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地域価値共創シンポジウムの参加記録

 国土交通省主催で9月6日に開催した「第1回地域価値共創シンポジウム」は、新たに立ち上がった「地域価値共創プラットフォーム」を記念するキックオフイベントでした。このプラットフォームは、空き家や遊休不動産の利活用を通じて、地域課題の解決と新たな価値の創造を目指すもので、不動産業者や地域住民が一体となって地域を再生していくための仕組みを提供するものです。詳細は以下の投稿もご参照ください。

 今回のシンポジウムは、多様な登壇者の成功事例、アワード受賞後の変化、そして今後の可能性について議論が交わされる貴重な機会となりました。以下に内容を振り返りながらまとめてみます。

1. 不動産業者等が地域価値共創に取り組む意義及び期待する役割
 明海大学不動産学部の中城康彦教授から講演がありました。


 中城教授は、地域価値共創における不動産業者の役割について、単に建物を取引するだけの存在ではなく、地域社会に貢献するべき主体であるという視点を重視されていました。
 その役割の例として、地域資源の発掘者、地域課題の解決者、地域に根ざす持続可能なビジネスモデルの創造者、地域コミュニティの一員、行政との橋渡し役、といったものを挙げて説明されました。
 不動産業者としては、上記のような役割を担い、さらには推進役を担うのものとして大切な位置づけであることを参加する不動産業者等に投げかけました。

2. アワード受賞活動と受賞後の変化について
(1) 第1回アワード大賞
   株式会社エンジョイワークス 取締役 松島孝夫さん

 松島さんは、「ハローリノベーション」プラットフォームを通じたプロジェクトが、どのようにして地域住民や外部の投資家を巻き込み、地域の再生を実現しているかを説明しました。
 同社では、空き家や遊休不動産を活用し、地域住民らが参加する形態の資金調達として不動産クラウドファンディングを行うことで、自発的な関わりを促す仕組みになってきたことを説明されました。
 自分たちが楽しみ、地域の人々にもその楽しさを共有してもらうことで、プロジェクトが持続的に発展していくという想いが込められている点に、現在までの成果の鍵がありそうです。

(2)第2回アワード大賞
   NPO法人福岡ビルストック研究会 理事長 吉原勝己さん

 古い建物を再生する取り組みを紹介しました。福岡市にある冷泉荘の再生プロジェクトでは、古い建物の文化的価値を見直し、ただの不動産ではなく「地域の資産」として蘇らせることを目指しました。これらの取り組みは、以下でも紹介しておりますので、ご参照ください。

 ポイントとして、ビルの再生には時間と共感が必要であり、リノベーションを通じて地域住民や利用者の共感を得ながら醸成していくことだと理解しました。
 つまり、改修にとどまらず、そこでのこれまでの暮らしや文化も大切しながら、新しい価値を創り出し融和さえていくこの実践の積み重ねです。その結果として、地域全体の文化的価値も醸成されながら、その拠点としての冷泉荘に人々が訪れる拠点としての機能が確立されていったのでしょう。

3.不動産業アワード受賞者による座談会
 座談会では、モデレーターであるリクルートSUUMO編集長の池本洋一さんが進行を務め過去の受賞者の皆さんの具体的なプロジェクトをめぐる想いを引き出しました。

(1)寺井元一さん(株式会社まちづクリエイティブ 代表取締役)
 寺井さんからは、松戸市を拠点に進めている「まちづくりプロジェクト」の事例を紹介しました。ポイントとしては、「まず自分が楽しむこと」という考え方です。自らが楽しみながら地域と関わることで、他者を巻き込むための大きな力が生まれていくことです。

(2)大久保秀洋さん(熊本県賃貸住宅経営者協会 事務局長)
 大久保さんは、熊本地震後の復興プロジェクトを紹介し、特に被災した賃貸住宅の再生を通じて地域の価値づくりに貢献しています。協会の取り組みでは、被災後の地域コミュニティの再生と空き家の活用が重要な要素となっています。
 熊本での復興支援を契機にして、地域の新しい価値を創造する必要性が述べられました。。復興プロジェクトについては、単なる災害対応にとどまらず、地域の未来を見据えた新しい経済基盤の構築につながるものだとの示唆に富むお話をされました。

(3)加藤寛之さん(ビーローカル・パートナーズ)
 加藤さんは、地域資源を活用したビジネスモデル「バイローカル」というムーブメントを大阪の昭和町界隈で実践しています。具体的には、地域の素敵な商いを生活者が知ることから始めていきます。そして、「それらのお店を積極的に継続的に使うことで、良い商いが残り育ち、新たに良き商いが発芽し、そのことで地域がより魅力的になる。結果そこで暮らす人の生活の質を高め、そして多くの人が住みたいと思うまちとなり、地域の資産価値を向上させる」という想いで地域経済圏作りをされています。

 加藤さんも「楽しむこと」がカギになっているとのことです。以下に想いや活動が綴られています。

4.「地域価値共創プラットフォーム」の立ち上げについて
 国土交通省の中野晶子さんが、シンポジウムの最後に「地域価値共創プラットフォーム」の立ち上げについての説明がありました。
 プラットフォームはデータの集約や分析を通じて、地域ごとの最適な解決策を提供し、官民連携による支援を強化する役割を果たすことを目指しています。また、同プラットフォームを通じて、今後ますます地域価値共創の取り組みが広がることを企図し、官民連携や住民参加型の取り組みを広めていくことも目指しています。

5.さいごに
 本シンポジウムでは、「地域価値共創」がいかにして地域再生と持続可能な発展を導く力となるか、その可能性を実践者の事例と共に示されました。
全体を通してみると、特に、「楽しむこと」と「共感」が、地域を活性化するための重要なキーワードとして浮かび上がりました。地域には様々な事情があり、ましてや課題が多く横たえていることを目の前にして、時に暗い気持ちにもなるかもしれません。そんな時でもやり綴られるのは楽しむということ、一緒にやっていく仲間が存在することなんだと改めて感じました。


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