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オンライン研修では、カメラはいつもオンにするべき?〜オンライン研修にまつわるよくある誤解①〜

こんにちは。JMAM出版部です。

「世の中から、退屈で身にならない研修を減らす」ことをミッションに、講師養成や研修内製化等の支援を続ける中村文子さん。そして、世界30ヶ国12万人が学んだ「参加者主体の研修」を開発したボブ・パイク氏。

学びのプロフェッショナルとも言える2人の共著「参加者主体の研修」ハンドブックシリーズの第5弾『オンライン研修ハンドブック〜退屈な研修が「実践的な学び」に変わる研修設計〜』が、2021年3月23日に発売を迎えます。

昨年春から急激に広まった研修・授業のオンライン化。
リアルでの研修が難しくなった中で、「何とかオンライン化した」という方は少なくないかもしれません。「オンライン化」ができた次のステップとして、「学習の質」が問われることになります。
では、効果的なオンライン研修を行うためには、一体何が必要なのでしょうか。
そんな疑問に対するヒントとして、発売間近の新刊『オンライン研修ハンドブック』の原稿の一部を、先行して公開します(全4回シリーズとなります)。

「オンライン研修」についての、よくある誤解

 2020年3月、対面集合研修が行えない事態は、突然やってきました。 状況が好転するまで延期となった研修、キャンセルになった研修も多かったかもしれません。しかし、4月から始まる新入社員研修をはじめ、延期やキャンセルにすることができないものもあります。 それに「状況が好転する日」はそんなにすぐにはやってこないのではないか――そんな様子が見られる中で、「これまで対面集合で行っていた 研修を、オンラインで行う」という緊急かつ重要なニーズが生まれたので す。

 万全な準備を期して迎える変化であれば、「より快適になるような準備」 を行ったうえでスタートできたかもしれませんが、「そんな余裕はなかっ た」という方は非常に多かったように見受けられます。
 最低限のものをなんとか用意して走り出した――日本における「研修の
オンライン化」は、多くの方にとってこうした状況だったのではないでし
ょうか。

「とにかく、必要な研修を必要な方に届けなければいけない!」
 そんな緊急のニーズに何とか対応できたのは、素晴らしいことだったと思います。講師のみなさんも、研修担当者のみなさんも、大変なご苦労をなさったことでしょう。

 こうして「オンライン化」が進むかたわらで、新たなニーズが生まれています。それは、「オンライン研修の質の向上」です。環境の変化に対応して、それまで行っていた研修のオンライン化を行いながら、研修の質の向上や、学 習環境の改善、コンテンツの向上といった試行錯誤も同時に行う必要があるというわけです。



 今、研修・授業を提供する講師・教員のみなさまは、本当に大変な状況
に置かれている――心からそのように感じます。
 一方で、さまざまなオンライン研修・オンライン授業の様子をうかがう
中で、いくつかの「誤解」が生じているのではないかと考えています。

とくに、次の3つはとてもよくある誤解ではないでしょうか。





○オンライン研修に関する3つの誤解

【誤解1】オンライン研修は、講師の講義を「配信」することなのか

【誤解2】オンライン研修で、講師の存在をアピールする必要はあるの
か

【誤解3】オンライン研修では、テクノロジーを使いこなすことが最重要なのか

【誤解1】オンライン研修は、 講師の講義を 「配信」することなのか


 研修のオンライン化が始まってすぐの頃に多く見受けられたのは、「講師が話している姿を配信する」というスタイルのものではないでしょうか。
 講師が画面に向かって話している様子、時には講師の後ろに設置されているホワイト ボードを使って何かを説明したりしている様子を、参加者に見てもらうと いうタイプの研修です。 これは、それまで対面の集合研修で行っていたことを、そのままオンラインで行おうとしたものだと考えられるでしょう。

 対面での研修の場合、講師の魅力的な講義や、講師自身の発するエネルギー、場の雰囲気によって、引き込まれてしまい、「あっという 間に時間が経っていた」と感じられるほど学習に集中するというケースは 少なくはありません。
しかし、対面での研修とオンライン研修で、根本的に異なる点がひとつあります。それは、人が同じ空間にはいないという点です。

