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ししノベル

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ししのノベルです
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#小説

かつて、オーメの採れた地で

かつて、オーメの採れた地で

「なんだよ、あるじゃねえか、そっちにも」

右手を振る。百歩先で、制服連中から血が舞った。白い光。鏃が飛んでくる。当たりゃしない。駆ける。五十歩。斬る。二十歩。斬る。斬る。

「その変な弓にも付いてんだろ、これが?」

左手に持った石を食う。
色は白。味は、石だ。
不味い。

「オーメ」

最後の制服はそう言って死んだ。下半身が無いにしては頑張ったほうだ。
夕暮れ、裏道に転がる骸。こいつらはなんな

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人試し

人試し

 ごめんなさい、私の貴方。私の死体があって驚いたことでしょう。この手紙を見つける頃には、私の体は霊安室に安置されているのでしょうか。それとももうお骨?

 浮気の痕跡が作り物であることはすぐにわかりました。そもそも浮気って隠そうとするものでしょう?貴方ときたら、見つかるように、見つかるようにするものだから、私は可笑しくなってしまって、笑いを堪えるのが大変でした。

 黙っていましたが、私には一つル

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そばの話をしよう

そばの話をしよう

 近ごろはうどん屋ばかりでまことに嘆かわしい。俺はそばの方が好きだ。そう、立ち食いでいいんだ。なんかボソッとした、小麦粉がつなぎに入ってる麺で、かき揚げが乗ってて。かき揚げだ。立ち食いそばの魅力はかき揚げそばに始まり、かき揚げそばに終わる。終わったことはないけど多分そうだと思う。

