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生体の恒常性を保つ腎臓にできる 腎がん

腎機能の温存を目指し、ロボット支援下手術の普及とともに、根治的腎摘除術よりも部分切除術が主流となりつつあります。


疾患の特徴

早期発見には画像診断が有効

 腎臓は、そら豆のような形をした握りこぶし大の臓器で、腹部の左右にひとつずつあります。血液の浄化や尿を媒介しての老廃物の排出、体液の調整など、生体の恒常性を保つための役割を担っています。尿は腎臓内にある腎実質という組織で生成され、腎盂にたまった後、尿管、膀胱へと送られます。 
 その腎実質の細胞が、がん化して悪性腫瘍になったものを「腎がん(腎細胞がん)」といいます。同じ腎臓にできたがんでも、腎盂(尿の通り道)にある細胞ががん化したものは「腎盂がん」と呼ばれ、腎細胞がんとは区別されます。
 腎がんは女性より男性に多いがんで、毎年約6万4000人が新たに発症しています。主なリスク因子としては喫煙や肥満、高血圧などの生活習慣が挙げられます。また長期にわたって透析治療を行っている人も発症しやすいといわれています。
 腎がんは早期の自覚症状はほとんどありません。進行すると血尿や側腹部痛、腹部のしこりなどが生じます。早期発見にはCTやMRI、超音波検査といった画像診断を受ける必要があります。企業健診や成人病検査の際に腹部超音波検査を併せて受けると早期発見につながりやすくなります。
がんと診断された場合は追加の画像検査と血液検査も行われ、転移の有無や転移した部位が調べられます。

主な治療法

部分切除術で機能温存を目指す

 腎臓がん治療の第一選択は根治を目指す手術。最近は早期に発見される症例の増加に伴い部分切除術が主な治療です。腫瘍が7㌢以下の場合などは腎臓の一部分だけを切除する腎部分切除術が多くなっています。部分切除はより良好に腎機能を温存できる術式です。
 2016年、ステージ1の腎がんに対する腎部分切除術に限り、ロボット支援下手術が保険適用されました。ロボット支援下手術では、カメラや手術器具を取り付けたロボットアームを遠隔で操作し、拡大した映像を見ながら治療します。多関節で構成されるアームは広い可動域を持ち、腎臓のどの位置に生じたがんでも切除可能です。精緻な病変の切除や腎臓の再建に寄与し、高度な技術を必要とする部分切除の課題をカバーする術式として主流になりつつあります。ただし7㌢を超える病変は保険適用外となります。
 全摘に関しては腫瘍が大きく大血管などへ浸潤している場合や血液透析などの事情によって腎臓が機能していない場合に限って行われます。最近ではロボット手術などを積極的に行っている施設では、このような例外的なケースのみ行われており、全体の10%以下に減少しています。腎臓は2つあるので、1つ摘出しても残った腎臓が正常であれば機能的には余力があります。
ただ残った腎臓の機能が不十分である場合、慢性腎臓病(CKD)を発症するリスクが高くなります。22年から根治的腎摘除術に対してもロボット手術は可能となっています。
 薬物療法の進歩も大きなトピックです。腎がんに抗がん剤は効きづらい性質があり、従来はサイトカイン製剤が主に用いられてきましたが、転移例の治療には難しい状況でした。ところが、近年、がん細胞の増殖に関わる特定の物質だけに作用する分子標的薬や、免疫が病変を攻撃する力を保つ免疫チェックポイント阻害薬など効果的な薬物が登場し、転移例には、これらを併用する治療法が主流となっています。22年8月からは再発予防の目的で免疫チェックポイント阻害剤のうちペムブロリズマブが使えるようになりましたが、条件が厳しく決められています。


東京女子医科大学附属 足立医療センター 泌尿器科 教授・部長 
近藤 恒徳(こんどう・つねのり)

1990年、北海道大学医学部卒業。94年から2年間米クリーブランドクリニックに留学。
東京女子医科大学泌尿器科准教授を経て2017年より現職。
日本泌尿器科学会認定・専門医、日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定制度認定医、
日本内視鏡外科学会泌尿器腹腔鏡技術認定医など。

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載