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半分ろうそく #毎週ショートショートnote

 しっぽを抱えたニホンリスが、木陰を縫って一本のミズナラを目掛けて駆けてきた。たどり着いた根元にある樹洞を数匹のミツバチたちが忙し気に行き来する。リスがぴいぴい鳴くと、一匹の眠たげなミツバチが僅かに顔を出した。すぐさま穴に引きかえそうとしたため、慌ててリスは呼び止めた。
 「あなたはなんでもくっつけてくれるって本当ですか。ツミから命からがら逃げ切ったのですが、代わりにしっぽを落としました。落としたこのしっぽをくっつけてください」

 それを聞いたミツバチは気の毒がって、腹のろう片を一枚取ってかみ砕くと、リスのお尻の先に塗ってしっぽを付けてやり、最後に呟いた。
 「暑い日はロウが緩むから、あんまり外に出ないように」
 喜んだリスはお礼を言うとぴょんぴょん跳んで帰っていった。

 丁度リスと入れ替わるようにやって来たのはオスのトビイロケアリだった。ふらつくような足取りでやって来たかと思えば、どうやら左のはねを失っているらしい。
 「今夜の婚活パーティーまでにこの翅を治してくれませんか」
 聞けば、張り切って飛行の練習をしようと勢いよく巣から飛び出たところ、頭上の床下に激突し、一方の翅がもげたということだった。

 取れた翅は見つからないらしい。エサを求めてこんな暑い日にアスファルトでも歩いたものなら、翅を作ってもたちまち溶けてしまうだろうと言って追い帰そうとした。するとアリは得意げに言った。
 「エサ探しは姉たちの仕事ですから、僕は大丈夫です」

 腹のろう片も足りないので、町外れの古い小さな教会まで飛び、燭台にこぴりついた溶けたろうそくをこそいで透明な翅を一枚拵えた。とっぷり日が暮れる頃にようやく戻って、アリに左の翅を付けてやった。アリは、こんなにきれいな翅なら誰もが見惚れるに違いないと、喜び勇んで舞い上がっていった。飛んだ先には電柱から伸びた白熱電球が煌々と輝いていた。

<了>


たらはかに(田原にか)様の下記の企画へ参加しています。

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