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激闘!『超電導リニアL0系改良型』制作記


はじめに


こんにちは。
VRやメタバースという領域で制作ディレクターをしているちゃりおと申します。

 2022年も暮れに差し掛かり、今年もバーチャルマーケットが開催されました。バーチャルマーケット(以下Vket)は株式会社HIKKYが主催するクリエイティブイベントで、多くの一般参加者と出展企業の出展物が一堂に会するVRの祭典です。

VIRTUAL MARKET 2022 WINTER
パラリアル名古屋にて

 今年の冬はVRChatというプラットフォームで名古屋、パリ、札幌をモチーフとした3つの企業出展会場、18の一般参加者出展会場、そして特別な準備がなくともブラウザ上から確認のできるVketCloud会場を用意しました。

 今回のVketで私はいくつかの制作に携わったのですが、中でも最も濃い制作の一つになったリニアモーターカー「L0系改良型」の制作に関して書き留めようかと思います。


L0系改良型

 先にお断りさせていただきますが、ディレクターである私は航空機のオタク、モデル制作を担当したドナモさんは鉄道のオタクであり、今回制作したリニアモーターカー『L0系改良型』は、Vket史上でも類を見ないほどのマニアックな3Dモデルとなりました。したがって、この記事も自然とちょっぴり濃い味の記事になってしまうかもしれません。

 とはいえ、色んな方に楽しんでいただけるように、できるだけ平易な表現を心がけようと思いますので、お付き合いのほどよろしくお願いします。


リニアモーターカー


 制作のお話に入る前に、まずは今回制作した「リニアモーターカー」についてお話しなければなりません。

 リニアモーターカー(以下リニア)は超電導リニアとも呼ばれており、簡単に説明すると磁石の力を利用して、地表から10cmほど浮遊した状態で高速で走る乗り物です。

 リニアの歴史は意外にも古く、日本で新幹線が開業した1964年の2年前、1962年に研究が開始されました。以降、車両や施設のアップデートを繰り返しながら研究が続けられ、2022年現在では最高時速600km以上を記録。数々の試験を実施した上で2027年には東京―名古屋間で開業、2045年には名古屋―大阪間で開業する予定とされています。

リニアは名古屋―品川を最短40分で繋ぐ。

 リニアは時速500kmを超える速度で使用されることや、浮遊させるために重量を軽減する必要があること、空気抵抗低減のために新幹線よりも更にタイトに絞り込まれた形状など、既存の鉄道とは一線を画す航空機的なエッセンスも多く含まれたメカでもあります。

 今回、そんなリニアモーターカーの系譜の最先端である『L0系改良型』の制作プロジェクトが発足するとなれば、メカオタクの私は居ても立ってもいられません。社内でリニアが話題に出るや否や、我先にとばかりに制作ディレクターとして手を挙げ、モデラーとして過去のVketで秋葉原駅の制作の実績があり、鉄道オタクであるドナモさんにお声がけさせていただいたことで、制作が始まったのでした。

リニア再現への道

 こうして始まったL0系改良型制作プロジェクトですが、その道は決して平坦ではありませんでした。
 先述したようにリニアは半世紀以上も開発が続けられてきた日本工業の結晶であり、最先端の技術です。開業前ということもあり、機密情報の塊と言っても過言ではないリニアを再現することは容易ではありません。

 制作に当たり、JR東海さんよりご協力いただいて資料提供もいただきましたが、やはりリニアは既存の車両に比べて圧倒的に情報が足りません。
 また、先述の通りリニアは新幹線よりも更にタイトに絞り込まれたフォルムを持っており、車内のレイアウトも極限まで無駄を削ぎ落としているため、モデル化の際に許容される寸法的な誤差は非常にシビアなものでした。


内装への挑戦

先頭車の内部


 特に、内装に関しては極限まで絞られた実車寸法のために、少しでも大きさが異なると配置が破綻するため、慎重な作業が求められました。
 公開されている寸法をベースに、消火器の型番やUSBコネクタ等から実際の寸法を得る手がかりを丁寧に探し、相対的な大きさを計算することでミリ単位の調整と考証を重ねています。

