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世界を愛するために、旅へ行く

なぜ人は旅をするのか。

いま、1週間のヨーロッパ旅行に来ている。

ヨーロッパにも一人旅にも、ずっと憧れていた。いつかヨーロッパをひとりで巡るという幼い頃からの願いをついに叶えた。

そのはずなのに、なぜか気分は最高!というわけにもいかず、心のどこかに影が落ちていた。

今まで年1回ぐらいは海外旅行をしてきたが、そもそも自分は元来インドア派なのである。今までの海外旅行は、やや重たい体に鞭打ってミーハー心だけで行っていたのだが、やはりいつも物足りなさや虚しさを感じてしまう自分がいた。

だから、初めて憧れのヨーロッパに行く今回は、自分を苦しめている不安を取り除き、この旅に行く理由・目的・テーマ…そういうものを改めて丁寧に言葉にして、希望を抱きながら臨みたかったのである。

どうして自分は、新しい景色や美しいものを見たいと思うのか。
ヨーロッパに行く前と行った後で、自分の何が変わるのか。
自分が一人旅というものやヨーロッパという土地に何を求めているのか。

なぜ人は旅をするのか。
自分なりの答えを見つけたい。

1カ国目のドイツに着くまでの僕は、そんなことをごちゃごちゃ考えていた。

朝早起きして向かったのは、ノイシュバヴァンシュタイン城。
「おとぎ話のような美しさ」と称され、ディズニーランドのシンデレラ城のモデルになったことでも知られる、世界一美しいと言っても過言ではないお城だ。

麓から20分ほど坂を登ってお城まで辿り着き、一通り内部を見て回った。
荘厳な外観と豪華な内装を見て、この城にまつわるエピソードを聞いて、十分に楽しんだ。
あとはまた坂を降りてお土産でも見て帰るはずだった。
というのも、マリエン橋というノイシュヴァンシュタイン城が最も美しく見えるスポットがあるのだが、そこは冬の間閉鎖されて見ることができないのである。
それでも、なぜだかこれで帰ってはいけない気がした。このモヤモヤを抱えたまま旅を続けてはならない気がしていた。
実は、冬でもマリエン橋と同じようにノイシュヴァインシュタイン城が見える立ち入り禁止の場所があるというのは、行く前から知っていた。
幸い天候も悪くないし、帰りの列車まで時間も残っている。
普段の自分なら考えられないのだが、この旅に臨む想いの強さゆえか、あるいは誰にも咎められないという開放感からか、その場所に向かってみることにした。

また20分ほど坂を登る。今度はみんなが歩く正しいコースよりも急な道だ。
遠くに1組だけ僕と同じように登っていく観光客が見える。それ以外には誰もいない、とても静かな道だった。
坂の上まで行くと、立ち入り禁止の柵の向こうの崖付近数人の人影が見える。前を歩いていた二人組もそこへ入っていく。僕も柵を越えて崖の方へ歩いていった。

崖の際まで行ったとき僕の目に飛び込んできたのは、雪山の中に、よく見る写真と同じアングルでそびえ立つノイシュヴァンシュタイン城。

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あまりにも雄大なその景色を目にしたとき、それまでぐちゃぐちゃ考えていた理屈っぽいことはどうでもよくなった。
感動のあまり息を呑む、言葉を失うという表現は、まさにこういうときに使うのだろう。僕は恍惚とした感覚に身を委ね、その景色を少しでも鮮明に目に焼き付けようとした。

その”秘密の場所”には、僕を含めて5人ほどしかいなかったが、その場には、みんなと同じ場所から城を見るのとは明らかに異質な感動が満ちていた。


ドイツに来て、自分の何が変わったか。

答えはいたってシンプルだった。

ドイツが大好きになった。

ミュンヘンの街を歩いて、美しいノイシュヴァンシュタイン城を見て、ドイツビールを飲んでソーセージを食べて…そうやってドイツからいろいろなものを与えてもらううちに、自然とドイツの魅力を肌で感じている自分に気付いた。こうやって新しい土地を訪れると、自分にとってのとって大切な場所が増えていく。
そうやってできた”大切”が一つ一つ積み重なって、自分が生きる世界に向けた愛になるのだろう。

世界を愛したら、どうなるのか。
正直、今はあまり分からない。

だが、愛することは、間違いなく自らを幸せにしてくれる。

イーゴリ・ストラヴィンスキーというロシアの音楽家が、こんな言葉を遺している。

何かを創造するには、心を突き動かす力が必要だ。
心を突き動かす力の中で愛に勝るものがあるだろうか?

今生きている人生を価値あるものにしたければ、自分が生きた証として何かを成し遂げなければならないと思う。
愛というのは、短い人生が意味を持つようなことを成すための頼もしい原動力になってくれるのではないだろうか。
そして、世界という大きな存在を愛し、その愛を深くすることができれば、価値ある人生を送ろうとする僕らを助けてくれるのではないだろうか。

世界を愛しながら生きられる人生と、世界を憎みながら生きるしかない人生。
どちらを望むかは考えるまでもない。

僕が旅をするのは、世界を愛するためだ。

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