Re「お酒について」

modern-times のベースギター担当、冨川”tommy”功喬です。ワタナベタカヒロの書いた「お酒について」という記事を読みました。今回の記事は主に、ワタナベがお酒にはまるきっかけとなった地元の二つの居酒屋でのエピソードを紹介しつつ、「ステルスマーケティング」ということばを思い出そうとしたができなかったため、文章のいたるところで「これ」だの「あれ」だのという指示語を多用しても読者に意図は通ずるのか試みる、ということがテーマになっていました。
アルバイト先で自らのお酒の強さをアピールするワタナベ蛙が、麦酒という黄金色の、延いてはお酒の大海へ飛び込んでいく様を、悪友のIしはら氏とのエピソードを交えて軽妙に語っています。彼の「ビールというか、麦味をした発泡酒などの美味さなどわからないっ!……ただ、毎日の食卓でやっすい発泡酒を買い続けて、「美味くないなぁ…美味くないなぁ…」を繰り返していたら、いつの間にか、「これは美味い!」となっていたんですね」という着眼点には興味深いものがあります。
お酒を飲むことを覚えると、はじめはジュースのように甘い味がするものに手を出していくのですが、徐々に興味関心の幅が広がり、お酒の王道と言っても差支えがないであろう、「とりあえず生」に代表されるビールに手を出すようになります。ワタナベのように、「これ、飲めるようになったら、安く酒飲めね?」というホモエコノミクスの性根のようなものを丸出しにしてビールに手を出す者もいるとは驚きでしたが、経緯は多様であれど、お酒を飲み始めて一度は通る道、それが王道=ビールであるというところに、経験に基づいた異論を差し挟む余地は無さそうです。
私の経験を振り返り、20歳の誕生日の晩に母親がおもむろにハイボールを作って、板わさとともに食卓に出してくれたことを思い出しました。これが私の人生で初めての飲酒でありました。―母はお酒にめっぽう強く、一家の中で一人でも飲酒できる人間が増えることを喜んでいる節があったのだと思いますが、今思うとファーストチョイスには大変、大変渋い。―
その後、私は持ち前の好奇心も手伝っていろいろなお酒を飲みましたが、甘めのものを中心に飲んでおりました。しかしやはり気になるのがビール。「男は黙って」、「丸くなるな星になれ」、「ちょっと贅沢な」…という名キャッチコピーに代表される魅力あるこの黄金色の飲み物はどんな味がするのか試してみたくもなるものです。ワタナベと同様、私はバドワイザーなどの比較的軽めのビールから飲みはじめ、彼の言うところの「ビール修行」を始めました。しかしどうしてもおいしく感じられないまま、修行を継続しておりました。
その当時学生だった私はアルバイトを3つ掛け持ちするなど忙しくしており、思春期特有の繊細さも手伝って大変多感な少年でありました。バイトを終えて夜中に帰ってきては、録り貯めてあった「あまちゃん」を暗い部屋で観ながら「ビール修行」をしたものです。あまちゃんでのやり取りは、将来に対する漠然とした不安を抱いた青少年の心情を表現するのにあまりにも的確で、アキちゃん(能年玲奈)がお母さん(小泉今日子)と揉めに揉めてまでアイドルを目指すために家を飛び出すシーンでは滝のような涙を流して、ウォンウォン鳴き声を上げながらビールを飲んでいました。その刹那、喉からこんな音が聞こえたのです。
「ッコパッ!」
そう、この音は私の「ビール修行」終了を告げる天使による祝福のファンファーレなのでした。この時から、目の前の美味しくない液体は、「これは美味い!」飲み物に変身したのです。(これが椿鬼奴先生の言う、「喉が開く」体験であるとは後年知ることになる)。ちなみにこの時飲んでいたのはKIRIN秋味。ありがとう、KIRIN。

天使から修了証を賜り、喉が開いた私は以来主にワタナベと飲み歩きを続けました。ライブが終わってはライブハウスの打ち上げで飲み、苦い思いをしたライブの帰りにはライブハウスから家まで12kmほどの道のりを、コンビニで買ったお酒を飲んで文句を言いながら夜中の東山通りを3時間ほど歩いて帰ったりもしました。当時のワタナベと私は、それはもうモラトリアムよろしく飲みまくっていたのです。
たくさんの安酒も飲みましたが、それと同時に彼の記事に登場した最高峰のお店インターラーケン・オストでは大人のお酒や飲み方をたくさん教えてもらったものです。ある程度お酒を知った今だからこそ行きたいお店なのですが、閉店してしまったことは大変残念であります。そして強者ローカル居酒屋チェーン万歳は、活きの良いお魚と活きの良い店員さんが大変な魅力であり、当時の毎週のスタジオリハ帰りにはほとんど寄っていたのではないか、と思うほどに通い詰めました。店長さんにはすっかり覚えてもらいまして、いつもギターを担いでエフェクターケースまで持っているので、荷物の預かりにも大変なご配慮を頂き、感謝の念が止まるところを知りません。
社会が今日のような情勢になり、表立って友人と飲みに繰り出すことに引け目を感じる日々が長らく続いております。このような情勢になって気が付いたのですが、僕はお酒よりも、人と「ああでもないこうでもない」しながら、ただただ話し続けることが好きだったのです。ためしに家で一人お酒を飲んでみましたが、人と飲む時とは異なる種類の楽しさがあるものの、やはりどこか物足りない。
先述の通りワタナベとなんて飲みに行きすぎてもう話すことなんてないだろうなあと思っていたときもあったけれど、ひとたび酒場へ行けば話の展開は止まらないものです。酒場にはそういった、コミュニケーションを促進する磁場があると思います。運転などを理由にお酒を飲まないときでも話が弾むから不思議なものです。大手を振って、安心して酒場に行ける日を心待ちにしています。
さてこの連続記事では、ワタナベ、冨川の順に記事を書いていこうかと予定しております。ワタナベの書いた文章に、冨川が感想文を書き、その感想文の中で次回のテーマを指定する、ということをお約束にしようと確認したところです。
それでは次回のテーマを指定します。次回のテーマは、「宮藤官九郎」です。
明日はどっちだ。ワタナベさん、どうぞよろしくお願いします。
冨川”tommy”功喬
雑記:ちなみにIしはら氏はインターラーケン・オストで葉巻を吸って、あまりの煙の多さに追い出されたことがあります。こちらもよろしくどうぞ。

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