キレイゴト

記憶の断片

僕がまだまだ、幼かったころ。
親戚の集まりだったと思う。

母は、まだ幼い僕の言動を
みんなに披露して笑いをとっていた。

とても恥ずかしかった印象を
はっきりと覚えている。

僕は、
みんなに笑われるような
恥ずかしい人間なんだ。


記憶の断片

小学校一年生のころ、
僕は友達と大声で
大はしゃぎしながら外で遊んでいた。

でも、
とても人見知りで、
その友達以外の前ではとてもおとなしかった。

通学団で帰るとき、
六年生の女の子二人組にからかわれた。

「いつも、あんなにはしゃいでいるのに、私たちの前ではおとなしいのね」

そして、頬をつねられた。

「ほら、友達と遊んでいるときみたいに、大きな声をだしなさいよ」


通学団で下校するたびに、
毎回繰り返された。

泣きながら家に帰るが、
母には知られたくなかった。

涙を拭き、
なにごともなかったように帰宅した。

僕は、学んだ。
本来の自分をさらけ出しては、ダメなんだ。

僕は、大声ではしゃげなくなった。

そして、
母にそんな自分を知られたくなく、
気持ちを抑え込むことを学んだ。


記憶の断片

いつしか、
母は思い通りにいかない子育て、
夫婦関係、などなどで
いつもイライラするようになっていた。

母は自分の思い通りにいかないことに
我慢がならなかった。

近所中に響き渡るほどの声で
怒鳴り散らしていた。

母がトイレに行きたいタイミングで、
僕がトイレに入ってしまうと、
5分以上も叫び続けていた。

僕は、本当は怖かった。

けれど、
いちいち怖がっていては生きてはいけない。

僕は、自分の感情を感じなくなっていった。


記憶の断片

母は、
とにかく僕に勉強させようとした。
僕は常に、
勉強机の前に座っていなければならなかった。

子供として、
遊ぶことも、
テレビを見ることも許されなかった。

僕にできるのは、
いかに勉強机の前での時間をやり過ごすか、
だけ。

勉強するふりをして、
落書きばかりしていた。
こっそりゲームボーイで遊んだりも。

勉強がとても嫌いになった。

学んだことは、
いかに目の前の課題から逃げるかだ。

記憶の断片

僕は、
自分の考えや意見が持てなくなっていた。

人前では、
感情を抑え込むばかり。

いかに人に合わせて、
怒られないか、
嫌われないか、
それしかなかった。

小学校2年生の時、
学校の朝の会。

一分間スピーチとして、
毎朝クラスの一人が教壇の前に立ち、
話をすることになっていた。

僕の番が回ってくる。

僕はただ立ちすくむしかなかった。

自分の話が受け入れられる自信は、
みじんもなかったし、

そもそも自分の考えも感情もなにもかも、
自分自身で分からなかった。

みんなの前で、
自分をさらけ出すなんて、
とても怖くてできない。

そんな僕を担任の先生は叱った。
すごく怒った。

僕はダメな人間なんだと、
しっかり教育された。


記憶の断片

僕は人前では、
自分の感情や欲望をいつも抑え込んでいた。

その反動は当然あったと言い訳したい。

僕は、
こっそり母の財布から
お金を盗むようになった。

そして、
こっそり欲しいおもちゃやゲームを買った。

人前ではすごくまじめな子。
一円玉を拾っても、
交番に届けそうだと言われた。

けれど、
人前でなければクズ人間だった。

僕は、
人前での真面目な自分と、
人前でないところでのクズ人間という、
二つの自分に引き裂かれてしまった。


記憶の断片

僕は
目の前の課題から逃げるようになった。

僕は、
自分を育てられなかったので、
なにもかもが重荷になった。

宿題はまったく提出できなかった。

とにかく、
なにもかも荷が重すぎて逃げまくった。

作文なんか、特にそうで、
自分の意見なんかないし、
表明するなんてもってのほかだ。

そんな自分を責め続けた。

明日こそは逃げずにやりたい。

けれど、
明日になっても逃げるしかなかった。
そして、そんな自分を責め続けた。


記憶の断片

人間関係は、
すべて親子関係が再生された。

友達といっても、
母との関係と同じように、
主従関係に近かった。

いつも友達の顔色をうかがい、
友達の言うことに従うことで
関係性を保っていた。

やがて、
働くようになっても、同じだった。
上司や先輩との関係も、
いつも母と自分との関係の再生産になった。

そして、
やっぱり逃げ出した。

耐えきれなくなり、友達から逃げ出した。

やがて、迎えた孤独な人生。

思い起こせば、
小学校のころから、
人に心を開いた記憶がない。

一応、
体は社会に出ていたけれど、
心は自分の中に引きこもっていた。


キレイゴト

自分なクズぶりを見たくなかった。
クズな自分から逃げたかった。

けれど、
自分からだけはどうしても逃げられない。

なので、
キレイゴトを考えて自分を正当化しようとした。

