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良い反省と、意味のない反省

 ゲーム会社に限らないだろうが、一つのプロジェクトが終わると「反省会」が催される。プロジェクト毎にWebページが作られる(いまはコンフル、ひと昔はWiki)訳だが、その最後には反省会のページが加えられるのが通例だ。

 しかし世の中にある99%の反省会には意味がない。あるいは意味が極端に薄い。私は最初の2回ほどだけ反省会に参加したが、後は適当な理由をつけて休むなりした。

 とはいえ人の上に立つ役職を会社から与えられた今、そうも言ってられなくなった。仕方ないので「反省会でちゃんと反省しようね」という話を皆の前ですることになった訳である。

反省会は反省をする会です

 当たり前だと思う人が多いだろう。私もそう思う。

 しかし「○○セクションが遅かったので、次はどうにかしてほしいです」とか「もっと上の人は計画性を持ってほしい」なんて意見を反省会でいけしゃあしゃあと言うスタッフがいるなら、「それって反省じゃなくて糾弾だよね」と定義しなければならない。糾弾が必要そうな組織なら、別で糾弾会でも設けた方が良い。

 反省とは「何らかの有用な知見を期待して、自分がしてきた行動や発言に関して振り返ること(出典:wikipedia)」だ。先の意見には「自分がしてきた」という視点が決定的に抜けているし、投げっぱなしなので「有用な知見」も全く期待できない。

 何とか先の例を反省をカタチにするなら、「○○セクションの仕事が遅いと認識していたが、手を打てなかった。次はこのようにすれば解決できる。それにかかる期間は2か月ほどなので、予め納期に組み込んでおくとスムーズだと思われる」となるだろう。

 「○○君が頑張ってくれて良かった」というような意見もあったりするが、コレも反省会で言うぐらいならその人に直接言った方がいいし、何なら上司などに相談して彼がいかに有用な仕事をしたか進言する方がよっぽど組織のためになる。そして何より「そのスタッフの何が『良かった』のか?」を書き残しておかないと次に活きない。

 内輪のマスターベーションのために反省会をするのも悪くはないが、それならそれで自覚的にするべきだ。

なぜその場で対処できなかったのか

 反省内容でもう一つ重要なのは、「なぜ問題点を把握していたのに、なぜその場で対処できなかったのか?」を明らかにすることだ。

 半分以上は納期の問題だろう。「問題があることは把握していたが、納期が切迫していたのでそのまま何とか進めた」という場合。残りは「あとで更に良いプランが思いついたが、コストの問題で方針転換できなかった」だろうか。

 こういう後悔は、ゲーム会社においては無数にある。全てを完璧にはできないから、こういう取りこぼしは仕方がない。書き残して次に活かそう。後悔を正しく反省できたなら、必ず次に活きる。

 先の例「○○セクションが遅かったので、次はどうにかしてほしい」は、そう思ったならなぜそういう問題提起をしなかったのか疑問が残る。言っても無駄だと思ったなら、反省会で言っても無駄だ。そんなことをしたり顔で言うこと自体を反省するべきだろう。

「次はこうする」が最重要

 次に同じことが起きたらどうするかを関係者間で共有し、記録しておくのが反省会の役目だ。不満や恨みを言ってスッキリしたいならそうすればいいが、家に帰って日記にでも書く方が幾らか効果的で、誰の時間も無駄にもしないだろう。

 ココが問題だったよね、と共有した後、別のプロジェクトで同じ問題に巻き込まれることほど不毛なことはない。その問題を認識していたなら猶更だ。

 「プロジェクトの最初にタイムスリップしたら、何を改善するか?」という視点も良い。問題点と、その解決方法を浮き彫りにしてくれる。

 問題点と、その解決方法は常にセットだ。「続編を作るなら、最初はココから手を付けよう」「このツールは先にあると早い」などが決まっていると、数年後に続編に着手するとき、新たなスタッフたちがそれを見て大いに参考にするだろう。

「留意する」「注意する」はムリ

 「留意する」のは解決方法ではない。人は注意力が不足するときがあるし、留意することが多いと失念する。気合でカバーしようとするのは間違ってる。

 もちろん「気を付ける」「意識する」(コレ使う人多い)も同じ意味あい。次は気を付けよう、では解決できなかったから反省しているのだ。

 システムで解決する、ワークフローで解決するなど、気合以外の方法はいくつもある。特に技術屋以外のセクションは「注意しようね!」という結論にしがちなので、エンジニアを混ぜて話をすると円滑に進みやすい。

セクション内での反省は意味が薄い

 反省会は、なぜか近しい身内だけで集まって催されることが多い。同業で知った中で話した方がリラックスできるし、不満も共感してもらいやすい。不満の捌け口として使いたいだけなら、セクション内反省会が一番良い。

 しかし実際の仕事はセクション間に跨って横断的に行われるものだ。プランナーが仕様を出し、デザイナーが絵を出し、プログラマーが動かす。その一連の流れにあるコストや摩擦を解消する方が、断然意味があるだろう。

 私がおすすめしているのは、自分が特に密接に仕事をした人と個人的に反省会をすることだ。大きな会にするとなれ合いになりがちだし、参加人数に対して効果が薄い。コスパが悪いのだ。

 地形デザイナー×グラフィックプログラマー、UI担当プランナー×システムプログラマー、などでモジュールごとに切り取って反省する方が反省しやすいし、残した資料も役に立ちやすいだろう。

おわりに

 この話をした時、「もう少し気軽に不満を言いたい」というような声が若いスタッフから上がった。気持ちを吐き出すことで気分がスッキリしたり、次のやる気が出るならそれでも良いと思うと返した。

 でも、不満を言う自己満足の時間にも会社は給料を払っている。それを頭に入れておいてね、と言った。

 反省会をするのは同じ過ちを二度と繰り返さないため、少しずつ上に上がっていくためであって、ストレスをぶつけるためじゃない。不満を言うことは悪い事ではないが、それより私は早く次の面白い仕事がしたいし、その方が精神衛生面上も良いと思う。

 そう言うと彼は納得した感じで引き下がってくれた。こういう話をするとき、大体は若いスタッフの方が柔軟だ。彼らは先輩を見て学ぶ。先輩が自分を顧みず他セクションの悪口ばかり言っていたら、その背中を見て「反省会ってそうやるんだ」と思うだろう。

 エラそうに人前で語ったものの「自分を顧みる」。これが非常に難しい。私もまだまだ精進の途中。自分を含めて俯瞰で見るというのは、アラフォーになっても難しい。四十にして惑わなくなれるよう、さらに精進します。

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