![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/92208717/rectangle_large_type_2_63174b425ea346f8bab1a16b4f25a5a0.jpeg?width=1200)
日本ラブホテル探訪
日本の各地にラブホテルがある。東京にもあるし、大阪にもあるし、岐阜にもあるし、島根にもあるし、北海道にだってある。ただ人々はラブホテルをビジネスホテルやリゾートホテルのように調べようとはしないし、詳しくなろうともしていない。
たとえば、どこかに旅行に行こうと思いガイドブックを買う。そのガイドブックには美味しいレストランや、行くべき観光スポット、泊まるべきホテルが紹介されている。そのホテルはリゾートホテルであったり、ビジネスホテルであったり、あるいは旅館だったりする。ラブホテルは全然載っていないのだ。カップルで行くのにオススメとレストランの紹介文には書かれているのに、ラブホテルのことは一切載っていない。まるでこの世に存在しないかのように綺麗に載っていない。
だから僕は日本各地にあるラブホテルを巡って記事を書くことにした。
ラブホテルの記事と聞くとあまりいい顔をしない人もいる。あるいはそうかもしれない。理解できなくはない。でも、実際にラブホテルを巡り取材をしてみると、実に面白いことに気がつく。建築としても、歴史としても、文化としても、全てにアイディアがあり、こだわりが詰まっている。ラブホテルでしょ、の一言で終わらせるにはもったいない。
僕が生まれ育った九州の片田舎にもラブホテルはあった。東京のラブホテルとは立地条件が随分と異なっていた。駅の近くということはあまりなく、高速道路の脇とか、よくわからない郊外のどこかとか、山の中とか、自動車でやって来ることが前提だった。文明から離れたところにあるラブホテルほど色褪せていた。壁のペンキは剥げ、看板の照明の電球はいくつも切れていて、駐車場につながる道の脇には雑草が生い茂っている。
営業しているのかわからないラブホテルもあった。でも、営業している。「空室あり」と書かれた文字がそこにはあるし、夜になると街灯がない郊外では唯一の光を持つ存在となり、夏になるとカップルだけではなく、多くの昆虫も呼び寄せた。子供の頃、その光に集まるカブトムシを捕まえに行ったことがある。立派なツノを持つカブトムシを捕まえた。僕の貴重なラブホテルの思い出だ。あのラブホテルの名前はなんだったのだろう、と必死に思い出してみたけれど思い出すことはできなかった。
そのホテルにいつだったか大人になってから行ったことがある。街を離れて随分と経ってからのことだ。どこかの会社の会議室で打ち合わせをしている時に、ふとそのラブホテルが頭によぎったのだ。なぜ急にそのラブホテルが頭に浮かんだのかわからない。会議の内容はラブホテルなんて関係なかったし、カブトムシもカップルも出てこなかった。僕はただ座りその会議を聞いていただけだ。そんな時に思い出したのだ。
僕は次の休みに飛行機に乗り、久しぶりに子供の頃の一時期を過ごした街に帰った。空港からレンタカーを走らせ、そのラブホテルを目指す。名前は覚えていなかったけれど、場所はなんとなく覚えていた。
ただその場所に行くとラブホテルはなくなっていた。
巨大なショッピングモールを中心に、似たような家々が建つ住宅街になっていた。子供たちが若いお父さんやお母さんの手をひっぱり歩いていた。薄暗い場所と記憶していたけれど、そこには影なんてまるで落ちていなかった。僕の影だけが黒く伸びていた。
人類は繁栄したのだ。そのラブホテルでこの辺りの人類の繁栄が始まったのかもしれない。可能性の一つとしては十分にあるように思えた。なぜならそこはラブホテルだからだ。結果、人口が増え、始まりのラブホテルをも飲み込み、今までとは逆の影のない世界を作り出した。
夏の暑い日だったけれど、日がすっかり暮れ、電灯に明かりが灯り、巨大なショッピングモールが昼間のように輝いてもカブトムシはどこからも飛んでこなかった。子供たちはショッピングモールの中のペットショップでカブトムシを買うのだ。人類は繁栄し、その街のカブトムシが滅びる。次に滅ぶのはなんだろう、と考えるとあまり明るい未来を描けなかったのでやめた。
その日は日中だってシャッターがほぼ全て閉まっている古い商店街を抜けた先にある、小さなビジネスホテルに泊まった。ホテルのリノリウムの床はコツコツと寂しげな靴音を生み出していた。
いろいろと考えて、僕は日本各地にあるラブホテルを紹介する記事を書こうと決めた。ラブホテルのイメージを変えるために。先に書いたようにラブホテルには、歴史や文化がある。
建物の外観ひとつとってもそうだ。普通のホテルや家々はあんな形をしていない。人は多くの場合、外観だけでラブホテルをラブホテルと認識できる。それは特徴的で個性的な外観を持つからだ。それはもう建築として面白いということ。そのようなことに気がついて欲しい。それはきっとここの記事を読めば気づけるはずだ。ラブホテルに対する考えが変わると嬉しい。
美術館や博物館に行くように恋人と、あるいはパートナーと、またその日に出会った誰かと一緒にラブホテルに行って欲しい。僕もそうしたいと思っている。ラブホテルだからと言って拒む必要はないのだ。もはや拒むことがおかしいのだ。だって美術館や博物館と同じなのだから。ラブホテルとはそのようなものなのだ。
ぜひ僕とラブホテルに行きませんか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?