 どれだけ講師が話す様子を伝える映像や音声の質を高める努力をしたと
しても、講師自身の発するエネルギーや場の雰囲気を、対面の時とまった
く同等に伝えることは難しいのです。
 オンライン研修では、講師の話に引き込まれ、内容に集中し続けられる時間は、対面の時より短くなります(本書の中で詳しく述べますが、オンライン研修では4分ごとに参加者にリアクションを求めたり、問いかけたりして巻き込むことで集中 を持続させるようにします)。

そもそも「講義」を聞く・見るのが効果的なオンライン研修なのか

 とはいえ、効果的なオンライン研修を行うためには、講師は講義をしてはいけないというわけではありません。もちろん、講師が講義をする時間は必要なものです。
 ですが、参加者が、講義をひたすら「見る」「聞く」というスタイルが、オンライン研修のあるべき姿なのかという点は、考える必要があります。

 なお、研修のオンライン化に際して、講師からこうした声を聞くことがありました。

「反応がないからしゃべりにくい」
「カメラに向かって孤独に話し続けるのがつらい」

 これは図1-1の状態です。 

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 こうした一方的な講義が、効果的な学習につながるケースは、残念ながら非常に低いと言えます。なぜならば、研修は、「説明する」「伝える」ことが目的ではないからです。

 すべての研修は、「結果」 を得るために行うものです。 
 講師は、参加者が研修で学んだことを活かして、さらに活 躍してもらう手助けをする存在なのです。研修で学んだこ とを参加者自身が活かしてこそ、講師の役割が果たされるのです。

講師と参加者の双方向のやり取りがあれば十分なのか

 図1-1のように講師による一方的な講義が効果的ではないという点は、 多くの方が納得されることかと思います。参加者が受け身ではなく、主体的に学んでもらえるように、参加者に問いかけを行っている方も多いので はないでしょうか。

 たとえば、参加者からの発言を引き出そうと、このような言葉を発している方もいるかもしれません。

「ここまで、よろしいですか? OKであればOKサインをジェスチャーで教えてください」
「疑問点がある方は手を挙げて教えてください」

これは図1-2の状態です。 

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 図1-1よりは参加者を巻き 込み、双方向な研修を進められていて良さそうだと感じる かもしれませんが、はたしてそうでしょうか。

 私たちが提唱する「参加者主体の研修」では、図1-3の状態をつくることを推奨しています。なぜならば、参加者同士が関わり、学び合いが起き、学びを深めたり、新しいものを創り出し たりすることにこそ、集合する価値があると考えるからです。 

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 これは対面集合研修でもオンライン研修でも同じです。
「配信」するスタイルのオンライン研修(図1-1のスタイル)では、こうし た参加者同士の学び合いは実現できません。
 また、図1-2のスタイルも、十分ではありません。つまり、講師と参加者の1対1のやり取りに加え、参加者同士が話すことが含まれた対話の形をつくり、集合するからこその価値のある学びの場を提供することが、「参加者主体の研修」なのです。

 研修は、講師から正解を学ぶだけの場ではありません。
 正解を学ぶだけであれば、Eラーニングや書籍などでも十分であり、オンライン上に集合 して研修を行う必要はないかもしれません。
 本書で目指す「参加者主体の研修」においては、「参加者同士の対話」 が欠かせません。参加者同士が対話をすることで、考えが深まったり、課題を自力で解決できたり、経験や事例のシェアから学ぶことができたりと、学びが豊かになるからです。

オンライン研修は「カメラ・オン」が必須?

 なお、少し話がそれますが、図1-2の状態で、「リアクションがないと話しにくいから、参加者にリアクションを求める」というケースがあると聞いたことがあります。 
 しかし、これは残念ながら講師都合の発想です。
 参加者の学びにとって意味があるというより、講師にとっての安心材料に過ぎないのです。

 研修で行うことは、講師の都合より参加者の学びの効果を優先すべきではないでしょうか。

 そもそも、参加者のリアクションを目で確認するためには、前提とし て、参加者のカメラが全員「オン」になっている必要があります。
 オンライン研修においては、参加者の参加姿勢や、反応を講師が視覚で確認できるようにするために、カメラを「オン」にすることを求めるケースが多いと見聞きしますが、はたしてこれは、参加者の学びにとってプラスの影響を及ぼすのでしょうか?
 人の目は明るいものや動くものに反応するのが自然です。
 オンライン研修でスライドの周辺に講師や他の参加者、そして自分の映像があると、そちらに目が行きます。他人の様子も気になりますが、自分のカメラ映りも気になります。これは見方を変えると、他人や自分の映像は、学習内容に集中することへの妨げの要因になるということです。

