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ジャズ・オン・スクリーン:映画におけるジャズの波紋:第4章

割引あり

ジャズと映画のクロスオーバー

ジャズと映画の交流は、1960年代から顕著になりました。この時期、ジャズは既にアメリカ文化に深く根ざしており、多くの映画監督たちはジャズのリズムと感情表現を映画に取り入れ始めました。

例えば、1961年の『Paris Blues』では、デューク・エリントンがサウンドトラックを担当し、ジャズが物語の感情的な核として機能しています。また、1960年代から1970年代にかけて、ジャズはフィルム・ノワールやドラマなど多様なジャンルで活用され、映画のムードを形成する重要な要素となり、その即興性と表現の幅広さで、映画音楽として特有の役割を果たしてきました。

ということで、1970年代から1980年代中盤にかけて、ジャズが物語の感情的な核として機能した映画をご紹介していきましょう。

具体的な映画作品とサウンドトラックについて

『New York New York』は1977年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画で、野心的なサクソフォーン奏者ジミー・ドイル役をロバート・デ・ニーロが演じ、才能ある歌手フランシス・“フランシー”・クリスピン役をライザ・ミネリが演じました。
映画は第二次世界大戦後の祝勝パーティーから始まり、ジミー・ドイル(デ・ニーロ)がフランシー・クリスピン(ミネリ)に出会い、一目で恋に落ちます。二人は音楽的才能と夢を共有しながらも、彼らの関係はジミーの野心と自己中心的な性格によって複雑化します。物語は彼らの恋愛関係とキャリアの浮き沈みを追いながら、ニューヨークを背景に展開されます。
サウンドトラックは、ビッグバンドジャズが特徴で、タイトル曲「ニューヨーク・ニューヨーク」が、ライザ・ミネリによって歌われ、後にフランク・シナトラによってカバーされたことでさらに名声を博しました。この曲は映画の中でフランシーが歌うショーエンディングナンバーとして使用され、彼女のキャリアの頂点を象徴しています。音楽は映画全体を通じて、感情や物語の進行を強調する重要な役割を果たしており、観客に深い感情的な影響を与えます。
ジャズミュージシャンとしてのジミーのキャラクターは、彼の葛藤と成長を通じて映画の物語を推進する中心的な役割を担っています。彼の音楽キャリアの進展は、彼自身の個人的な問題と密接に結びついており、野心と愛情の間での彼の内面的な闘いを反映しています。また、フランシーの音楽的な旅路も彼女自身の自己発見と個人的な解放の物語として描かれています。

『The Last Waltz』は1978年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画で、ロビー・ロバートソン(The Bandのリーダー)、リック・ダンコ、レヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル(The Bandのメンバー)が演じました。
あらすじとしては、ジャズがメインというよりも、カナダのロックグループ「The Band」の最終コンサートを描いています。1976年の感謝祭の日、サンフランシスコのウィンターランド・ボールルームで行われたこのコンサートには、多くのゲストミュージシャンが参加しました。エリック・クラプトン、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェルなど、その時代の著名なアーティストが次々とステージに登場し、彼らの音楽キャリアを祝福しました。
サウンドトラックは、The Bandの代表曲はもちろん、彼らと共演したアーティストたちのパフォーマンスを幅広く収録しています。ジャズ要素的には、ドクター・ジョンの「Such A Night」が印象的です。全体的にサウンドトラックは、ロック、ブルース、カントリー、フォーク、ジャズなど、アメリカ音楽のエッセンスを網羅しており、その時代の音楽的クロスオーバーを象徴しています。
様々な演奏スタイルと音楽的アプローチが映画の音楽的風景に独特なニュアンスを加えています。例えば、ドクター・ジョンやバン・モリソンは、ジャズやR&Bの要素を取り入れることで、コンサートの雰囲気を豊かにし、観客に新しい音楽体験を提供しました。これらのアーティストの参加は、映画が単なるロックコンサートの記録に留まらず、幅広い音楽ジャンルの融合を示す作品となるのに貢献しています。

『All That Jazz』は1979年に公開されたボブ・フォッシー監督の作品で、才能あるが自己破壊的な振付師兼映画監督であるジョー・ギデオン役をロイ・シャイダーが演じ、ジョーの死を象徴するキャラクター、エンジェル役をジェシカ・ラング、ジョーの元恋人であり、親友のケイト役をアン・ライニングが演じました。
ボブ・フォッシー監督自身の半自伝的な作品として、ブロードウェイの振付師日常を描いています。ジョーは仕事に情熱を注ぐ一方で、健康を害するほどの過剰な飲酒、喫煙、女性関係に溺れる生活を送っています。彼の健康は徐々に悪化し、最終的には彼の生と死を見つめ直すことを迫られます。
サウンドトラックは、ジョージ・ベンソンの「On Broadway」やピーター・アレンの「Everything Old Is New Again」など、ジャズとブロードウェイミュージカルナンバーが特徴です。サウンドトラックは映画のテーマやシーンに合わせて様々な曲が使用されており、特にジョーの精神状態や内面の葛藤を表現するのに効果的です。例えば、彼の手術シーンでは、実際の手術の緊張感とドラマを高めるために幻想的で力強い音楽が使用されます。
ジャズが中心というよりは、ブロードウェイの音楽スタイルが映画に影響を与えていますが、キャラクターの感情やストーリーのテンポを効果的に表現する手段としてジャズが利用されています。ジャズのリズムと即興性は、映画のダイナミックな編集スタイルと非常によく合っており、視覚的な映像と音楽が一体となって観客に強い印象を与えます。

