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退学したいなんて安易にいうな! スープまで飲め! ぜんぶ食ってから文句を言え!


第1回、第2回とどんどん「好き」が減ってくる。そりゃそうだよね。おもしろくないし、文章、ポエムだし。

でも、気にしません。で、第三弾。

学生の退学したい!と大学人がやるべきことについて。

学費減額のために政府は大学に1.5兆円を支出せよ!という論評を、ある大手の新聞社に掲載できないかと聞いてくれた親切な知人がいました。
でも、大新聞社の記者が言うには、大学なんてコロナ不況被害の切実さがないんじゃないか。お金を回す優先順位が低いって関心も示されなかったとか。
悲しい(・_・、)

「退学したい」を放置か?

ところで、今、学生たちが高等教育無償化FREEという団体をつくって、Webアンケートを実施している。13人にひとりが退学を考えている結果になった。そういう報道があった。日々、退学したいという学生比率がだんだん増えて、今は2割だとか。
このアンケートの信憑性については後から書くが、そんなにかんたんに「退学したい」なんて言ってほしくない。
また、大学関係者はそんなこと言う学生を放っておいていいのか?と思う。

熱いネクタイ事件

ちょっと、ここで私のエピソードを。
一昨年の冬、私はネクタイを買おうと思ってある百貨店に行った。ネクタイ売り場の店員にクレジットカードを作ったら安くなる、と言われ、私はクレジットのコーナーに案内された。そのコーナーは混み合っていて、たまたま空いた席に座って、若い男性の店員に言われるままに私は書類に必要事項を書いていた。
職業欄を埋めていると、「あっ、○○大学の方ですか。僕、そこの大学生なんです」とその若い男性が言った。
えっ、と思っていろいろ聞くと、その店員は事情があって、休学してここでバイトをしているらしい。あれ、これは、なんか新種の詐欺?とも思った。けど、天下の百貨店がクレジットカードをつくらせるのにそんな手の込んだことするかな? しかし、たまたま座った席でそんな偶然あるか? と半信半疑でさらにいろいろ聞くと、その学生バイトは
「あるお客さんから今、うちに来ないかと誘われているんです。二部上場の会社なんですけど、行ってもいい会社だと思いますか」と聞かれた。
この学生は6年在籍していたが、お金がなく休学してお金を貯めていたという。しかし、この際、家に迷惑もかけるので退学して就職しようかと思っていたらしい。
私のなかでムクムクとおせっかい心が芽生えてくるのを抑えられなくなった。
「ちょっと君。今、私が客で、君の大学の偉いさんだということは忘れてほしい。街でたまたま出会ったひとりの人生の先輩だと思って聞いてほしい」と言った。「実は私も大学で留年したことがある。君のように退学を考えたこともある。でも、親に迷惑は掛けたけど、続けていてよかったと今は思っている」と言った。
その学生は
「でも、すぐにお金ほしいし、大学を出るのと出ないのではそんなに違いますか」と聞いてくる。
「そりゃ、違うよ。生涯賃金で4000万円は違ってくる。今度転職するなら大卒資格が要るところは受けられない」と答えた。
「でも・・・・」と何か学生は言いたそうだった。
「もしかしたら、うちの大学を出ても評価されないとか思っているんじゃないの」と私。
「違うんですか?」と学生。

大卒に価値はあるか?

「それは違うと思う」
と、私は切り出して、うちの大学の教学改革の歴史、どんなに教職員がそのために努力しているか、その学科でどんな力をつけようと思っているのかを延々と10分くらいしゃべった。
「早慶上理MARCH、関関同立とか大学の知名度や偏差値ランキングで語る人がいるね。私はそれを壊そうとか、否定しようとは思わない。そういう幻想みたいなものは無くなってほしいけど。でも、こっちが思っても世間はそういう目でみるひとがいるのもわかる。しかし、社会に出たら、目の前の仕事をいっしょうけんめいに取り組んで、仕上げることについては同じでしょ。それで評価される。今の君の仕事もそうでしょ。要するに、自分がその大学で何を学んだのかが大事なんだ。自分のなかに何を得て成長したのか。それだけを誇りに思えばいいし、そう思って私たちは教育をしている」とついに昭和のおっさんの説教になってしまった。「絶対に君は大学に戻ってくくるべきだ」と言い切った。
別れ際、その学生はニコッと営業用のスマイルをくれた。
私は「来年の春、待ってるしね」と言って別れた。
翌日、私は大学でそのバイト学生の名前を確認した。
なんと実在の学生だった。新種の詐欺ではなかった。
ゼミの教員に聞くとその学生の複雑な事情を把握していた。
そして、次の春。
なんと、彼はキャンパスに戻ってきていた。
ゼミの教員からは、感謝の言葉をかけられた。私が言えなかったことをよくぞ言ってくれたと。
ああ、昭和のおっさんもときに役立つ。

うちの大学の学位をバカにするな!