資料上で確認できたステッカー類は文章を含めて全て再現し、
限りなく実車に近い空間を作り上げている。


 内装に関しては座席が非常に特徴的で、座面の形状は新幹線の系譜を感じさせるものですが、フレームや机などがカーボン系のパーツで構成された軽量なものになっています。

中間車両の座席数は56席なので、仮に1脚あたり5kgちょっとの軽量化が達成できたとして
1両あたりだいたい300kg前後の軽量化に繋がる計算になる。


 座席は沢山設置される部品なので軽量化の恩恵が大きいとは言え、あえて新規に設計をするほど隅々まで行き届いた気配りに、リニア特有の鬼気迫る軽量化への執念を感じずにはいられません。
 しかし、そのために座席の脚部分は形状が複雑になり、皮肉にも3Dモデルとしては「重いデータ」になる要件が揃っていました。

複雑な形状をした座席下部は、データ軽量化の障壁となった。

 ですが、座席は乗客という立場でリニアに接する際に最も身近な部分である以上妥協はしたくないということで、見た目を保ったまま可能な限りの軽量化を施すことになりました。
 実物とデジタル、重量とデータということで媒体は違えど、「使用数の多い部品の軽量化」ということで両者の目的とするところは同じです。実車設計には及ばずながらも、まるでリニアの軽量化設計を追体験するかのような制作となりました。

USBポートや机の引き出し機構なども丁寧に再現。

 また、座席テーブルが実際の動作と同様の動きをしても物理的に干渉することがないよう作っていたり、座席の真ん中に位置する肘掛けに設置されたUSBポートも再現しており、再現度は非常に高いものになっていますのでぜひ御覧ください。


デッキ通路はリニア独特の雰囲気を持つ。
機器が大きいため新幹線と比べると通路がコンパクトなようで情報量は少ないが
その分細部に目が行きやすいため、連接部の保護板等は丁寧に面を作ってある。


 また、内壁と外壁の間の分厚さや窓ガラス、扉の厚さなどは山梨県立リニア見学センターに展示されている先代のリニア、MLX01-2で実測した数値を元に、技術の進歩や使用される速度域を検討し、できる限りリニアとして突飛な数値にならないように考証してあります。

MLX01-2
山梨県立リニア見学センターには不明点が発生するたび複数回訪れて
L0系改良型の考証の手がかりを求めた。
L0系改良型の1/20縮尺模型も展示してあったが
エアインテイク・アウトレット周りが現行の実車とは異なるようだ。


 試験用だからか内装は先頭車と中間車で別のデザインになっているため、壁面や窓枠デザイン・荷物スペースの素材違いなど、細かいところまで作り方を変えている。
容量圧縮のため、繰り返しテクスチャやデカールを駆使して凹凸や細部を表現し
モデリングの時点からライティングを逆算して効果的かつ軽量なパーツ分けを模索した。



外装への挑戦

非常に長く、複雑な凹凸を持つ特徴的な先頭車両

 外観に関しても、決して一筋縄では制作することはできませんでした。
今回制作したL0系改良型のボディは、気圧の高い地表付近で時速500kmという航空機並みの速度で走り、ときにトンネルの起こす気圧変化や悪天候に耐えつつも、安全に乗客を乗せて軽量化もしなければならないという、非常に高度な要求の上に成り立っています。
 外装はその過酷な要求に応えた技術陣の努力の象徴であり、更に言えば半世紀以上にも渡るリニア開発の到達点とも言えるものですから、数少ない公開資料をつなぎ合わせ、全力を投じて可能な限り再現を試みました。


 その一例を挙げると、車体各所に配置された三角形の凹みがあります。これはNACAダクトと呼ばれるもので、NASAの全身であるNACAが開発した空気取り入れ口です。

NACAダクトは車体の外側に空気取り入れ口を突出させるよりも
空気抵抗が少なくて済むことが特徴。
航空機やスーパーカーなどによく見られる。

 今回の制作においては、NACAダクトの形状をNACAの論文に掲載された図を参考にすることで、できるだけ本来の機能美を損なわないようモデリングしました。

 また、全体の形状については写真から確認できるパネルラインを基準として形状を割り出し、可能な限り実車に忠実な形状を再現しました。塗装に関してはリニア見学センターに展示されているMLX01-2からカラーピッカーで実際の色を取得して、その情報をもとに再現をしています。