社会はこうあるべきだ。
人は優しくあるべきだ。
自然は守られるべきだ。

こんな立派なキレイゴトを持っている自分は
正しいんだ。

そんな風に
自分をなんとか正当化しようとしていた。

そのキレイゴトは、
ものすごく汚く醜い。
その偽善は、
目も当てられないほど汚れていた。


出会い①

キレイゴトを正当化するために
社会に興味をもった。

そして、
宮台真司という社会学者を知った。
好き嫌いの分かれる、
凄くクセのある社会学者だ。

そんな社会学者の発言は、
すべて、
僕がクズだと言っていた(ように感じた)。

別に僕個人に話しているわけではないけれど、
その発言すべてが
僕のクズぶりをはっきりと示していた。

僕をクズだと示す発言は、
逆に僕を安心させた。

もう、
自分のクズさから逃げなくていいんだ。

僕がクズだとはっきり示してくれたおかげで、
僕は本当の自分と初めて向き合えるようになった。

自分がクズだと知ることは、
とても痛いことだけど、
逃げ続けるよりも
自分をずっと楽にしてくれた。


出会い②

僕は飲食店で働いている。

ある時、
一人の女子大生が
アルバイトとして入ってきた。

その子は、
とても明るく優秀で、輝いていた。

しっかりとした意見を持ち、
なんでもやり切るタイプの子だった。

大学で一番優秀な成績を収め、
表彰されていたし、

県の企画に学校から代表として参加し、
最優秀賞をもらっていた。

とにかく輝いていて、
年下だけれども、
すごく尊敬してあこがれを抱く。

その子は話好きでいっぱい話をしてくれた。
それは楽しい経験だった。

けれど、
夜に家に帰ると、
すごく落ち込んだ気分になる。

その子はすごくきれいな鏡だった。

そこに映し出される自分の姿が
あまりにも情けなく、汚らしかった。

その子と話をすると、
非常に楽しい反面、
自分のクズぶりを
はっきり認識させられた気分になり、

「もう死にたい」とつぶやいていた。


自分と向き合う

もう逃げられなかった。
自分と向き合うしかなかった。

本をたくさん読むようになった。

それらの本、
すべてが僕に
自分のクズぶりを突き付けてきた。

もう逃げられなかった。

向き合うしかなかった。

いかに自分がクズで、
いかにそれを克服していくか?

自分と向き合い、
自分との対話が始まった。


キレイゴトの作り方

インプットを出来るだけした。
そして、
自分との対話を繰り返した。

インプットをしまくると、
不思議と
アウトプットもできるようになっていった。

あれだけ、自分の意見をいうことや、
作文を書くことが苦手だったのに、
自然とできるようになっていった。

インプットをしまくると、
自分のキャパを超えてしまい、
あふれ出てくる。

それがアウトプットなのかもしれない。

けれど、
結局出てくるのは
汚れたキレイゴトでしかない。

優しくありたいと言いながら、
それは単に
自分を正当化するためのキレイゴト。

誰かを助けたいと言いながら、
それは単なるメサイヤコンプレックス。

僕からいっぱい、
汚れて醜いキレイゴトが出てくるようになった。


キレイゴトを磨いていく

汚れて醜いキレイゴト。

単なる自分のための偽善。

徐々に
人間関係を築けるようになってきた僕は、
その醜いキレイゴトに苦しめられる。

言っているだけで、
なにもできないキレイゴト。

考えているだけで、
なにも変わらないキレイゴト。


そんなキレイゴトで自分を傷つけた。
痛かった。

でも、自分を傷つけ
痛い思いをすると、
徐々に
実際に人を助けられるようになっていた。

自分を傷つけるといっても
昔とは明らかに違う。

僕は、
自分を傷つけていたのではなく、
自分を磨いていたのだと思う。

ヤスリで磨けば、当然痛い。

けれど、
磨けば磨くほど、キレイになっていく。


キレイゴトは、最初は汚く醜い。
偽善は、くすんで汚れている。

でも、
汚く醜くても
磨いていけば、いつか輝くかもしれない。

だから、

僕はキレイゴトを言い続ける。

そのキレイゴトで自分を磨いていくのだ。

醜いキレイゴトをきれいに磨いていくんだ。

いつか、
醜いキレイゴトが、
美しく輝くキレイゴトになることを信じて。



こんな文章を読んでいただいた方、
ありがとうございました。

長々と自分語りをしてしまい申し訳ございません。

読んでいただいた方に心から感謝です。

本当にありがとうございました。



人間の本質はいざというときに現れると思います。

そのいざというときに、
僕のキレイゴトが
しっかり磨かれていたかが試されるのだと思います。


プロフィール記事がなかったので、
これを自己紹介とさせていただきます。

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