Sier企業の売上高は従業員数に比例するのか調べてみた!「おとなの自由研究」
熱い夏・・・
夏と言えば・・・夏休み
夏休みといれば・・・そう「自由研究」です(笑)
本日は、おとなの自由研究として、Sier企業の売上高や利益率が従業員数に比例するのか調査致しましたので、発表させて頂きます。
また、単なる数字調査だけではなく、noteらしくプレゼン資料としての作成方法やグラフの見せ方も付随的に解説しますので、参考になればうれしいです。
それでは、はじめましょう。
1|テーマを設定する
今回調べる仮説は「システム開発会社の売上高は、従業員数に比例する(≒パッケージベンダーやSaasベンダーの売上高は従業員数に比例しない)」です。
そもそも、なぜこのテーマを選んだか?ですが、(過去記事のIT業界マップを自分で調べる際も気になったのですが)一言でIT業界と言っても、業種業態により、ビジネスモデルがかなり異なるからです。
Sier企業では、クライアントから依頼を受けて、要望のシステムを受託開発するのですが、その際の稼働するエンジニアの「人月、人工(にんく)」という形で見積を行い対価を頂きます。
つまり、開発≒稼働する人数が増えれば増えるほど売上が上がるビジネスモデルとなっています。
一方で、パッケージベンダー(Saas)は、自社で開発した製品価格を仮に500万円と設定し、それを販売することで売上を計上します。そのパッケージ製品の開発費用を掛け過ぎてしまったり、販売できなかった場合は赤字ですし、逆に、費用を抑えて製品を売りまくることができれば、利益率は大きく向上します。
このビジネスモデルの違いを、今回実際のデータ・数字で検証したいと考えています。
2|必要なデータを準備・収集する
2-1|業種を細かく整理する
まず、Sier、システム開発、パッケージ、Saasなど細かな分類を行い、データを準備・整理する必要があります。一般に公開されている上場企業データは「情報・通信業」としか記載されていないので、この仮説をデータで調べるには、もっと細かな業種分類が必要です。
業種について、総務省の日本標準産業分類表を参照すると、実はこんなに細かくなっています。
少し表現が堅苦しいので、今回はよりわかりやすく、以下のような表記にして業種を整理していこうと思います。
以降からは、便宜上「システム開発(業)」と「パッケージ&Saas(業)」と記載を統一して説明していきます。
2-2|上場企業一覧データを分類する
日本全国のIT企業一覧はどうやっても取れないので、今回の調査対象企業は、上場企業かつ利益率や従業員数が公開されているものとします。この企業一覧(約550社)に対して、さきほどの分類を一つ一つホームページを確認しながら、付与していきます。
そうして、こんな感じのExcelデータがまとまります。
データ加工の段階で従業員数のデータが紐づかなかったり、利益率が出てこない企業があり、大分減りました。最終的には約300社になりました。
この手作業は無茶苦茶大変かつ、私の主観が含まれますが、今回は個人のnote記事ですし、これでよしとしましょう。むしろ、ホームページを直接自分の目で見て確認しているので、機械的に分類するより、正確に業種を把握しているというメリットもあります。
例えば、KADOKAWAは、yahooファイナンス等で調べても情報・通信業と分類されていますが、出版事業が過半を超えておりましたので、今回は、出版業としてあえて分類しました。
すべての企業を細かく見れたわけではありませんし、様々な事業を行っている会社も多いため、分類に苦労しましたが、ホームページを一読程度には調べております。
もちろん、調査会社やコンサルティング会社に勤める方は、このようなデータの作成方法はNGですので、帝国データバンク/東京商工リサーチ/SPEEDA等の専門情報サービスの、何らかの客観性が担保されたデータを使うことを推奨します。
ただ、一般の営業や企画職であれば、上司から「自社と同じ規模の競合のシステム受託開発している企業を調べて、ポジショニング見て」と依頼されるケースも無くはないので、それに答えるレベルであれば、ありかもしれません。
3|仮説を検証してみる
3-1|散布図を作成して大枠を把握する
「何かと何かの値の傾向が似ている」ということを見たい場合は、どのようなグラフを用いるのが適切でしょうか?(統計学を学んでいる方には、簡単かもしれませんが)散布図を利用します。するとこんな感じになります。
のちほど、相関係数も出しますが、この散布図を見るだけでも、何となく傾向が見えてきますね。システム開発業の利益率のバラツキは明らかにパッケージ&Saasのそれと比べて、大きいような気が致しますし、従業員数と売上高はかなり比例しているように感じます。
3-2|グラフはどう選べばよい?
