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つばめたちの星のうず

おだやかな 早朝の畑
夏空は のびのびと青を広げ
素足からしみわたる 大地のやさしさに
せなかが 少し くすぐったい

おひさまのひかりは まだ やわらかく
朝露 ひとつひとつと そこにあるすべてを 
やさしく そっと なでていく

ふいに 空気がうねり 見上げた空
100羽は いるだろうか

つばめの大群が どこからともなく
すべるように やってきて
じゆうに 宙(そら)を およぎはじめた

ぴぃ ぴぃ ひゅー ひゅー 
ぱた ぱた しゅー しゅー

天から 地へ
地から 天へ

それはまるで 大海原の トビウオのように
一度も着地することなく なめらかにつづく 舞の波

つばめは ものすごいスピードで
滑空しつつ
円を描き 
八の字に飛び
ジグザクに 舵を切る

それぞれが 歌いながら 
じゆうに
のびやかに 
かろやかに

たまに2羽が ぶつかりそうになるときは
おっとっと! ちゃんとよけて

2羽が並んで とぶ瞬間は
ピピピィ! よろこびの声をあげて

つばめは 餌を 探すのでもなく
どこか止まる場所を 探すのでもなく
間近で 見つめるわたしなんか おかまいなく
ただ ただ とぶ!
一心に とぶ!

その異様な でも惹きつけてやまない つばめの舞は
わたしの畑と まわりの空間に
ふしぎなうねりと うずを つくりだしていく

必死で 1羽1羽を目で追いながら
その ふしぎな うずの まんなかで
わたしは ただ 立ち尽くす
完全にこころ奪われ しずかな感動を 味わいながら

半時ほど経ったころ つばめは 少しずつ
それぞれの空に向かって 飛び去っていった
東西南北 すべての方角に 
ちいさくなっていく 黒いひかり

あぁそれは 別れの、いや、旅たちの舞だったのか
さえずりながら 一心に飛び交うことが
かれらの祈りの歌 だったのか

もう二度と 会うことはないかもしれない 仲間たちと
最後に舞った この朝のひととき
この地球の とてもとても ちいさな場所で
たちのぼる うつくしい うず

なにひとつ 背負わずに
一度も ふりかえらずに
つばめたちは とびさっていく
一点の まよいもなく
さみしさも 未練もなく

爽やかで 優雅な そのすべては
まるで 無数の流れ星のようで

その うつくしい 
ふしぎな うずに ひたったまま
ほんのひととき 畑をみたした 流星群に
そっと たくす、祈りと夢を。

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