かつて、オーメの採れた地で
「なんだよ、あるじゃねえか、そっちにも」
右手を振る。百歩先で、制服連中から血が舞った。白い光。鏃が飛んでくる。当たりゃしない。駆ける。五十歩。斬る。二十歩。斬る。斬る。
「その変な弓にも付いてんだろ、これが?」
左手に持った石を食う。
色は白。味は、石だ。
不味い。
「オーメ」
最後の制服はそう言って死んだ。下半身が無いにしては頑張ったほうだ。
夕暮れ、裏道に転がる骸。こいつらはなんなんだ?人数は、日に日に増えている。
まあいい。連中の弓?弩?から石を取り出して食う。
「うめえ」
不味い。
苛々する。色は白。味は石だ。
「力場を歪めて切断しているのか」
振り返ると、鎧の男がいた。むかし見た騎士様ってのとはなんか違う。
「誰だテメエ」
「クダンニ。オーメ辺境党だ」
髭面に茶色い目。オーメ辺境党ってのはわからない。
「またオーメ。オーメってなんだ」
「お前が食ってるそれだ」
「知らねえ。おれにはただのメシだ」
そう、メシだ。他じゃ駄目なんだ。思い出したら苛々してきた。肚の底が熱い。だってしょうがないだろ、何日も何日も何日も何日もあの暗い所であの狭い所で。
こいつ殺すか。次におれを虫だと言ったら次におれを虫だと言ったら殺す。
「おい、メシどころじゃなさそうだぞ」
髭面が示した方を見ると、街路に揃いの制服が溢れていた。
「殺しゃいい」
「お前、俺と来い」
妙なことを言い出した。
「わからないことを教えてやる」
糞、それは確かに知りたい。糞。
「承知だな。まずは協会の衛士共を蹴散らす」
髭が横に並んで立った。
街路を埋め尽くした制服どもが迫ってくる。
「連中、お前にオーメを食われると困るんだ。なにしろ」
迫ってくる。
「地上にオーメは、もはやない」
そうらしい。
「だったらおれが全部食う」
髭が笑った。
「食い意地の張ったやつだ、女なのに」
「ああ?」
噛んでた石を飲み込んで、右手の剣を確かめる。
不味い。まあいい。
「だとしても、全部食うだけだ」
(続く)