【進化する整形外科ロボット 1】圧倒的な精密性を持つMakoの魅力
Mako導入のキッカケと多様化する患者ニーズ
えにわ病院理事長・木村正一医師は意欲的に最新技術を導入し、より患者満足度の高い医療を追求する。Makoの性能を確かめるため、米国まで足を運び、デモンストレーションにも参加した。「導入した最大の理由は人間の手には限界があるから。個別化医療が重要視される現代、人工関節は1mm、1度単位の設置精度が求められます。正確かつ安全に実施するにはコンピューターの力が必要です。
従来、人工膝関節置換術のゴールドスタンダード(治療標準)は『骨に対して90度に切る』でした。最近は患者さんごとに異なる内反(内側への弯曲)を加味し、『2〜3度傾けて切る』方法があります。人間の手で3度傾けて切ろうとして、3度ずれれば、6度になります。コンピューター制御のロボティックアームは0.5度単位で調整できます」
さらに単顆型人工膝関節置換術(UKA)への有用性にも着目する。「人工膝関節全置換術(TKA)と違い、UKAはひざ全体を取り換えるわけではありません。前十字靭帯を切らず、後十字靭帯も残し、元の正常なひざの再現を目指します。一人ひとり異なるひざのアライメント(関節の配置)を想定し、それに合うよう、ロボットが人工関節を設置します。
人工関節がピタリとはまるリーミング(削る)もロボットの魅力。正常なひざを再現するUKAのコンセプトと、ひざの表面を3D画像で完全に再現した設計図通りに置換するMakoはマッチします
バリエーションに富んだ股関節の変形にも対応
ひざと股関節の両方に対応できるのもMakoの特徴。同病院の股関節班の本家秀文医師が解説する。
「同じ変形性関節症でも、股関節はひざ以上に変形のバリエーションがあり、一人ひとり骨盤や大腿骨の形が違います。それぞれに合ったサイズ、設置角度や深さを事前にCTなどで評価して術前計画を立て、執刀に望みます。マニュアルでは数mm、数度の誤差が生じることがありますが、Makoは安定して術前計画通り再現し、術中の微調整も正確です。
マニュアルの場合、『ここが骨、この深さまで削る』と肉眼でしっかりと確認するため、筋肉を広げ、大きく術野を得る必要があります。Makoはモニターを見ながら正確なリーミングが行えるため筋肉を温存した最小限の展開で術野を確保できます。マニュアルでは確認しながら何度も出し入れするリーミングも、自動制御付きのMakoは基本的に1回で済み、出血量も少なくなります」
股関節治療の合併症リスクについても言及する。
「手術後に起こるリスクがある股関節の脱臼も、Makoは正確なアライメントでの人工関節の設置で回避を期待できます。
マニュアルの場合『痛みはなくなったけれど、片脚が長い感じがする』という脚長差という問題が出ることもありました。Makoは脚長差を術中に確認でき、人工関節の設置も正確なので脚長を揃えることができます。正確な設置を追求し、脱臼予防に努めています」
信頼するMakoとともに患者満足度を追求
ひざ関節班の若きリーダー・田中大介医師はMakoの魅力を語る。
「非常に正確。人間の目と手ではできないクオリティーを実現した。そこが最大のメリットだと思います。ただ、大事なのは手術の結果、患者さんがどれくらい嬉しいか。人工膝関節にした方の約10~20%は痛みや違和感など何らかの不満があると報告されています※。不満が技術的な問題なのか、人工関節のコンセプトの問題なのか、それとも患者さん側の要因なのかは、まだ解明されていません。
技術面の課題に、マニュアル手術の場合に起こってしまう設置位置のバラつきがあります。野球の投球に例えるなら、マニュアルは多少バラつくが、ストライクゾーンには入るイメージ。Makoだと『ど真ん中か、内角高めか』などピンポイントで狙えます。マニュアルで狙いすぎるとデッドボールのリスクがありました。ロボットはバラつきを限りなく減らし、どの位置で手術をすれば、満足度が一番高くなるか、患者さん一人ひとりのストライクゾーンはどこか、調査・追求が可能です。
また、ロボット手術は関節への負担軽減、筋肉を多く斬らずに済むメリットもあり、術後の早期回復が望めます」
ただし、ロボットは道具ということを忘れてはいけないと田中医師は警鐘をならす。
「えにわ病院の医師たちは仮にMakoが動かなくても、それと同等の手術ができるだけの経験を日々積んでいます。『Forgottenknee(手術を忘れて動かせる膝)』が目標です」
※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載