アジャイルCoEの8つのバックログ」は、市谷氏と一緒にやってきた内容そのもので、まだ大きな勝利までは行っていないものの、社内では成果として認められたり、一部の人に対しては少しずつ変わってきていることを感じられてきたのは、この8つのバックログを進めてきたからという実感があります。

彼のすごいところはこれを同時並行で仕掛けていくことであり、当然リソースも時間も限られている中、全部を一気には難しいのですが、8つそれぞれ少しずつ少しずつなのですが、積み上げていくことで、いずれ大きな潮流が生まれるのではないかという期待を感じ続けることができます。

この8つのバックログをブレなく実行できている下地になっているのが、「組織アジャイル適用の7つの原則」であり、少しずつでも成果にしていくところや、やってくれそうな人から巻き込んでいくところなど、まさに原則にある「小さな勝利」「その場にいる人からはじめる」などがしっかりと息づいているなと思えます。

そして会社や組織のサイズで変えていくのに大事なのは「関心」の部分です。
私も実感するのですが、本当に同じ会社で、同じミッションに向かって動いているのだろうか?と思えるくらい、組織やチーム間で関心が持たれておらず、「自分のところさえうまくいけばよい。他のところは興味がない」とハッキリ言う人もいるくらいです。評価の仕方・見られ方からすれば、わからなくもないのですが、個々の最適化が結果的に会社全体の最適化を生み、会社や組織というサイズを変えていくのには弊害になります。

そして、社内の認識は、旧来のもので最適化されたものとして硬直した常識となり、それがさらに組織間の無関心を生んでしまうことになる。
こうなると、探索して学びを得て変化し続けることで適応すること自体を必要としないと考えてしまい、アジャイルなアプローチは受け入れられず、自分たちの周りの変化についていけなくなるということになります。

そんな中でもなんとしてでもアジャイルによって変えていけると思える人が、諦めずに動き続けられる軸になるのが、「組織アジャイル適用の7つの原則」と「アジャイルCoEの8つのバックログ」と私は感じます。

特に心に響くのは、7つの原則にある「傾きをゼロにしない」です。
諦めて止めてしまったら、それは失敗。
困難はあるでしょうけど、止めなければ失敗ではないのであれば、変化の傾きをゼロにせず、トライし続ける。アジャイルが組織に必要だと感じてもらい、その価値に気づいてもらえるまでトライし、学び、仲間をつくり・巻き込み、広げていく…

アジャイルがまず取り入れられたソフトウェア開発の現場が混沌としたときも、ウォーターフォール型などこれまでのやり方をどう変えて、現状を打破するかを考え、今のアジャイル開発の様々な知見やプラクティスが生まれてきました。それを何十年も続けてきていて、今でもそれは続いています。

これまでは営業やクライアント側の思いつきや心変わり、浅はかな考えなどの変動部分の吸収をソフトウェア開発の現場で吸収してきており、その対応方法としてアジャイル開発がありました。
しかし、今は世の中や市場自体が変化に富み、要求が多様化しており、フロントに出ているビジネスサイド側もその変化に追いつかなければならなくなりました。

つまり、アジャイル開発だけでは耐えきれないのです。
会社や組織自体がアジャイルな動き方をしなければいけなくなったのです。

よって、開発現場ではない人もアジャイルを取り入れる必然性が生まれたのです。
そして変わろうと思い、変わるしか、変化には追従できないのです。誰かに変えてもらうものでもないし、もし万が一外部要因で状況が好転しても、自分の手元になにも無い中では、真のサスティナブルな安息はないのです。

少しでも変化のきっかけをつくれば、まだやれることがある。
変えたいという人が、自ら変化の「芯」となり、まず謙虚にはじめてみる。
そんなメッセージが、この本には込められている気がします。


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