『ジャズシンガー』は1980年に公開されたリチャード・フライシャー監督の作品で、伝統的なユダヤ教の家庭から来た若者で、ポップスターを目指すジェシー・ロビン役をヨシー・ラビノビッチが演じ、ヨシーの父で、彼に家族の伝統を守るよう求めるカントール・ラビノビッチ役をローレンス・オリヴィエが演じ、ヨシーの友人であり、後に彼の恋人となるモリー・ベル役をルシー・アーナズが演じました。
この映画は、アル・ジョルソンが1927年に主演した同名映画のリメイクで、若いユダヤ人シンガー、ヨシー・ラビノビッチが家族の宗教的伝統と自身の音楽キャリアの間で葛藤する物語です。ヨシーはポップスターとしての成功を夢見て家を出ますが、その過程で家族との絆とアイデンティティについての問題に直面します。映画は彼の個人的な成長と音楽キャリアの発展を追います。
サウンドトラックは、ニール・ダイアモンドによる数多くの楽曲を含んでおり、その中でも「America」「Love on the Rocks」「Hello Again」などが特に有名です。これらの曲は、ヨシーの感情や映画のキーモーメントに対応して配置されており、彼の孤独感、恋愛、家族との関係など複雑な感情を音楽を通じて表現しています。サウンドトラックはポップミュージックの要素が強いものの、ジャズの影響も感じられるアレンジがされており、映画のテーマ性を支える重要な役割を果たしています。
ニール・ダイアモンド自身はジャズミュージシャンではないものの、彼の音楽にはジャズの影響が見られます。映画での彼の演技と音楽は、ジャズの感情的な深さと即興性をポップミュージックの文脈で提示し、ジャズとポップの融合を感じさせます。

『The Cotton Club』は1984年に公開されたフランシス・フォード・コッポラ監督の作品で、才能あるトランペット奏者であり、同時にギャングスターの世界にも関わるマイケル・ドワイヤー役をリチャード・ギアが演じ、才能あるタップダンサーで、自身のキャリアと人種的な困難に直面するサンドマン・ウィリアムズ役をグレゴリー・ハインズが演じ、美しく野心的な女性で、ナイトクラブでの成功を夢見るヴェラ・サイクロン役をダイアン・レインが演じ、強力なギャングスターで、物語の暗い側面を象徴するダッチ・シュルツ役をロン・カーヴァーが演じました。
1920年代のニューヨーク、ハーレムにある伝説的なジャズクラブ「コットンクラブ」を舞台にしています。映画はマイケル・ドワイヤーとサンドマン・ウィリアムズの二つの異なる物語を交錯させながら進行します。マイケルは音楽と愛、そしてギャングとの関係に苦悩し、サンドマンはタップダンサーとしての成功と人種差別に立ち向かいます。二人の物語は、ジャズ、ダンス、犯罪、恋愛を背景に展開され、当時の社会的な緊張や文化的な活気を反映しています。
サウンドトラックはジョン・バリーが手掛け、ジャズとブルースが融合した楽曲が特徴です。映画には当時のヒット曲やオリジナル曲が含まれており、特に「Cotton Club Stomp」と「Creole Love Call」などの楽曲が時代の雰囲気を色濃く反映しています。ジャズミュージシャンのキャラクターと実際のジャズ音楽が映画に深い影響を与えていて、マイケルがトランペットを演奏するシーンでは、ジャズ音楽が彼の内面の感情や物語の緊張を高める手段として使用されます。また、サンドマンが舞台でタップダンスを披露するシーンでは、ジャズリズムが彼のパフォーマンスのダイナミクスを強化し、観客に強い印象を与えました。

単なる背景音楽を超えた映画におけるジャズの役割

1970年代から1980年代中盤にかけての映画では、ジャズは物語の感情的な核として機能しました。この時期の映画作品でジャズはキャラクターの心情を反映し、緊張感を増す手段として利用されていることが明らかになりました。例えば、『ニューヨーク・ニューヨーク』ではジャズが恋人たちの情熱的な関係を象徴する音楽として使用され、『ザ・ラストワルツ』ではロックと融合しながらもジャズの根底にある即興性が際立ち、映画の生々しさを引き出しています。『オールザットジャズ』と『ジャズシンガー』では、ジャズが登場人物の内面的な葛藤や芸術への情熱を表現する手段として使われ、『コットンクラブ』ではジャズが1920年代のハーレムの華やかな雰囲気を再現する上で中心的な役割を果たしました。

次の章では、1980年代中盤から1990年代にかけての映画に焦点を当て、ジャズがどのようにして映画の感情的な深みを掘り下げる手段として活用され続けたかを探ります。この時期には、映画での扱われ方もより洗練され、多様な感情表現の手段として使われるようになりました。

記事は以上となります。
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