ここで、資料作成者の視点として、どのようにグラフを選定すればよいのかも補足説明しておきます。以下のように棒グラフ、線グラフ、円グラフ・・・どの時に、どのグラフを使うのかは、実はほぼ決まっています。データをグラフにしてプレゼン資料として発表する際は、注意しましょう。
棒グラフ、円グラフ、線グラフの3種類くらいは基本として、上記のルールでグラフを選べばOKです。詳細の解説はここでは割愛しますが、グラフは「いい感じ」に選ぶのではなく、使用シーンがある程度決まっていますので、慣れてくると根拠を持ってすぐにどのグラフか選択することができるようになります。
今回の散布図は、バラツキと多数の要素の傾向を見るために使います。
▼グラフの正しい選び方を記事にしました(8/16追記)
3-3|相関を見る
散布図グラフはパッと一目見て理解できるのがメリットですが、良くも悪くも「なんとなく右肩上がりっぽいな」というイメージしかわかりません。これを数値で具体的に示す方法が実はあります。それが相関分析です。
今回の仮説ではシステム開発業では、従業員数が増えれば増えるほど、売上も比例して上がるという仮説ですので=右肩上がり=正の相関=1.0に近い値が導き出されると良いでしょう。
実際に計算すると、システム開発業においては相関係数0.979となり、強い相関があることがわかりました。一方で、パッケージ企業は相関係数0.824でした。ちなみに情報通信業全体だと0.902でした。正直、こんなにもきれいにパッケージとシステム開発で差がでるとは思っていませんでした。
3-4|さらに調べるなら
実を言うと、この結果でもわかりにくい点があります。1つが、業種に関係なく、そもそも企業全般に従業員数と売上は比例するのが普通であることです。あくまでシステム開発業の相関とパッケージ業の相関の相対的な比較しか言えないですね。
さらにきちんと検証するのであれば、システム開発業だけではなく、建設や人材派遣業など、従業員数と売上高が比例すると思われる他業界についても、調べみる必要があります。
その他の業界でも同じような傾向が出れば、システム開発業特有ではなく、人月や工数に応じたビジネスモデルの企業で全て共通している傾向と言うことができるかもしれません。
また、システム開発業の中でも、極端に従業員数が多い割に売上高が小さな企業は、システム開発業の中でもエンジニア派遣業の割合が多いだろうとも考えられるのですが、今回そこまでは調べきれませんでした。
3-5|分散を見る
相関以外にも統計的な数字の見方はいくつかあります。次は「分散」を使っていきましょう。
上述の人月の説明の通り、システム開発においては、利益率を上げるには単価を上げるしかないため、極端な高利益率にはなりにくい(逆に赤字にもなりにくい?)と私は考えていますので、利益率のバラツキ度合い(≒分散)について調べてみましょう。
システム開発業は、パッケージ&Saas業より利益率のバラツキが小さい(分散0.028>0.002)ことがわかりました。
4|結果まとめと結論
2つの分析をまとめると、システム開発業は、パッケージ業よりも従業員数と売上高が比例する傾向が高い。また、企業毎の利益率のバラツキも少ない(約10%前後が多い)ということが、データとして明らかになりました。
また、従業員数と利益率の相関も調べましたが、これらは特に相関はありません(システム開発業の相関係数は-0.001、パッケージ&Saasも0.068)でしたので、システム開発業であっても、従業員数が増えれば、スケールメリットが出て利益率が向上するほど簡単なものではないこともわかります。
5|おわりに
いかがでしたでしょうか?
今回の記事の印象は、読み手によって、かなり受け取り方が違うと思います。パワポやプレゼン資料作成をし始めたばかりの若手ビジネスパーソンの方にとっては、用語も難しかったかもしれません。その一方で、統計学や調査を専門にされてる方からすると、素人レベルの部分や怒られそうなくらい安直な記載も多々あるでしょう。
ですが、著者の立場で勝手なことを言わせていただくなら「自由研究」だからなんでもよいのです、すべてはこの言葉で解決できてしまいます(笑)
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
※本記事は、統計の専門家が記載した記事ではありません。
※調査データは一般公開情報を元に著者が編集、加工を行っています。
※本記事の趣旨は「個人の趣味の範囲の自由研究」です。統計的な正確性はもちろん、学術研究などは一切目的としていません。
※流用頂いてもOKですが、特に元データの収集や加工段階は、かなり主観的なので、あまり使えないと思います。自己責任でお願いします。
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