見出し画像

私たちはモノに疲れている - ウルグアイ元大統領 ホセ・ムヒカの映画を観て

親しい友人が、ある映画を一度観たのにもう一度観にいくと言う。その二度目にたまたま誘ってくれたので、一緒に行くことにしたのがこの映画。『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』。

ウルグアイの大統領の話だと言われていたので、時代背景や人物について調べてから観ようと思ったのだが、結局忘れてしまった。

でも、全く難しくなかった。

なぜならこれは「愛」の話であって、「幸せ」についての話だから。グローバル化した、スーパー消費社会に住む現代の若者には、彼の言葉は痛いほど、刺さる。

映画を観たあと、彼についての本も読んでしまった。

今回は彼の哲学を、少しだけ紹介したい。

ムヒカ

ホセ・ムヒカ...ウルグアイの政治家。 2009年11月の大統領選挙に当選し、2010年3月1日より2015年2月末までウルグアイの第40代大統領を務めた。バスク系ウルグアイ人。
愛称はエル・ペペ。報酬の大部分を財団に寄付し、月1000ドル強で生活している。

"私は国民の多数派と同じ生活をしているだけ"

画像4

▲ムヒカの自宅

私の読んだ本によると、昼食に、安酒とピザを食べるムヒカを街で見ることができるらしい。彼は、レストランを自由に行き来し、国民と同じ食事をとる。相席になった市民もいるそうだ。

もし、安倍さんや菅さんが、ガストや鳥貴族にいたら!?と考えると面白い。

彼は、「高級指向な生活をすることで壁を作れば、国民は政治から離れていってしまう。国民から政治が嫌われれば、政治は失敗だ。」と言う。国民と同じ生活をすることでしか、真に国を知ることはできない、という考え方なのである。

実際に、彼は郊外の小さな家に住み、脚が不自由な雑種の犬(他にも犬はいる)と暮らしている。休みの日には自分で農機に乗って農作業をする。服装は飾らず、時にボロボロだったりする。また、世界会議や首脳会談などの公式の場では、ノーネクタイ。

"一市民としての大統領"という姿勢は、かっこいい。これを菅さんもやったら、若者の目にもポップに映って、少なからず政治に興味を持つようになるのではないか。

pepe自宅

 ▲ムヒカの自宅周辺(ウルグアイの首都モンテビデオから少し離れた郊外)

"貧乏とは、欲が多すぎて満足できない人のこと"

金持ち

「豊さの意味」ってなんだろう。気づけば、私たちは「お金を大量に持ち、ものを際限なく買える」ことを"豊か"と表現するようになり、それができない人を"貧乏"と呼ぶようになってしまった。

ムヒカはこう言っている。

貧乏とは、欲が多すぎて満足できない人のことです。私は持っているもので贅沢に暮らすことができます。貧乏人とは、必要とするものが多すぎる人のことです。

これを聞いて、ビクッととした人は多いのではないか。

まさに、ムヒカの言う"貧乏"に当てはまる人は、世界中の先進国で増えているように思う。

元々なかった需要・マーケットを作り出すために、マーケティング・宣伝をしているうちに、自分自身もまた必要なものが増えすぎてしまったのかもしれない。まさに、自縄自縛。

"モノを持つことは煩わしさであり、束縛"

ムヒカは、お金を少ししか持たず、持ちものが少ないことが幸せに繋がると言う。

少ししか物を持っていなければ、その物を守るための時間も少しで済みます。お金があればお金が盗まれる心配をしないといけない。物を持つことは煩わしさであり、束縛である。

ハイパー消費が世界を壊しているにも関わらず、高価な商品やライフスタイルのために、人生を放り出している。私たちは消費するために生まれてきたかのようである。私たちは、幸せになるために生まれてきたのだ。

これを聞いて、私はある言葉を思い出した。

そうだ、「ミニマリスト」だ。

実は、私たちは「消費疲れ」に気づいているんじゃないか?
「消費」と聞くと、心底疲れるような気がしないだろうか?

ミニマリストとは、最小限のものを持って(例えば布団一つで)生活する人たちのことだ。このミニマリストに関する書籍が、最近よく売れている。

例えば、私が読んだのはこの本だ。

ミニマリスト

この本によると、必要以上のモノに囲まれると、モノから例えばこんな声が聞こえてくるようになる。

読まれずに積まれた本:ねえ、まだ読んでくれないの?買ったのに読まないとか、お金の無駄遣いだよね。
大量の洗っていない食器:まだ洗わないの?放置するのよくないよ。
部屋に散らかった様々なモノ:片付けられないなんて、ダメ人間だね。

好きなモノに囲まれた家で生活しているはずなのに、疲弊してしまう...という感覚には、誰しも心当たりがあるのではないか。私も心機一転、部屋のモノを減らして、丁寧に生活するようにしている。そうすると、無駄なことに頭を使わずに済んでいるような気がする。

ムヒカの"持ちものが少ないことが幸せに繋がる"という考え方は、実はミニマリストという言葉でも浸透していたのか。

私たちは"荒々しく"率直なリーダーを求めている!

「政治ってつまらない。政治家の言葉は心に刺さらないし、聞いてると眠くなるな...」

日本の政治といえば、大体こんなイメージではないだろうか。とにかく興味が湧かないし、取っつきづらい。しかし、ムヒカとなると真逆である。彼の言葉にはみんなが耳を傾け、ペペという愛称で親しまれるくらい、彼のことを身近に思っている。

それは、彼の率直さにあると思う。

昔ゲリラ活動のリーダーをしていたからこその、"荒々しさ"と言えばいいのだろうか。度々、彼は言葉の選び方についてメディアから批判を受けるが、それは裏を返すと「わかりやすさ」であり「率直さ」なんだろう。

民衆とともにゲリラ活動を続け、何度も投獄され、最終的には13年間投獄生活を送った彼にしか、この等身大な"一市民的大統領"はできないんだろうと思う。

"大麻合法化は、実験"

個人的に好きだったのは、ムヒカが大麻合法化という法律を"実験"と称したこと。ここにも彼持ち前の率直さが出ている。

実は、ウルグアイは、世界で初めて大麻を合法化した国なのだ。以下が、合法化に至った理由である。

2013年に大麻合法化にGOを出したのは、かつて“世界一貧しい大統領”として世界中で話題になったホセ・ムヒカ氏(2015年に退任)。合法化の最大の目的は、栽培・流通を国の管理下で行うことによって闇市場での価格を爆下げし、密売組織を弱体化させること。先進国としては2018年にカナダのトルドー首相が始めて大麻の合法化に踏み切ったが、その理由もやはり犯罪組織の資金源を断つことだった。(出典:BANGER

合法化により、大麻の売買を政府の管理下に置くことで、逆に大麻を取締るという斬新な法律である。

正直、政治にしても企業経営にしても、トライアンドエラー(PDCA)を前提とするしかない。日本のように無謬主義(注1)に縛られているようでは何もできない、という前提をもっているところが好きなのだ。

注1) 無謬主義...間違いや失敗を認めない考え方。むしろ間違えた時・失敗した時には、事実の方を歪めて「間違ってないですよ」「失敗してないですよ」と見せるやり方。(※これは私の説明です)

国民に向かって「〜という仮説をもって〜(法律の制定等)をしましたが、結果を見る限り、失敗でした。」と言える国のリーダーが欲しい。

そんなリーダーが出てきたら、必ず投票するのに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?