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だれからもなにもうばわないで


だれからも なにも うばわないで

あぁこれは 自分への 戒めとして

だれからも なにも うばわないで

みんな ひとりひとり 対話している

かみさまと 対話している


だれからも なにも うばわないで

ほんのすこしの 知恵があれば

批判するのは とても簡単

あぁこれは 自分への戒めとして


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その道はいつも ひらかれている

木漏れ日も 川のせせらぎも

大きな木も 苔むした岩たちも

みんな みんな ひらかれている 

りすに 熊に 鳥に 蝶に へびに

そして わたしにも 

少し苦手な あの子にも

それをもとめるもの すべてに 

おなじように ひらかれている

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ある日 原生林の川のそば

ねそべって 樹間をみていたら

川下から ただよってきた たばこの煙

岩陰から のぞいてみると

釣り人がひとり 岩場に足をかけ

釣り糸を垂らしながら 一服 もくもく

反射的に あたしはこころのなかで さかなに向かって 声をあげたの

「さかなさん、どうか にげて!

森をよごす こんなひと 

ちょっと川に おっこちて 

あたまを すこし 冷やせばいい」

そんな呪いのような ことばを 胸のなかで つぶやいたとき

さかなが しずかに こたえたの

「ぼくはいいんだ、つかまっても。

つかまれば ぼくは このひとの おなかのなかに はいるだろう

そしたら このひとの うちがわから うたうんだ

このひとに とどくといいな あいのうた」


わたしは じぶんが はずかしくなって

さかなの思いとか 森のきもちとか

そんなの代弁できるはずもなく


自分だって 矛盾して 

つくりあげた 善悪に 辟易して

だれからも なにも うばうことなんかできないのに



ひとりひとり かみさまと 対話している

神聖な その場所に

立ち入ることなんて できないのに

わたしは 自分のうたを ただうたえば いいだけなのに

いつのまにか みなに おなじうたを もとめていて

せせらぎが のびやかに

きょうのうたを つむぎながら

ひやしていくのは あたしのあたま

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またねそべって 樹間をみつめながら

しずかに なみだが こんこん湧いて

にじんでいく そらと ひかりと 葉っぱたちが

すこしずつ ひとつに とけあって

しずかに 全身を みたしていく 

ひとつのおもい

目にみえるものの奥にある 真実は

いつも 愛に みちている



だれからも なにも うばわないで

あぁこれは 自分への戒めとして

みんな ひとりひとり 対話している

かみさまと 対話している


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