私がクレジットコーナーでつい熱く語ってしまったのは、「うちの大学の学位をバカにするな!」ということ。
ある人と話をしていて、大学が学費を返せないのは、4年間学費を払ってもらって、それと引き換えに学位を与えている契約だからという話になった。元大学職員のその人は、「大学は学位商売だからな」と言った。
そう、大学って「商売」なんだ。
いや、そう、確かに「商売」。
ラーメン屋と同じ。
こっちは情熱込めて、精魂かけて教育をつくっている。
だから言いたい。
途中で席を立つな!
うまいぞ、スープまで飲め!
ぜんぶ食ってから文句言え!
うちのラーメン、いや、うちの大学の学位をバカにするな!
見かけの盛り付けにごまかされるな!
ぜんぶ食ってから判断しろ!
と、学生に言いたかったんだと思う。

大学はラーメン屋ほどうまい教育をつくっているのか

じゃあ、そんなふうに大学の教職員がみんな学生と向き合っているんだろうか。
その学生のゼミの教員はそこまで踏み込んで学生には言えない、と言っていた。
だって、その学生の人生なんだから、と。

いや、百貨店のクレジットコーナーで熱く語れ!ということじゃないですよ。
大学関係者は、ラーメン屋のおやじくらい情熱込めてラーメン作っているんでしょうか。
パチンコ店の店主ほどプライドをもって仕事をしているのか。
そうならそう学生に語るべきじゃないんでしょうか。

でも、うちの大学が本当にそうなっているかを考えると、こころもとなくなる。
組織の上の方は文科省という行政とか他大学の動向とかを気にすることには熱心。
中間管理職は組織の上を見て、横の領域を侵さないように、下には嫌われないように必死。
下の方は来月も給料がもらえればそれでいい。言われればやりますけど、という態度。
ん? 違う?
でも、そうだったら、今日からそういうのは止めよう。
やめるように努力しよう。
いつも学生の方を向いて仕事をしよう。

学生団体FREEのアンケートは信用できるか?

13人にひとりが退学。
高等教育無償化FREEという団体、悪意はないと思う。しかし、あのアンケート結果の発表で、世間はあたかも多くの学生が、大学を去ることになると不安に思っている。
アンケート手法にかなり問題がある。だいたい退学に関心のある層しかアンケートに答えないし、質問も退学に誘導しすぎている。研究ならやり直しの類い。
だからあんなもの信じているマスコミがおかしい。

「緊急!大学生・院生向けアンケート」全国大学生協連でわかること

まだ全国大学生協連の緊急35,000人アンケートのほうが信頼性はあると思う。この調査はとても興味深いので、大学関係者は結果をぜひ一読してほしい。

アルバイト収入の見通しで「大きく減少する」「減少する」と約 40%が回答している実態。
学費減額を切々と訴える内容も多い。
大学生活に不安を感じる要因で、経済的事情を上げている者が約3分の1を占める。
そのほか、リアルなキャンパスに行ったことがないので友人がゼロというのも、回答の5分の1くらいある。就活の不安も多い。
退学を直接質問している選択肢はないが、記述式部分で「退学」に触れているピックアップはひとつだけ。このアンケートでは「退学」を軽く扱っていない。
一方FREEのアンケート結果では、今や学生の「2割」が退学を考えていることになっている。
学生は退学を本当に考えているのか?

今の奨学金制度を知っているのか?

でも、退学を考えている学生、ちょっと待ってほしい。
本山勝寛氏が書いた『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう』(ポプラ新書)という本がある。
東京大学を出て、ハーバード大学大学院を修了した人の話だ。
しかし、東大式○○、とかハーバード流○○とかいう成功本の類いではない。
本山氏がいかに苦労して、奨学金を駆使して、生活が苦しいなかでも、東大を卒業し、ハーバード大学院を修了したかが書かれている。
「ブラック奨学金」「奨学金地獄」とか煽る風潮を批判している本でもある。
本山氏は「極貧」であったと自身の経済状況を振り返っているが、日本育英会(今の日本学生支援機構)の奨学金、授業料免除制度の利用、大分県の無利子奨学金、ハーバード大学の奨学金などを調べ、利用して学費のほぼすべてを奨学金でまかなったという。
そういう体験から今の奨学金を考え、勧めている。

日本学生支援機構の無償化奨学金の実態

知らない人もいるが、今、日本学生支援機構の奨学金はかなり充実している。
生活保護世帯とそれに準じる世帯は無償化制度により、学費を最大で年間70万円減額。奨学金は一年で最大91万円給付される。対象世帯を区分1~3に分けたり、家計状況を細かくみたり複雑ではあるが、年収380万円より少ない家庭では、できる限り大学を辞めずに続けられる設計をしている。家計急変のための奨学金枠もある。給付額でそれでも救えないのは政府の財源の限界なのかもしれない。
でも、退学したいと思っている学生は、必ず奨学金のことを調べてほしい。
コロナの影響で収入が大幅に減った場合、日本学生支援機構の奨学金は家計急変の面倒も見てくれる。申請すれば翌月に支給できるように事務の短縮化も行われているものもある。
そのほかにも企業の奨学金、自治体の奨学金もある。
もちろん大学独自の奨学金もある。
退学したいと考える学生たちはそんな奨学金制度などを調べたことがあるのだろうか。

ひとりの退学者も生まない奨学金誕生!