 かき揚げは玉ねぎがいいんだ。玉ねぎはうまいんだ。フランス人でも日本人でも、俺たちは揚げた玉ねぎが好きだ。全体にカリ

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やがて去り行く者へ

やがて去り行く者へ

自動販売機が犬を撃ち殺した。

「ありえない」
後白河が呻いた。後醍醐も同意見だったが、現実はときに想像を超える。

現に、5.56mm弾を秒間15発発射できる自動販売機が全国に普及し、12㎡に1台が稼働している。社会はとうにイカれた。犬を撃ち殺すこともあるだろう。

あるだろうか。課長の後醍醐も、同行の後白河も、そうは思えなかった。常識的に考えて、ありえない。

「可能性1、当該ポ防機(ポイ捨て

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左道往殿 またの名を芒旦

左道往殿 またの名を芒旦

「あんめい、いえぞす、まりや!」
冬の太陽にフランシスコの血刀が煌めき、腕が飛び、首が舞った。味方の綻びに、百姓牢人達の錆槍が突き込んだ。

まいろやな まいろやな
ぱらいぞのてらにぞ まいろやな

唄が湧き上がった。切支丹の一揆勢は、唄って駆けて、唄い死ぬ。怖けた味方が押されて下がる。そこに再びフランシスコの剣が襲いかかった。

ぱらいぞのてらとは もうするやな
ひろいなせまいは わがむねにぞ 

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米食水滸伝

米食水滸伝

「パン祖」江川太郎左衛門の復活と再臨は、列島社会の礎を破壊した。文明の再編成が強行され、小麦粉本位制、小麦粉資本主義が稲作を根絶した。

もとより米に信を置かぬ香川県民はパン祖にすり寄り、いっとき我が世の春を謳歌した。

が、パン祖はついに饂飩などという曖昧な存在を許さなかった。粛正が始まり、終わった。残ったのはパン。パン食本位制、パン食資本主義、パン食神受説の完成である。

あんぱん、食パン、カ

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補陀落死人剣西遊記

補陀落死人剣西遊記

真っ直ぐ心の臓だった。幅広の短刀に体を貫かれながら、フダラクは敵手の体を抱き留めた。胸の中で刃がぶつりと回った。

「いい腕だ」

敵手はしかし、目を見開いたまま絶息した。鏡写しにフダラクの脇差が敵手の心臓を貫いていた。

「体捨流、ちがい牙」
言い捨てると、フダラクはぐらりと倒れ、死んだ。砂嵐が近付いていた。

ーーー

振動でフダラクは目覚めた。垂れた手先が茶色い砂地を撫で、長い線を引いていた

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夜は暴力屋

夜は暴力屋

どうでもいいことはいーんだよ。

「はよざーす」
下着はウニクロ。

「昼いきまーす」
昼メシは社食。

「お疲れしたー」
背広はマオヤマの2着目3円。

どうでもいいことはどうでも。いーんだよ。ホント。楽しみの前に考えるもんじゃないよね。それよっか

「ッシャィオラッッ!」
右イッパツよ。爆ぜたねガードマン。

「ェィ〜〜」
デカゴツい右腕をフォロースルー。出ちゃうね、やっぱ。声。最高だもん。

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めしをくう

めしをくう

1.きさらぎ軒 肉野菜炒め定食 730円

世の中にはよいチェーン店とわるいチェーン店というのがある。きさらぎ軒はよいチェーン店だと思う。その証拠にごはんのおかわりが無料だ。

まあまあいい歳になったので、無限に白米が食べることはできなくなった。だがそれでも惹かれるものは仕方がない。ごはんおかわり無料は、正しい。ごはんおかわり無料は、揺るぎない正義の証明である。

肉野菜炒めである。
肉と野菜を炒

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必殺剣シンデレラ

必殺剣シンデレラ

さる国の貴族に一女があり、名をシンデレラといった。幼くして母が死に、後妻と連れ子の娘二人が家を牛耳るようになった。

継母と義姉ニ人は彼女に辛く当たり、何かといっては打たれ、部屋も与えられず、土間の隅に寝る生活であった。

父の心は母と共に彼女の元から去ったものであるらしい。飢えと寒さで眠れぬ夜は、彼女は屋敷の裏手の森に行って一人泣くのが常であった。

ある夜、森の闇の中から彼女を呼ぶ声があった。

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鷲狩りの騎士団ホルガー・ダンスク

鷲狩りの騎士団ホルガー・ダンスク

「ゲシュタポだ!」
誰かが叫び、俺たちは一目散に逃げ出した。灯りが消された。銃声。家具が倒れる音。

「逃げろーッみんな逃げろーッ」
銃声。銃声。バタバタと扉を押し合っている。ミケル、馬鹿野郎。お前も逃げろ。

隠れ家の外は森だ。ナチ野郎の懐中電灯が光の剣みたいに森を切り裂いて蠢いている。早く。早くここを離れよう。泥まみれになって這いずり、転がった。木の根がやたらと体にぶつかったが、痛みを感じてる

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神州人虎伝

神州人虎伝

『畜生どもに合力を恃んだこと、悔やまれてならぬ』
御屋形の末期が思い出された。

ちぐはぐな武者鎧を着た男たちの貌が、見る間に変貌した。全身を黒縞の毛が覆い、瞳が縦に窄む。耳まで口が裂ける。汚らしく嗤った口内に牙が並んだ。

「けだものよな」
大胡武蔵守は怖れ気もなく抜刀すると、目の前の「虎」の口に、一息に太刀を叩き込んだ。
悲鳴が上がり、即座に残りの「虎」どもが武蔵守に飛びかかった。

(早い)

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貪食の原罪

貪食の原罪

 23世紀になっても、殺人課の刑事という仕事は一応存在している。

 現場と死体があれば地域の保安機構システムと連動した人工知能が犯人を割り出すため、人手による捜査は必要ない。逮捕にも行かない。電子通知による出頭要請とドローン同伴の警察官で足りる。必要ならドローンが増える。逮捕できない事例は、概ね赤道経済帯の外に出てしまったものであり、環境省か軍の仕事だ。『刑事』の仕事は、“人間が事件捜査の過程を

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「まほうつかい」を探して

「まほうつかい」を探して

「私は魔法使いではないよ」
終生、私が「先生」と呼ぶことになる人は、困り顔でそう告げた。
年若い私は、夜通し馬で駆けてきた疲労で朦朧としながら、両の手をついてこう繰り返したのだという。
「大賢者アーヴィエリ様、どうか名高い魔法のお力をお貸しください。どうか、どうか」

目を覚ましたのは広間の長椅子だった。夜は明け、朝霧の美しい気配が窓から立ち込めてくるようだった。側には帳面を手にした先生がいた

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