 このように考えると、講師が参加者の様子を視覚上で確認することよりも、参加者の集中を高めたり、学びやすい環境をつくったりすることを優先するならば、カメラはオフにするほうが良いと言えます。

その研修は、本当に集合して行う必要があるものなのか

 また、オンラインで講義を「配信」する研修においては、話し方や説明の仕方としった講師のデリバリー・スキルが高くない場合、その研修は、参加者にとって、かなり苦痛なものになるでしょう。
 そのような質の研修では、オンライン上で集合して研修を行うよりも、 デリバリー・スキルに長けた講師が行う講義動画を、オンデマンド配信し、個別学習を行ってもらうほうが効果的だと言えるでしょう。
 なお、これは、オンライン研修だからこそ生じているものではなく、そ れ以前の「研修デザイン(インストラクショナルデザイン)」や「デリバリー・ スキル」の課題です。

「オンラインでは、参加者の反応が見えない」という多くの講師が感じた印象は、実は、とても重要な問題を提起しています。

 これまで図1-2のスタイルで研修を行ってきた方々は、場の空気や参加者の様子を見て、臨機応変に対応していたのでしょう。うなずいている姿 を見て、「理解されている」「受け止めてくれている」と感じる、困惑している表情の人がいたら声をかける、リアクションが必要な時は誰かを指名 して発言を求める――こうした判断を、「その場」で行っていたことでし ょう。ここに挙げたような臨機応変な対応ができることが、講師にとって重要なスキルだと考えている方も少なくはないかもしれません。
 ですが、オンライン研修では、「その場の判断」を行うための視覚情報が激減することになります。よって、「参加者の反応が見えない」ため困惑する講師が多くなるのです。

 本書が提案する「参加者主体の研修」では、参加者全員を巻き込むこと、 そして参加者同士の対話を重視するというのは、先ほども述べたことです。
 たとえば、「理解できているかどうか」を確認する場合、一般的な研修とはとは次のような点が異なります。


◎「理解できているかどうか」を確認する場合の対応例
【一般的な研修 の場合】

・人の参加者を指名し、発言を求める
・参加者の受け答えから、理解度をつかむ

【参加者主体の研修の場合】
・全員に問いかけ、まず個人で考える時間をとる
・その後、全員の理解度を確認する(方法例:ペアで確認をする、アンケート・投票機能を使って全員に回答してもらう、画面にスタンプを押すなど)

 このような方法を活用することで、全員を巻き込むことができます。
 さらに、アンケート機能を使っての回答は声を出して発言するよりも気軽に
参加できるため、率直な反応を全員から得ることができるようというメリ
ットがあります。

オンラインツールの使い方を知っていることが最重要なのか?

 こうした事例をご紹介すると、次のような質問の声を聞くことがありま
す。

「投票機能やアンケート、画面にスタンプを押す方法など、オンラインのツールの使い方を知っていることがオンライン研修を行ううえでは、一番重要なんですよね」

 もちろん、そうした側面もあるかもしれませんが、オンラインのツール の使い方を知っているだけで、参加者を巻き込んだ効果的な研修が行える わけではありません。
 そもそも、インストラクショナルデザインの段階で、講師と参加者の対話を中心として進む図1-2のスタイルに終始することなく、図1-3のように参加者同士が対話をしながら学習をするものとなっているでしょうか?
 そうしたデザインを行ったうえで、「オンライン上で、ツールは何を使えばいいのか」を検討することになります。

 ここまでをまとめると、「講師の講義を配信」するスタイルで「反応が見えない」という課題に直面した人は、次の3つのステップに沿って考えてみてはいかがでしょうか。

◎「講義配信」型を「参加者主体の研修」にする手順
ステップ1:その時間で参加者に何を習得してほしいか(目的)を明確にする
ステップ2:目的を達成するために、「参加者主体の研修」理論に沿った
      インストラクショナルデザインに変更する
ステップ3:オンライン特有のツールの使い方を工夫する

 誤解2、誤解3については、次の更新で紐解いていきます。


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