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本屋、始めてみて……<第5回「本との土曜日」・前編>

「本屋、はじめます……!?」

という、某書店主の本のタイトル(!)をもじった投稿をSNSに投げ込んでからわずか9日後、先日6月17日(土)に第5回「本との土曜日」@BETTARA STANDに出店してきました。

「本との土曜日」は、“毎月・第3土曜日は「本との土曜日」へ。”という標語を掲げて、今年の2月から始まったブックマーケット。日本橋・BETTARA STANDという場のユニークさもあり、これは楽しい場ができたなぁ、と初回に客として訪れて感じました。

その後も毎回ユニークな出店者が登場、さらに第4回からは各回のテーマも設けて、ますます楽しそうなイベントに。ただ行きたいと思いながら、第3土曜日というピンポイント開催のために足を運べないままでおりました。

第4回「本のインド、インドの本」も終わった5月末のある日、Facebookを見ていたら第5回の募集記事がシェアされてきました。そこには「本との土曜日」の主宰者・中岡祐介さんのこんなメッセージが添えられていました。

6.17 第5回本との土曜日「特集 東京のローカル」の出店者を募集しております。
ぼくにとってシンパシーを感じる東京は国分寺小金井小平界隈。例えばその地であれば椎名誠の『さらば国分寺書店のオババ』とか大岡昇平の『武蔵野夫人』があり、本を通じてさらにその土地に親しみを持った。今でも東京に住んだ記憶はその地の記憶だ。
短かったけど2年ほど住んだ護国寺は群林堂の豆大福で有名で、編集者が作家への(原稿を書かせるための)手土産として持参したのが有名なのだけれど、ぼくが本当に大好きだったその菓子について、片岡義男が『豆大福と珈琲』という本を書いた(読んでいないけれど)。
「これからのローカルは」と言い放つとき、ぼくらは無意識に東京を除外してしまってはいないだろうか。東京にはローカルはない、ただ流動的な人口が集積している場所だと言い切ってしまう言説の集積により、東京の「地元性」は透明化していったんじゃないか。
1964の東京オリンピックで東京の風景は激変したという。日本橋の上を大動脈が走り、多くの川は暗渠になった。
2020の五輪を前に、語られてきた東京についてもっと語りたい。そして、ぼくらの東京についてもっと語らないといけないと思っている。
ということで、募集しております!


中岡さんとは本に関するあるイベントで昨秋お会いして以来、本のこと、ローカルメディアのこと等々についてときどき話を交わしていました。

その中岡さんが主宰の本のイベントで、このテーマ。見た瞬間にググッと心をつかまれ、思わず即座にコメントしたところ、中岡さんに背中を押されるかたちとなり、なんといきなり出店することに。

ただ、確かにいきなりではありましたが、実は「一箱古本市に参加する」ことは、ちょっとゆるめの今年の目標ではあったのです。ここ2年くらい一箱古本市などの本イベントをいくつか目にしていて、自分も本を並べる側に立ってみたいと思い、またとにかく新しいことをやってみたいということもありまして。

テーマのあるブックマーケットなので、選んだ本についてもお話ししたいことはたくさんありますが、それは一旦置いておき、まずは出店してみて感じたこと・考えたことなどを徒然に記します。自分自身の備忘録的なものではありますが、何か参考になることがあれば嬉しいです。

<いざ準備、編>
・出店のかたち
あまり自信がないタイプなので、まずは誰かと「共同出店」することを考えました。すぐに思い当たる友人が何人かいたこともありましたので。その友人たちに声をかけたところ、皆とても興味をもってくれましたが、とにかく急な話だったこともあって残念ながら都合は合わず。ただ、初めてのことだったゆえに、当日ギリギリまで自分の手元で調整したいことが山積していた状況を考えると、結果的には、不慣れだからこそ一人出店でよかったかもしれません。棚や細部の準備が十分にできず、相手にも迷惑をかけてしまった可能性がありますし。

はじめは参加している読書会にちなんだ屋号も検討しましたが、やはり一人出店なので、個人的な名称に決めました。それもまた、結果的によかったと思います。今後、再び自分の屋号で参加するもよし、組むパートナーによって別の書店として出店するもよし。イベントによってさまざまなユニットで出店するのもおもしろそうです。
(ブックマーケットへの参加を検討されている方、お気軽にお声掛けくださいね!)

・本を選ぶ
今回は、「棚の6割以上を“東京”をテーマとする本で構成する」というのがルール。

まずは新刊書と古本があり、また古本には仕入れるものと自分で所有しているもの、があります。新刊書なら版元や取次からの購入が必要で(利益ナシでOKなら、書店で新刊書を購入してそのまま並べる方法も)、仕入れた古本を売るには古物商許可が必要。

というわけで、必然的に自前の古本から選書することになったわけですが、果たしてそんなに「東京」本があるのだろうか……応募するうえでも、この点がいちばん心配でした。ところが、ようやく時間が取れて自宅の本をあれこれ探してみたところ、想像以上に「東京」に関わる本が出てくる出てくる。また、それぞれの本どうしにおもしろいつながりが見えて、本が集まるにつれて、徐々に棚全体のテーマや並べ方の流れなどもイメージできてきました。やはりこの本と本がつながる瞬間が、本を読むことの醍醐味ですね。

