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理想の夢と現実⑧

扉の中に入ってすぐ、僕が先ず見た夢は僕自身が何処ぞの殿様になってる夢だった。優遇され、

「世継ぎはまだか?」

と急き立てられる事もなく自由気ままに振る舞い、過ごした。僕の夢の中では戦がない。故に毎日が平和で楽しい。食事の心配もない。従者に命令すれば持ってきてくれる。それも美味い食事ばかりだ。剣の修行もした。僕は城の誰よりも秀でていて、“剣豪”と謳われた。夢の中では民の考えている事、求めている事が手に取る様に分かった為、それらを実行した結果、民からも慕われた。強くて賢くて義に厚い殿様になれたのだ。まさに僕の気分は最高だった。

翌朝、小鳥のさえずりの音とカーテンから差し込んでくる陽の光で目を覚ました。時計の針は7時をさしていた。何日ぶりだろうか、こんなに気持ちのいい朝を迎えたのは。
カーテンを開け窓を開ける。雲ひとつない青空に蝉の声が遠くから聞こえてくる。陽はジリジリと朝から僕の住む町を煌々と照らしている。着替えを済ませ、階段を下りる。洗面所で顔を洗い、キッチンに向かう。

「あら、おはよう。今日から夏休みじゃないの?」

母が料理をしながら声をかける。

「おはよう。夏休みだよ。今日は近所の図書館で自習しようと思って。」

僕はそう答えた。今日はトーストに半熟の目玉焼きだ。ジブリ作品のどれかにあったように、僕はトーストに目玉焼きを載せて頬張る。半熟卵が口の中いっぱいに広がる。

「あら、じゃあお弁当いったかしら?」

「いや、おにぎり握って保冷バッグに入れて持ってくよ。それでももし足りなかったら、図書館の近くにはコンビニがあるから、寄ってみるよ。」

そんな会話を母としているのを、父は変わらず新聞を見ながら無言で聞いていた。今日は僕が起きてリビングに来る頃には、テレビは切られていた。余程面白くないニュースでもあったのだろう。

それから10時過ぎに家を出て、リュックに大量に入っている資料やプリント類をゆっさゆっさ揺らしながら、立ち漕ぎで自転車を漕いでいく。図書館での勉強は捗った。一日で宿題の半分は終わらせた。明日また来たら終わらせられるだろう。気付いたら夕方だった。外に出ると西陽がまだきつい。いそいそと家路を急ぐ。家に帰るとモワッとした空気が漂っていた。親はまだ帰っていないようだ。急いで冷房をつける。直ぐに冷えてくれるとありがたいが、この暑さだ。涼しくなるのに時間がかかるだろう。僕は浴室に行って、軽く水浴びをした。水浴びをしながら、

(今日は…夢見ようかな?どうしようかな…?)

と考えつつ、バスタオルで身体を拭き、リビングに行くと冷えていた。テレビをつけると、夕方のニュースをやっていたが、夏休み特有の事案のニュースが幾つもあった。涼を求めて川や海で泳いで溺れたり、この暑さにやられた人がちょっとした口論で頭に血が上り殺傷事件を起こしたり…

ピッ

僕は直ぐに電源を落とした。楽しくない。やっぱり現実世界はクソだ。面白くない。傍においてあったスマホを触り、夢サイトにアクセスした。これで今日も夢が見れるだろう。暫くすると、親が帰ってくる音が聞こえた。
さて、今日はなんの夢を見ようか…

⑨へ続く…

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