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23.車椅子の脱走犯〜夜に繰り広げられる密約〜

毎日メンタルの不調と戦いながらもリハビリは続いた。そんな中でもちょっと癒しの時間があった。

晩ご飯が終わり薄暗くなった7時頃、車椅子に乗った4,5人の集団がゾロゾロと移動を始める。夜の病院は静まり返り、明かりも常夜灯のように落とされ、昼間の騒々しい病院とは全く別の場所のようだ。

そーっと病院を抜け出し向かう所は病院前にある駐車場。玄関の警備員さんはいつもの集団だといった感じで「お疲れ様ー」と敬礼で挨拶をしてくれる。私達は「こんばんはー」と言いながら列を成して一直線!

入り口の自動ドアが開くと、どこからともなく「ニャ〜ン」と猫ちゃんの登場だ!そうです、実は内緒で野良ちゃんに餌をあげていたという訳です。

野良ちゃんとは思えないくらい懐いていて、車椅子の人だと膝の上にまで乗って甘えてくる。あまりの懐きように飼い猫説も浮上し、GPSを装着したことがあるが、ほぼ一日中病院の敷地内にいた。

不思議と車椅子の人なら初めての人でも警戒しないのだ。しかし一人でも立っている人がいると近づいてこない。何とも賢い。車椅子の人達だけというところがまた嬉しかった。

その野良ちゃんは、野良猫とは思えないほどまん丸で、艶の良い白黒の毛をしていた。その風貌がアニメの「あらいぐまラスカル」に似ていたので〝ラスカル〟と名付けられていた。

ラスカルには歴代の飼い主がいる。私達が何代目かは知らないが、退院するときにその後を託して続いてきていたのだ。

そんなある日、私達の行動が看護師さんにバレてしまった。いい大人が注意されるのもどうかとは思うが、看護師長さんに呼び出しをくらった。

「野良猫が増えると困ります。感染症も怖いのでやめて下さい。」

「…。」無言のままそれらしく説教を受けた。

ごもっともでございますとは思うが、全く懲りてもいないし止める気もなかった。とんだ不良患者だ。

晩ご飯が終わると病室へ戻ったと見せかけて、時間差でこっそりエレベーターへ向かった。エレベーターに乗るにはナースステーションの前を通らなければならない。

「抜き足、差し足、忍び足」車椅子でね。

夜勤の看護師さんに交代して、人数が減ったところを見計らっては脱走を企てていた。

おそらく看護師さんも気づいていたが、見て見ぬふりをしていてくれたのかもしれない。これは退院するまでずっと続いた。

退院した後に聞いた話だが、ラスカルを引き取ってくれる飼い主が見つかったそうだ。みんなを癒してくれたラスカルなので、安心できる家ができて本当に良かった。

24話目へ続く…


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