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【読書感想文】『資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター』名和高司 著(日経BP) 

 本書を読み終えて、テレビでワールドカップのサッカー観戦をしていると、サッカーの試合の流れとシュンペーターの思想には共通点があるかもしれないと思えてきた。サッカーの試合は時々刻々と変化するので時間が基軸となる動態環境下である。サッカー選手が誰もいない場所にボールを蹴り出して、味方の選手が走り込んで得点するシーンがあった。シュンペーター流の見方をすると、ボールを持った選手がドリブルすることで状況に自ら変化を起し、広い視座の「ズームアウト」でパスコースを探し、誰もいない場所にボールを蹴り出すことで「マーケットアウト」のように顧客である味方選手の活動場所を創出し、最後に得点を獲得するという「スケールアウト」でハッピーエンドを迎えた。サッカーとシュンペーターは一見すると関係無さそうであるが、関連を見つけて「新結合」することで何か新たな価値を生み出すかもしれない。このように身近な事柄に関してシュンペーター流に考えるとどうなるか?ということを考えるきっかけを与えてくれたのが本書である。本書の内容はわかりやすく、経済活動を俯瞰的に捉えるための一つの基準を学ぶことができた。

 エンジニアとして働く私にとって「イノベーション」という言葉はよく耳にする。本書を通して、「イノベーション」というのは技術革新という狭い意味ではなく、仕組み作りも含めた広義の変革であるということがよくわかった。「モノづくりからコトづくりへ」という過去に聞いたことがあるキーワードが再び頭をよぎった。また、エンジニアの私にとっては、ついつい「0→1」の技術を生み出すことに価値を見出してしまうが、本書では「1→10」で社会実装することの大切さ、そして「10→100」で大きくスケールして世の中のデファクトを目指すことの重要性を丁寧に説いてくれたおかげで、自分自身の考え方を広げることができたと思う。もちろん、「0→1」のアイデアは尊いけれど、それ以上に経済活動にうまくのせることの意義と、その後の展開を知ることができて技術の活かし方の展望を持つことができた。賛否両論あるかもしれないが、本書のように「価値が低いと見なされる事柄」に対してはきちんとダメと言ってくれるのはありがたいと思った。

 「アントレプレナー」という言葉もよく聞く単語である。本書を読む前の私は「アントレプレナーは起業家」という程度の認識であった。しかし、本書を読むことで「アントレプレナーは行動する人」という認識に変わり、さらに「アントレプレナーと銀行家」には適切な役割分担があることを知った。今まで輪郭がぼやけていた「アントレプレナー」という言葉が、本書を通してリアリティのある言葉として捉えることができるようになった。「アントレプレナー」という存在を語るために、著者が「信の3活用」として「信念・信用・信頼」という切り口で説明されており、アントレプレナーに「購買力」を宿らせるための考え方を知ることができ有益であった。また、アントレプレナーとしての存在感を増すためには、「観察・判断・決定・行動」というOODAループを素早く回さなければならないということも知ることができ、日々の自分自身の行動に活かそうと思った。

 新結合に必要な5つの無形資産として「知恵・人財・顧客・生態系・ブランド」が挙げられていた。また、これらは重要な無形資産であるが資産計上できないという問題点も指摘されていた。エンジニアの分野では「技術は人に宿る」という言葉がある。財務指標としてのカネやモノがあるだけではイノベーションが起きないことがよくわかった。無形資産を適切に評価して、新しい基軸を創出できれば、新たな価値が生み出されて、社会の停滞感が打破される可能性がある。基軸を自由自在に創り出し、そして活用していける人達が次世代を築ける人達だと思うので、自分自身が少しでも参画できるように日々鍛錬が必要であると思った。

 最後の章では、シュンペーターが日本に舞い降りて、政治家や経営者に辛辣なコメントを残したり、学生達を鼓舞したりするのはおもしろかった。現代日本の問題点をシュンペーターを通して指摘して頂いたおかげで、シュンペーターの思想の理解が深まるとともに、シュンペーターの偉大さを感じることができた。自分自身が「パーパスおじさん」や「両利きおじさん」で満足せずに、きちんと地に足をつけて行動できる人間になることを目指そうと思った。

 色々と示唆に富む内容の本書を誠にありがとうございました。繰り返し読んで、書かれている内容を少しでも自分のものにしたいと思います。

#読書の秋2022
#シュンペーター

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