【ラグビーワールドカップ】「カマテ」からオールブラックスの偉大さを知る

ラグビーW杯3位決定戦。NZ vs ウェールズ。
3位決定戦らしく球際やブレイクダウンでの激しさは鳴りを潜め、勝敗以上に最後の試合を目一杯楽しもうとするプレーに溢れた。特にウェールズは準決勝の南アフリカ戦で見せたようなFWでゴリゴリ攻め、強みを前面に押し出す試合運びではなく、この日はバックスへの大外展開もよく見られた。

結果は、順当に40-17でNZ勝利。
NZは準決勝までのスターティングメンバー(若手中心)を代えて、この日で引退、又は引退になるであろうベテラン選手中心のメンバー。ソニービル・ウィリアムズ、ベン・スミス、ライアン・クロッティ、デーン・コールズが名を連ねた。そして、彼らの活躍が試合を決めた。スミスは2トライ、クロッティは1トライ。特にクロッティのトライをアシストしたソニービルの代名詞とも言えるオフロードパスは一級品。準決勝敗戦後の傷跡も癒えない中、もしかしたらこのメンバーだったならと思わせるに十分な内容であった。

この試合、僕が一番注目したのはハカだ。
「カマテ」「カパオパンゴ」どちらのハカでくるのか。
最後の一戦にかける思い、なんとしてでも銅メダルの称号を持ち帰るために「カパオパンゴ」にするのか。もしくは、最大にして唯一の目標であるワールドカップ優勝を逃した戦いである以上「カマテ」なのか。

試合前、ぼくは「カパオパンゴ」を期待した。
準決勝に敗れたとはいえ、最後の最後までオールブラックスとしてのプライドにかけて3位決定戦は本気で挑んで欲しい。そして全力で勝利を勝ち取り大会を終えて欲しい、と。そして、上述の通り、リード主将はじめクロッティ、コールズ、スミスはこの試合でオールブラックス最後。ソニービルも最後の可能性が高い。なんといってもオールブラックスを15年率いたHCのスティーブ・ハンセンもとうとう最後の試合。有終の美を飾らなければいけない。ぼくも直接見届けよう、と思い立ち、試合2日前にチケットを取りスタジアムへ向かった。

国歌斉唱後、固唾を飲んで見守っていたが、実際に行われたのは「カマテ」正直「残念だなぁ」という印象は拭えなかった。またハカの後ろ姿を眺めていても、少し元気がないなぁと感じていた。ハカのリードがいつものペレナラではなかっただけかもしれないが。
その時、僕の隣ではオールブラックスのユニフォームを着込んだ老夫妻が「All Blacks, All Blacks!」と大声で声援を送った。こちらを向いてニヤッと「ハカのあとは、いつも大声でAll Blacksを連呼するの」とそのおばあちゃんが教えてくれた。
その話を聞いてふと「”カパオパンゴ”ではなく”カマテ”で良かったんだな」と妙に納得してしまった。

ぼくは少し入れ込みすぎていたかもしれない。
ラグビーワールドカップ日本大会におけるオールブラックス最後の試合。
そして、これまでオールブラックスを10年以上牽引してきた選手やHCの引退。その勇姿をこの目に焼き付けておかなければいけない。
だからこそ、3位決定戦での絶対的な勝利(その通りになった)を全力で獲りに行く彼らの姿勢=カパオパンゴが観たかったのだ。

ただ、優勝が絶対であり唯一の目標であるオールブラックスにとっては3位の称号はお飾りでしかない。また漆黒のジャージが紡ぐ歴史の前においては、リード主将もスティーブ・ハンセンHCもその一部でしかないのかもしれない。誰も絶対的な存在にはなれない。絶対的な存在はオールブラックスそのものなのだ。
そう考えると3位決定戦の重要性は、優勝に繋がることはない以上、絶対的なものではない。あくまで当たり前に勝つことが義務づけられる試合。

そこまで辿り着いて「カマテ」の必然性に気づかされた。
大会最後の試合、誰かの引退試合。それ以前にオールブラックスの試合なのだ。そして、そのことは引退する選手やHCも考えるまでもなく当然のこととしていつもの1試合として挑む。
NZから来ていた老夫妻もいつもの試合と変わらない応援を繰り返していた。準決勝でも決勝でもなく、優勝につながることのない3位決定戦。
そんなことは当然理解していながら、いつもと変わらない姿勢で試合を見届けていた。少しの感傷と共に。

やはりオールブラックスは偉大だ。絶対的な存在でもある。
勝ち続けることを義務づけられ、勝ち続けてきた歴史。
スポーツに携わったことがある人なら分かるだろう。いかに勝ち続けることが困難であるか。そして、勝者が高いモチベーションを維持することの難しさを。それをずっと体現してきたのがオールブラックスであり、過去の歴史において勝率85%を超える超人的な記録を作ってきた。
(メジャースポーツでこれほどの勝率を誇るクラブや国の代表チームは存在しない)
それは誰のものでもないオールブラックスという唯一の存在があるからだ。

準決勝のイングランドに敗れた後、ハンセンHCがコメントしていた
「一度整理して、この悔しさを次の試合だけでなく、次の4年間忘れないようにしたい。成長して次回のワールドカップでは優勝できるようにしたい」
退任を決めたHCが次の大会で優勝したい、と言えるだろうか。
「次の大会に繋げて欲しい」「次の大会では優勝して欲しい」と、バトンを渡す前提ではなくあくまで自分ゴトとして「優勝できるようにしたい」
オールブラックスのHCとして当然の発言かもしれないが、ぼくはハンセンHCの素直な気持ちを表現したものと捉えている。そう、ぼくの隣にいたオールブラックスのオールドファンと変わらないように。

オールブラックスがある幸せ。
少し彼らのことが羨ましくなった。

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