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ABLから事業成長担保権の理解と活用へと流れる2024年

 ファクタリングは、売上が拡大している企業に適しており、拡大中であるために必要となる運転資金の迅速な資金化には有効です。しかし、一方で成熟期や衰退期に入った際には、短期的な資金手当て方法として手軽に利用し続けてしまうと、徐々に経営を圧迫するリスクもあります。

 11月6日にNHKから「企業で利用増える“ファクタリング” 悪質業者とのトラブルも」という報道がありました。

概要は以下の通りです:

・コロナ禍により、中小企業が利用した「ゼロゼロ融資」の返済が始まり、倒産件数が増加している。
・この背景には、ファクタリングサービスの利用拡大も関連している。
・ファクタリングは売掛債権を現金化する手段であり、特に二者間ファクタリングが主流。
・例えば、ある会社では、売掛債権500万円をファクタリング業者に売却し、約460万円を即日入金された。しかし、ファクタリングは中小企業の資金繰りにおいて短期的な解決策に過ぎず、高い手数料や返済義務が企業経営を圧迫するリスクもある。
・ファクタリング業界では、闇金業者による偽装ファクタリングが問題視されており、国によるルール作りが必要とされている。

 売掛債権の資金化において、ファクタリングと比較されるものにABL(Asset-Based Lending、資産担保融資)があります。今回はABLの概要をお伝えします。2024年には企業環境に大きな変化が予測されるため、中小企業経営者にとっての重要ポイントをご紹介します。

 ABLは、企業が所有する多様な資産を担保として活用し、資金調達を行う方法です。固定資産である不動産の担保と比較され、売掛金や在庫などの流動資産を担保とした融資として扱われます。金融機関はこれらの流動資産に譲渡担保登記を設定し、第三者対抗要件を具備します。返済不能となった場合、これらの動産を担保実行し、資金を回収します。これにより、銀行にとっては貸倒れリスクを低減し、借り手企業には売掛金や在庫を担保提供することで、借入機会の拡大と資金調達の選択肢の増加がもたらされます。

 ABLが有効なのはやはり成長期です。売上増加企業は市場拡大や製品開発などのために大きな資金を必要としますが、ABLを利用することで、迅速に資金調達が可能になります。多くのABLを利用する企業は、新しい商品を開発する若い企業や新市場への参入を図るスタートアップであり、不動産担保の提供が難しい場合があります。金融機関は申し込み企業の資産を担保として評価し、融資機会を拡大します。

 再生過程にある中小企業でもABLを利用している場合が多いです。これは、銀行からの融資が受けにくい環境にあるためのやむを得ない調達対応ですが、その場合でも、売上については一定の規模があり、少なくとも衰退期にはないこと、一定期間のブリッジとしてスポンサーによる支援を受けるまでの間の調達であることなどが求められています。借り手も貸し手も債権のモニタリングには緊張感があります。

 効果的なABL運用のためには、在庫や売掛金の厳格な管理と、譲渡担保契約に定める報告を実施することが重要です。これにより金融機関との信頼関係が構築され、企業の透明性が向上します。定期報告を通じて金融機関とのコミュニケーションを維持することで、長期的な関係を築き、新しい資金調達の可能性を高めます。

 日本の金融行政方針では、事業全体に対する担保権の制度化が進められています。これは、銀行にとって転機となり、不動産担保や経営者保証に依存する従来の融資から脱却し、企業の事業性を重視する方向へのシフトを意味します。12月1日の『「成長力」担保に融資可能に 金融庁、新法案提出へ』という日経新聞の報道によると、金融庁は事業の成長力を担保にできる新しい法案を2024年の通常国会に提出するとのことです。

 この法案のポイントには、事業性評価の強化、事業成長担保権の導入、リスクベースの融資アプローチ、銀行へのインセンティブ提供、および職員の融資スキル向上のための教育と支援が含まれます。また、事業成長担保権については信託登記を行うことが想定されているようです。この点はABLでも当てはまるのですが、担保設定費用は一般的には借り手負担になります。金利負担に上乗せされます。結果的に結構な費用負担となってしまいます。費用や余計な手間かかる融資でもあるため、Fintechによる改善の余地がある課題だと思っています。

 以上、このような動きは、企業側と金融機関が共に成長していくこと、業界の発展にも資することを意味しています。今後の動向に注目していきましょう。


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