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「リアルロンドン」Uberの運転席で出会った風変わりな客人たち

4年くらい前、小学校の教師を辞めてキャンパーヴァンを自作してる間の収入源として、ロンドンでUberの運転手を6ヶ月やったことがある。週六日、毎日10時間シートに座りっぱなしで夜の都市を駆け巡り、様々な人間との出会いを経験した。その仕事の最後の時期に経験したことをSNSに書き留めたものがある。それを最近掘り出して、学んだことをもう一度確認する必要があった。きっと他にもこの話を面白がる人がいるだろうと思って翻訳してみることにした。僕が出会った奇妙な乗客についてのエピソードである。

ある晩、ゲイでキリスト教信者らしい投資金融業の黒人男性が熱烈に福音を説教してきたことがあるが、実は奇妙なナンパだったように思う。朝の4時、めちゃくちゃナイスガイなノルウェーの柔術選手達を飛行場まで送ったことがある。彼らは車の中で、恐ろしくセンスの悪い音楽に合わせて心ゆくまでカラオケ大会をやり、最後に大切に隠してあったバナナをくれた。中絶を終えた18歳の女の子が家につくまで叫び続けたこともある。最近流産した38歳の女性が、移動中、ずっと静かに涙を流し続けたこともあった。人生を両親に支配されながらも、実は密かにメタルバンドでギターを弾きたがっていたスーツ姿の香港人法学部の学生も忘れられない。

90代後半のお爺さんと、生きる意味と猫について深い会話をしたこともあった。この前は、音楽家のNitin Sawhneyをピックアップして、バッハのリュートスイートの話でかなり盛り上がった。朝3時、ロンドンの首都高を飛ばしながら、後部座席に座る女性と無人島に持っていく音楽を共有し合い、もう少しで本気で恋するかと思ったこともある。ある晩、コロンビア人の2時間にわたるコカイン調達専用ドライバーとなってしまい、真っ白なパウダーが黒いレザー内装の隅々まで飛び散る出来事もあった(もちろん僕はあくまで運転手という立場を全うしたわけだが)。雨の降る真っ暗な工業地帯でピックアップした若いメイクアップアーティストが、道中、ゾンビや膿みや血を再現する面白さを熱烈に説明してくれたこともある。

まだ若いコメディアンをギグの後、家まで送ったこともある。彼の父は英国軍の最高司令官で、戦争は人間の本質なのか、平和を維持するために争いは不可欠なのかを語り合った。世界中で演奏してきた往年のクラシカルピアニストを乗せたとき、他の作曲家の曲を演奏し続けて、本質的な創作欲を満たせるのか、を問いただしたこともあった。過酷なほどの「期待」を語る、冷たく厳格な母親にエスコートされ、私立学校での長い一日を終えて、個別指導へと連れて行かれる8歳の男の子の目に、子どもとは思えない悲しみと絶望を見たこともある。疲れた売春婦たち、怒る芸術家、むかつく銀行員、納品するディーラー、酔ってムラムラな女の子たち、ゲスなバカども、みんな乗せてきた。

「Uberの運転手をやって何を学んだのか?」、とテレビのプロデューサーに聞かれたことがある。僕はジョンワトソンの引用「優しくしよう、会う人みな苦しい戦いをしているんだ」と答えた。垣間見た様々な人生、本当に真実だと思う。この驚くべき都市、ロンドンに住んだ15年の最後の締めくくりとしてぴったしな仕事だった。

つい最近、イートン校の事前登録は子どもの出産前に始まるということを学んだ。9月から12月生まれの受け入れ枠に入るために妊娠を計画し、提出した出産予想日に帝王切開分娩で合わせ、膨大な額の前金を支払うらしい。なんて狂った環境で子供たちは育つのだろう。凄まじいプレッシャーと期待の下に置かれて。そのような環境で健全な人間に育つとは到底思えないし、まず間違いなく、人としてバランスが取れ、勇気があり、共感性を持ち合わせたリーダーを育てる環境ではない。どうりでホームレスの前で£50札を燃やせるわけだ。ボリス・ジョンソンやデイビッド・キャメロンなど、どれだけ多くのイートン卒業生がウェストミンスターにのし上がっていくかを考えると本当に恐ろしい。だけど最近よく自分に言い聞かせていることがある。きっとボリスも苦しい戦いをしているに違いない。もしかしたら僕の車にのった8歳の男の子だったのかも知れないと。 

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