ちゃりおがたまたま持っていたカラーピッカーPicoで色を取得した。

 また、一般的に鉄道模型などでは新幹線やこの手の車体に使用感を与える"汚し"を追加することは少ないのですが、今回の制作においては現場で整備や試験に当たる方々へのリスペクトと、実際にもう走っているのだという現実感を表現するために、あえて控えめに汚しを追加させていただきました。

ワールド上では見ることができない左側面。
VRChatのカメラを駆使することで、ワールド上でも確認できる。

 このように、今回の制作では車内外の各所に使われた技術や工夫を可能な限り拾い上げ、再現することに注力しました。

外装の曲面には曲面データ転送用のモデルを別で作成し
窓穴やドアによって滑らかさが損なわれないようにしている。

  外装、内装ともにネジ1本の製造から運用整備、導入に至るまで、世代を超えて多くの人々が関わってきた歴史に最大限のリスペクトを込め、その結晶であるリニアにより多くの人が触れられる機会を作りたいという一念で、実は開催後にもアップデートをこっそり繰り返しています。
 一度ご覧になった方々も、もう一度見に来ていただけると新しい発見があるかもしれません。


さいごに


 
簡単に書く、と言いつつも長文となってしまいましたが、楽しんで頂くことはできたでしょうか?
 今年はリニアの研究が始まった1962年からちょうど60周年の記念すべき年でもあります。実際の開業まであと5年となると、試験運用中のリニアの姿をつぶさに見られるタイミングは、このVket2022Winterを逃すとそうそう得られないかもしれません。
(実際に走り出しても、車内を見られるのは40分だけですし!)

 この冬はぜひ、Vket2022Winterのパラリアル名古屋にて、精密に再現されたL0系改良型を見て、リニア開発60年の歴史と、リニア開通の未来を同時に感じてみてはいかがでしょうか。

制作チームプロフィール

ドナモ(3Dモデル制作)@donamo163
リニアモーターカーについては、2005年に開催された愛知万博の「超電導リニア館」でMLX01-1を見たのが初めての思い出でした。お土産にチョロQを買ってもらったことを覚えています。当時からずっと鉄道好きです。
このように思い入れがあったことや今回Vket初の東海エリア再現ということもあり、ご相談を受けてからすぐにお受けしようと決めました。
出身地が近いこともあり、名古屋に出かけるときはよくJRと名古屋駅を利用して、ホームのきしめん屋(特に天ぷら揚げたての4番線)に立ち寄っていました。また、修学旅行の際には銀時計への集合を間違えて金時計に行った同級生がいたことや、名古屋駅新幹線ホームに入ったときのワクワク感を今もよく覚えています。当時のイメージが抜けずまだ未来の技術だなあと思っていたら、いつの間にか実用想定の試験車両が作られていて時代の流れと開発スピードの速さを実感しています。

ちゃりお(制作進行)@jitensyaotoko1
もともと機械が好きなこともあり、今回の制作には大きな(大きすぎる?)情熱を傾けることができました。制作にご協力いただいたJR東海の皆様や、リニアそのものに関わるすべての方々には大変感謝しております。私のやりすぎな勢いをしっかりフォローアップして、モデル制作に能動的に取り組んでくださったドナモさんがいたからこそ、このクオリティに到達できました。ぜひVket2022Winterにリニアを見に来て下さい。

おまけ:Vket2022Winterでリニアに試乗するには?

 もし「実際にリニアのモデルを見てみたい!」と思う方がいらっしゃいましたら、下記の手順を踏んでいただければ無料で見ることができます。
詳細な方法は検索するとたくさん出てきますので、ご興味のある方は試して見て下さい。

  1. Steamアカウントを作り、Steamをインストールする

  2. Steam上でVRChatのページへ行き、VRchatをインストールする

  3. VRChatを起動してEscボタンを押すと現れるWorldタブから、パラリアル名古屋を選択

  4. 順路に従って進むとリニアに乗車可能!

参考:【来場方法】バーチャルマーケットに行く3つの方法を解説!
https://note.com/virtualmarket/n/n78355816acf2


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