その後、近所にある個性的なギャラリーに展示を見に行き、ちょっと相談がてら話をしているうちに、今自分が住んでいるこのエリアーー大田区の久が原・鵜の木・下丸子あたりで活動している・していた個性的な人たちに関する本で棚がつくってみてはどうだろうか、ということに思い当たりました。そこから人の縁をたどって、今の私にとっての「東京ローカル」の棚がつくれることに(こちらは主に新刊書)。人と人のつながりにも多々感謝した今回の経験でした。

・当然、読みたくなる!
何分狭いアパート暮し。愛書家の方々と比べると恥ずかしいほど蔵書は少ないですが、それでも、実家に一部置き(かつ、一度大部分を泣く泣く処分)、今も新書などは適宜ブック◯フなどで回転させ、それでも本棚からは溢れるために寝室や収納にスペースを見つけてはなんとか格納する日々。なので、今回はそれこそ発掘のように、家のあちこちから本を引っ張り出してきて、目的の本を探したり、思わぬ本を見つけたり。

そうして久々に手にした本は、やはり読みたくなってしまいます。特に今回は、テーマのある出店のため、自分でも個々の本についてちゃんと理解してお客さんといろいろ話したい、また結果的に手放すことになる可能性もあるので、もう一回読んでおきたい、という気持ちが募るわけです。

結局、イベントの前週末におよその本を用意し終えて、そこから「これだけは読んでおきたい!」という本を厳選(といってもたくさん……)。それからの1週間は、読み止しだった新刊書などを一旦脇に置き、とにかく時間を捻出して、読みに読みました。結局、日曜夜から前日の金曜夜まで毎夜のように夜更かし。さすがに連日これだとつらいですね……ただ、期間が限られていたこと、また一度は読んでいるゆえにより深い解釈や新たな発見があるという再読ならではの部分があったことから、非常に集中力の高い読書ができました。このところずっと経験していなかったような感覚で、ふだんの読書のあり方をちょっと反省させられました。

そのほか、妻とも協力しながらギリギリまで細かな準備を進めつつ、なんとか前夜3時には持参する本を詰め終えたのでした。
(ちなみに、屋号は私と妻の干支にちなむ夫婦ユニット名に由来します)

<いざ出店してみて、編>
・本の運び方

初めてのブックマーケット。荷運びは大きな問題でした。皆さんいったいどうやって運んでいるのか。また、並べる際の棚とか箱とかブックエンドとか考えるとますます悩ましい。そして、自分はバックパック派なので、スーツケースもガラガラも持っていない……

今回のブックマーケットでは、前日夕方着で会場に予め送ることも可能だったので、はじめは木曜午前までに値付けして、大部分の本は送ってしまうつもりでいました。ただ、いざ本を一箇所に集めてみると「あれ、もしかしたらザック(と、ディスプレイにも使う小さめのスーツケース)でいけるのでは?」 選書のちょっとした調整や小物の準備をギリギリまでしたい、また何よりできるだけたくさんの本に目を通したい、と考えると、当日がんばって持っていくほうがいいよね、と思えてきました。

そして当日。メインとなる古書60数冊は全てザックに、また知人からの委託で販売するもの20点ほどにブックエンドなどのディスプレイ小物、さらに夜に友人の結婚式に出席するためのスーツを入れて(!)小型のスーツケースにピッタリ収まりました。

我ながら見事なパッキング、と喜んだのも束の間。いざ背負って出発すると、油断すれば歩いていてもフラフラするし、ザックも体もなんだかミシミシ悲鳴を上げている感じです。幸い、自宅は駅からほど近く、また乗換は1回だけで目的地も駅からはすぐ。なんとか無事に辿り着いて、お店をオープンすることができました。今回はなんとかなりましたが、今後も継続的に一日本屋を開こうと考えるなら、スーツケースとかガラガラとか、ディスプレイにも転用可能な荷運び体制を整えることは必須のようです。

またこれに関連して、荷造り・荷運びの体制をきちんと構築することは、会場で自分の店のディスプレイをいかにスムーズにつくれるか・撤収できるか、にも直結することだと実感しました。明らかに自分一人だけ、開くのもしまうのも遅かったのです……みなさんのスムーズな出店・閉店の様子、参考になることばかりでした。これについては、経験を重ねて体得することが、いちばんの近道なのでしょうね。

この度、突貫で手掛けたものながら、結果的にユニークな屋号とロゴを用意できたので、今後はこれを活用してスリップやハガキ、トートバッグ等々、おもしろさとお得感を演出できるようなグッズも充実させられればと思います。

・本を通してのやりとり
テーマを設けた前回の第4回から、「本との土曜日」の来場者は一気に増えたようです。今回の「東京のローカル」も、約200名の方が来場された模様。特にお昼過ぎの2時間ほどは、友人知人も、また一般のお客さんもいちばん多いタイミング。とはいえ、一人店主でもまぁなんとか大丈夫だったかな、というのが今回出店してみての実感です(他店を堪能できない、という点は悩ましいですが、あくまで出店者としての視点に限るならば)。