今日、うちの大学では新たな奨学金制度をホームページで学生に知らせた。
「新型コロナウイルス感染でひとりの退学者も生まない給付奨学金」という長い名前の奨学金制度だ。
担当部局はこれまでにない奨学金をつくるために知識と脳ミソを総動員してくれた。
ここで重視したのはひとりの退学者も生まないとはどういうことか、だ。
うちの大学では日本学生支援機構でも救えない場合をいろいろ考えた。
例えば大学院生はこれから除外されている。
単位基準があるので、そこから外れた人も救われない。
どういうわけか留年しても対象外になっている。
日本学生支援機構の奨学金を申請しても落ちる人もいる。
生活保護世帯はそれでも足りないケースもある。
そういうケースを想定して制度設計した。
制度設計も難しかったが、原資計算は「全国に電信柱は何本あるか?」くらい難しいフェルミ推定だった。数億円単位の誤差を理事会に承認してもらう必要もある。

ややこしくてわからなければ、大学に相談してほしい。
それから退学を考えても遅くはない。
そんなに安易に退学したいなんて言わないでほしい。
同じ悩みを持ったことのある先輩としてそう言いたい。
この設計に関わってくれた職員たちには心から感謝したい。

フリーズを壊すのは誰でもいい、そうあなたでも

危機に出会うと人間には3つのFがつく行動パターンがあるらしい。
闘争(Fight)、逃走(Flight)、フリーズ(Freeze)。
その3つのどれか。
強いストレスがそういう行動をひき起こすらしい。
今多くの人は、危機の前でどうしていいのかわからないだけなんじゃないだろうか。
フリーズしているのだ。
それは大学の学生も教職員も同じ。
職員組織の上も真ん中も下も同じなんだろう。
うちの大学の自慢をするわけではないが、事務を統括する私がリスク覚悟でいろいろ動いたら、共感してくれる教員も職員もけっこう多かった。逆に反対する人にはまだ出会っていない。
奨学金で学生を救おう、友達のいない新入生、バイトをなくした学生のためにオンラインでもいいからコミュニティを作ろう、就活が不安な学生には「安心しろ、オレ達がついている」というメッセージを送ろう、地域の店と学生下宿の出前ネットをつくろうと、どんどんアイデアが出てくる。
ああ、みんな、待っていたんだと思った。
誰かが言い出すのを。

何がなんでも教育は続ける。
困っている学生からひとりの退学者も生まない。
孤独な学生をつくらない。
メンタルの相談にものる。
就活サポートも続ける。
学生のそばにいて、学生とともに乗り越えよう。
そういうベクトルを示せばいいのだ。
大学人として。
トップでなくてもいい。
権限なんか持っていなくてもいい。
誰でも気づいた人から始めればいいのだ。

大学の足並みが乱れるのは、善意のPR合戦をやっているから?

今、大学の足並みが乱れている。
学費は返さないのが法解釈だといいながら、一律支給などと実質的に学費を返すようなことをしている。本当に少額の学費を返す大学まで出てきた。
政府の方針もないのに。
それがPR合戦みたいになっている。
本当に学生のことを考えているのか?
困っている学生を本気で救おうと思っているのか。
そういうことを自らの大学で、身を削ってやっているのか?
私の大学では教職員が学生を救うために腹をくくったと思う。
オンライン授業についていけていないのは学生だけではない。
高齢の教員にとってZoomを使うのはつらい作業だ。
学生の一人ひとりと向き合って奨学金の設計をしたり、オンラインで学生コミュニティを作るのは骨の折れる作業だ。
でも、そうすることで心なしかみんなの顔が明るくなった。
職場によっては学生の困難を克服するのを喜びに感じる笑い声さえ聞こえる。
今、大学人がやることは何だろうか?

政府に1.5兆円を要求するのが恥ずかしいことなのか?

私は学生のいい加減な電子署名でも、学生が本気で考えることなら胸を張って受け取りたい。

政府に1.5兆円を要求することは恥ずかしいことなんかじゃない。

本当に胸を張って、自分のやれることはすべてやったと言って、学生の思いを受け取りたい。
大学人みんなが、今、考えてほしい。

これで終わり。ああ、すっとした。

次回は・・・・ないかな?

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