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本とともに旅立つ理由

「さるうさぎブックス」は活動を始めてから3年が経ちますが、その間の活動実績、わずかに6回(泣)。きっちり年2回のペースでやって参りました。

いわゆる「一箱古本市」的な、自分の選んだ本を並べてほかの出店者さんと一緒にお店を出す、一日かぎりのイベントへの参加が大半でした。初めて参加したイベントが、選書について“テーマ”を設けていたのですが、自分の手元にある本を一つのテーマにそって選び並べることが非常に楽しかったのです。それ以来、イベント側のオーダーの有無にかかわらず、毎回一つのテーマを設けて、本と本がつながるような本棚を構成することを考えてきました。

このnoteは、さるうさぎブックスの活動よりも先にスタートしていましたが、その動機である“本から本へ・本と本がつながりますように”というコンセプトは、そのまま一日本屋の活動にもつながっていったのですね。

この度初めて、単回のイベントではなく、常設の店舗(本棚)を持つことになりましたが、“本から本へ・本と本がつながりますように”というコンセプトは、変わらず続けていきたいと思います。

その第一弾が、Go to “Book” Travel。ここに込めたいろいろなモヤモヤ、本好きの皆さま、旅好きの皆さまにはわかっていただけますよね(笑)。

「旅」というものに対するさまざまな思い、きっと多くの方が胸に抱えていらっしゃると思います。本が、そのすべてを解消してくれるわけではありません。でも、本を通じてだからこそ行くことのできる旅、かなえられる旅というものも、確かにあると思います。

そんな思い込めて、さまざまな「旅」の本を並べてみました。

どの本にも、それぞれに思い入れや語りたいことはありますが、まずは一冊、「これはぜひ!」という本を取り上げてみたいと思います。

旦敬介『旅立つ理由』

ザンジバル、ベリーズ、ブラジル、モロッコ、メキシコ、ウガンダ、キューバ、ポルトガル……語り手である「かれ」(ときどきその息子も)とともに、日本から遠く離れた国々の、そのなかでもまた周辺的なところで生きる人々を訪ね歩く短い物語の束。読んでいると、ノンフィクションのエッセイなのではないかと錯覚しそうになりますが、それだけじっくりと練り上げられた文章なのでしょう。奇跡のような小さな出来事や出会い、しみじみと湧いてくる感動、そしてときにほろ苦さが胸に残るーーなかにはやや重たい問題もありますが、それらを含めて、さまざまな旅に出る心を辿ることができます。

この本を読んで、併せて並べたいなと感じたのがこちら。
(※ここから先の本は、Book Studioの棚には並べておりません)

中村和恵『日本語に生まれて 世界の本屋さんで考えたこと』

世界各地の“周縁”とされるところを訪れ、そこで本屋さんやさまざまな本の場所を探し歩くことを通じて、言葉・言語、本や出版のこと、そしてこの世界をどう捉えるのかという見方について、深い考察を重ねていきます。やさしくはないテーマを扱っていますが、やわらかく軽妙な文章が、すっと読者を導いてくれます。

『旅立つ理由』と『日本語に生まれて』、奇しくも版元(岩波書店)も刊行年も一緒なのですね。世界の“周縁”に立つことで、自分たちの生きる日本を新たな視点で見つめ直すことができるという点で、共通するところがある本なのかもしれません。

『旅立つ理由』は、その文章はもちろんですが、差し挟まれた門内ユキエさんの絵がまた素晴らしいのです。本文ページの中に小さな挿画があるというかたちではなく、1ページあるいは見開きを使っていて、一枚一枚の絵を存分に味わうことができます。しかも贅沢といっていいくらいたくさん!

豊かで鮮やかな色使いが、それだけで日本とは異なる世界の空気を伝えてくれます。大胆な構図と、一見ラフなタッチでありながら繊細に描かれた細部から、物語の続きやその周辺にある別の物語が浮かんでくるようです。

この絵からイメージがつながる本としては、大竹伸朗『カスバの男』が浮かんできました(求龍堂/現在は集英社文庫版しか求められない模様)。

美しい群青色の表紙に特徴的な黄色のタイトル文字。現代美術家の大竹伸朗さんがモロッコの旅をいろいろなかたちで記録した本です。文章、スケッチ、絵、写真とさまざまなかたちの記録が集まって、「大竹伸朗が見たモロッコ」の熱量が伝わってきます。一気に読むのもよいかもしれませんが、枕元に置いてちびりちびりと少しずつ味わうのが楽しい一冊でした。

先の話題に戻るようですが、“周縁”ということで気になる本を、最後に一つ挙げたいと思います。

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『なにかが首のまわりに』

いわゆる“周縁”とされるところから届けられた、“周縁”にされた、されてきた人の物語。ただ西洋中心の地政学的および文化的な意味でのそれだけではなく、ジェンダーや家族間の関係など、さまざまな関係のなかにつくられる見えにくい“周縁”について、物語を通じてその存在を現前させる、そんな短編集です。

一見、遠い世界のことのようで、どの物語も入り込めるまでになんとなくもどかしさを覚える感覚があったのですが、いったん掴まれるとグッと奥まで引き込まれる。現実社会においてはかなり重いテーマを、目を背けずに読ませる語りの力があるのでしょう。何の事前情報もなく、たまたま本屋さんの店頭で見つけて(長谷川書店さん、ここはすごくいい本屋さん、絶賛おすすめです)、なにかが気になって手にとった本でしたが、なかなかに衝撃の強い一冊でした。


「旅」という、たいていは楽しくて心弾む感じで出かけるものがテーマなのに、最初の本紹介からなんだかすこし面倒くさい感じになってしまいましたね。でもおそらくそれが、私が本に求めているもので、本との旅、本を通じての旅に出る理由なのだと思います。「さるうさぎブックス」の本棚に並んでいる本からも、そういう色が感じられるかもれません。

そんな本棚はありますが、ぜひのぞきに来ていただければ嬉しいです。

いきなり告知モードに入りますが、この週末も金・土とBook Studioは開店します。そして土曜日(9/12・13時〜18時)は私がお店番に入ります。

お店番にはちょっとした特典があって、Book Studioが入っているノミガワスタジオのスペースを使って、展示その他好きなことを企てていいのだそうです。本屋準備さえギリギリでスタートしたので、今回はしっかり仕込みをしたものは用意できませんが、「Go to “Book” Travel!!」に関連して、(手放したくないので)売れないけれど、見てほしい本というのも少なからずありますので、そんな本を並べたいと思います。

ささやかな蔵書ではありますが、本を一つの入り口に、いろいろな旅のお話ができれば嬉しいです。

コロナ禍の状況下ではございますので、どうぞ十分にお気をつけて、無理をせずに、お越しいただければ嬉しいです。ほどよい距離感を保ちながら(笑)、皆さまをお迎えできればと思います。

この週末も、どうぞよい本の旅を!

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