サントシャペル

旅って、行ってみたら大したことないかもしれないけど、

一週間でドイツとフランスを巡る旅が終わり、日本に帰って来て数日が経った。

僕の生活は、旅に出る前からなんら変わっていない。悲しいほどに。
別にたった一週間の旅で急に変われるとは思っていなかったが、それにしても変わってなさすぎて、虚しくなってくる。

一日のふとした瞬間に、あの旅に行く価値は本当にあったのかを考えている自分に気付く。

もちろん楽しかった。ずっと憧れていた土地に行けて、綺麗な景色を見て、美味しいものを食べることができた。

けれど、やはり釈然としないところもある。

例えば、パリで見に行ったエッフェル塔や凱旋門は、期待してたほど感動はなかった。
びっくりするぐらい大きいわけでもなければ、白色が綺麗すぎて輝いているほどでもない。ただ街の中に少し高い塔や石造りの門が立っているだけ。自分にとってはそんな印象だった。
東京タワーも今となっては見慣れたものだが、あれを小学生のときにはじめて見たときの方がまだ印象に残っている。

他にも、モナリザは何がいいのかよく分からなかったし、ご存知の通りノートルダム大聖堂は現在閉鎖されているし、ミュンヘンでは雪で滑って盛大に転んだし。
よくよく考えてみれば、30万円使って1週間ヨーロッパに行ったけど、ほとんどが移動で、実際観光していたのは1日たった数時間しかないじゃないか。

一つの良くないイメージを皮切りに、今回のヨーロッパ旅のネガティブな思い出がズルズルと出てきてしまう。

じゃあ、行かなかったらよかったか?
ヨーロッパに行く代わりに日本で一週間過ごした方がよかったか?

いま一度ヨーロッパ旅行の思い出を振り返る。今度は写真を見ながら、できるだけ素敵な思い出を探してみる。

ノイシュヴァンシュタイン城で立ち入り禁止の柵を越えてまで見た景色は、比喩ではなく呼吸をするのも忘れるような衝撃と感動を受けた。
ミュンヘンの街並みを展望台から眺めたときは、自分が地球に生きている喜びをこれでもかと実感させられた。
パリでふらっと立ち寄ったレストランやパン屋さんは、どこもあまりの美味しさで僕の舌を驚かせた。
モナリザは大したことなくても、「民衆を導く自由の女神」のダイナミックさには圧倒されたし、オランジュリー美術館に飾られているモネの「睡蓮」には、魂の奥底から癒された気がする。
サント・シャペルのステンドグラスは本当に綺麗で、死ぬまでにもう一度行きたい場所になった。

僕は、今回の旅でちゃんと素敵な経験をしている。それも、僕の想像を遥かに超えるぐらい素敵な経験を。
幸せなことに、そんな瞬間がいくつもあった旅だった。
そして、そんな瞬間が自分を形作るものになっていると考えると、なんだか嬉しくなってくる。

今回のヨーロッパ旅には、本当に価値があったのか。
少し問い方を変えよう。
30万円が返ってくる代わりに、ヨーロッパで経験したことを全て忘れてしまうとしたら、どうだろう。

絶対に嫌だ。

なんだ、答えは出てるじゃないか。

旅というのは、とてつもなくお金と時間と体力を消費する。その割に、楽しい時間は一瞬だ。決してコスパがいいものではないかもしれない。
だけど、旅をしていると、いつも通りの生活を送っていては想像できないほどの感動を受ける一瞬がある。
そしてその一瞬は、どうやっても値段をつけられない尊いものになり、決して忘れたくない思い出として自分の中に刻まれる。
きっと、人はそんなかけがえのない一瞬のために旅をするのだろう。

もうヨーロッパに行く前の自分、行ったことのない自分に戻りたいとは思えない。
自分の何かが劇的に変わったかと言われたら、そんなことはない。
ただ、一歩踏み出していろいろな景色を見た自分と、いろいろな景色を見せてくれたヨーロッパを、少しだけ好きになれた。

いつだって大事なことはシンプルだ。
旅に出てよかったと思う自分がいる。この旅を忘れたくないと思う自分がいる。ヨーロッパも、ヨーロッパに行った自分も好きだと思える自分がいる。
それだけで充分だ。

ドイツでノイシュヴァンシュタイン城に心を奪われてから、「世界を愛する」をテーマに旅を続けてきた。

そのことを書いた記事は、最後こんな一文で締めくくっている。

僕が旅をするのは、世界を愛するためだ。

今回の旅で、自分の中の”愛”が広く、深くなった気がする。
その”愛”には、ドイツとフランスはもちろん、この地球という大きなもの、そして自分自身も含まれている。
それもこれも、ヨーロッパで経験したかけがえのない瞬間のおかげだ。

この感動を忘れぬよう、少し言葉を付け足して、僕が旅をする理由を改めてここに記そう。

僕が旅をするのは、忘れたくない一瞬を経験し、自分も世界も愛するためだ。

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