ブックマーケット、さらにテーマのあるイベントなので、お客さんのほうも本が好き・そのテーマに関心がある、という方がほとんど。なので、「話す」ことが本当に大事だということを感じる場でした。通常、新刊書店ではお客さんは自分の関心に従って一人静かに棚を周遊するわけですが、今回のような場であれば、明らかにテーマとそれにまつわる本との出会いを探しにきているわけです。出店者としては、選書の段階で意図を込めるのはもちろんですが、お客さんと本との間をつなぐために、そこに会話を添えることが極めて重要なのだと思います。

「大部数を売る」ということとは全く別のベクトルかもしれませんが、「1冊の本を、背景となるストーリー付で丁寧に売る」というスタイルには、今後の出版・本の流通に携わるうえで、考えるべきこと、学ぶべきことがいろいろ潜んでいるのではないか、とも思います。

・古本の値付け
「値付けはなかなか難しい」と友人に聞きました。思い入れのある本ならなおさら、と。ただ今回について言えば、自分が所持している古本の場合、既にその価格分は十分に償却しているわけなので、おおまかに一定の基準で決めることができました。新書、文庫はもちろんのこと、単行本も新刊価格にそれほど差がない、という状況もありますし(本をつくる側としては、この状況にはいろいろ思うことがあるのですが)。

「東京」という共通テーマながら、出店者間でほとんど本がかぶらなかったのはすごい。でもなかにはやっぱり数冊、ありました。自分の持っていった本のなかでも、わかっているだけで2タイトルは、会場にそれぞれ計3冊はあったようです(笑)。で、その売れ方などを見ていると、「さるうさぎブックス」の値付けは若干低めだったのかもしれません。

また、お客さんが興味のある本を手に取り、お話をしたうえで購入されるときの様子からは、本の価格についてそれほどこだわっていない方が多かった印象です。特別利益を求める気持ちはありませんが、もしかすると基準をもう一度見直してみて、一点一点の本(内容・状態)により即した値付けをすることも、「本を売る」ということに磨きをかけるうで大事なのかもしれませんね。

・棚の作り方/新刊本の並べ方
明確なテーマのあった今回のブックマーケット。並べる本のなかにいくつかのつながり、流れがあったので、並べ方は比較的悩まずに決められました(レイアウトのつくり方については、まだまだ勉強・改善の余地大アリですが……)。

東京の町・風景を記述した文学作品(漱石とか幸田文とか中島京子とか)、東京の名を冠した幻想作品(内田百閒とかいしいしんじとか木内昇とか)といった小説群。東京とローカルを考えるうえで、直接的ではないけれど大きな問題となる「言語」「国語」に関する本(水村美苗とか柳瀬尚紀とか米原万里とか)。そして自分にとっての東京、かつてあったけれど失われてしまった場の本(上野、渋谷、新宿あたり)。などなど。

このくらい、しっかりとしたユニークなつながり、流れがあるから、お客さんにもぜひそれを楽しみつつ1冊の本を選んでほしい、と思っていました。ただ、当然ながら本が売れればそこにはポカンと抜けができてしまいます。コンセプトが強すぎる選書・棚づくりをしてしまうと、「本が売れると困る」ことになってしまい、まったくの本末転倒。でも、ストーリーのない棚はいまいち魅力に欠けるので、このあたりも経験を重ねつつ、よりよい棚づくりの方法を身につけていきたいものです。

また、今回は近所で活動しているユニークな出版社の商品も並べましたが、多種類の商品をズラッと並べてしまったのは、結果的にあまりうまくなかったな、と反省しています。ちょっと変わったおもしろい商品を、カタログ的に「紹介する」という意味では一定の効果があったかと思いますが、「売る」という観点に立つと、「おすすめしたいのはコレ!」と商品の種類を絞って、それを1点だけじゃなく複数冊並べるほうがきっともっと効果的だったのでしょう。

今回出店してみて、古本・新刊書の両方を並べましたが、自分と本との関わりを考えると、将来的には新刊書をもっときちんと扱えることが希望です。その意味でも、新刊書のよりよい選び方・並べ方・売り方、もっと学んでいきたいと思います。

・本をつくろう
最後にちょっと余談です。昨秋、友人の写真家たちと開催した写真のグループ展の際に、展示した写真10点に短い物語をつけた手づくりの冊子を用意しました。今回出品した内田百閒「冥途」や夏目漱石「夢十夜」に影響を受けたものでもあるので、直前に5部だけ増刷して並べたところ、ありがたいことに4部もお買い上げいただきました。「もっとちゃんとした本をつくらなきゃ」という気持ちが募り、また「本との土曜日」第4回で評判となった矢萩多聞さんのAmubooksのことなどを聞くにつけ、自分で本をつくる、ということをますます考えてしまいます。

昨年は写真展、今年はブックマーケット。次は本をつくる、でしょうか。いろいろ簡単じゃないとは思いますが、また思い切って挑戦してみたいですね。

(前編・了)

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