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『女性操縦法 “グッド・バイ”より』

1949年
監督:島耕二
出演:高峰秀子、森雅之、斎藤達雄、若原雅夫、江川宇礼雄 他

女たらしのちょびヒゲ編集長・森雅之が方言丸出しだけどちゃんとすればめちゃ美人な高峰秀子に妻のフリをさせ、金持ちの令嬢と結婚するために女たちと次々手を切っていくラブコメ。
女たちも美人の妻を見てしまえばすんなり諦めがつくであろうという魂胆。

正式なタイトルは『女性操縦法 “グッド・バイ”より』
原作は太宰治の遺作ですが、元々はデコちゃんの出演を前提として太宰に執筆を依頼したものだそうで、ところが書いてる途中で太宰は亡くなってしまうので半分原作、半分オリジナルみたいな仕上がりになってます。
そのせいかわからないけど、撮り方が雑というか、場面の繋ぎ方も雑というかね…

これは結局、モリマの愛人してるデコちゃんの親友からデコちゃんに相談があり、デコちゃんの方からモリマに仕掛ける、と…最初からそういうことで話が進まないとおかしいような気がするんですよ。
そうなってないので、終盤の展開でどうも納得いかなくなっちゃう。見終わってもスッキリしない。映画としての完成度はお世辞にも良いとは思えなかった。
コメディとしても中途半端で、劇場内も滑ってる空気がちょっと漂ってましたが…デコちゃんとモリマの息ピッタリな掛け合いでなんとか乗り切れたなぁという印象。

ズーズー弁で大食いの担ぎ屋なデコちゃんは見てるだけで楽しいし(偽妻モード時の美貌とのギャップ!)、無言→ズーズー弁への切り替えが鮮やかで個人的にはそこが一番の笑いどころ。クラーク・ゲーブル風味なモリマもコロコロといろんな表情を見せてくれてファンとしてはその点大満足。デコちゃんに避けられて頭からふすまに突っ込むモリマも必見です。
「狼になっちゃうぞ」とか言いながらデコちゃんに迫るモリマもなんだか珍しいものを見たという気がしてレア感がありますが、冒頭で清川玉枝に迫られるモリマは何だか見てはいけないものを見てしまったという気分になった(笑)

デコちゃんとモリマはこれが初共演とは思えない名(迷?)コンビっぷりで、この後『浮雲』まで共演がなかったのが残念でならない。このふたりが数年後に『浮雲』のあのふたりになるってのも凄いんだけど…
その後は愛人関係がお決まりで成瀬映画の定番コンビとなるわけですが、このふたりで普通に楽しいラブコメをもっと観たかったな。

そういえば、デコちゃんの「わたしの渡世日記」に、この映画の撮影に入る前に太宰治と食事した時のことが書かれてましたね。

新橋駅に現れた太宰治のスタイルはヒドかった。
既にイッパイ入っているらしく、両手がブランブランと前後左右にゆれている。ダブダブのカーキ色の半袖シャツによれよれの半ズボン、素足にちびた下駄ばき。
広い額にバサリと髪が垂れさがり、へこんだ胸、細っこい手足、ヌウと鼻ののびた顔には彼特有のニヤニヤとしたテレ笑いが浮かんでいる…
(中略)
ドブから這いあがった野良犬の如く貧弱だった。

ボロクソ言われてますが、まあこれだけ読んだら確かに酷い。
モリマもよく「太宰治っぽい」なんて言われたりしますけど、まあ役の印象でそう思われるんでしょうけど、ご本人は結構ドライな人ですよ。
太宰はもっとジメジメしたイメージがあるので、私の中ではこの二人はあんまり重ならないですね。

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