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アルアクサ洪水164日目


 レイラ・ワラ(パレスチナ拠点のフリーランス・ジャーナリスト)
 Mondoweise、2024年3月19日  翻訳  脇浜 義明

死傷者
*ガザ回廊のパレスチナ人死者31,721人、重傷者73,792人(ガザ保健省発表。死者数を4万人以上とする陰険団体もある)
*西岸地区、東セルサレムでのパレスチナ人死者は435人(3月17日のPA発表)
*イスラエルは10・7当日のイスラエル人犠牲者数を1400にんから1147人に修正。10月7日以降のイスラエル兵の死者は591人、重傷者は3221人(イスラエル軍発表)

主要事象
*ガザ保健省: イスラエル軍はアル・シファ病院に4度目の攻撃を行い、多くの人を殺害した。軍は攻撃の後でアル・シファ病院の避難民、患者、職員にハーン・ユーニスに疎開せよと通告した。
*パレスチナ人囚人組合: 10月7日以降イスラエル刑務所では17人が獄中死した。
*英国の慈善団体オックスファムが「イスラエルがガザ住民への生活援助活動を著しく妨害した」と非難声明。
*PRCS(パレスチナ赤三日月社)は心的障害で苦しむ子どもに専門家グループを結成。
*IPC(総合食料安全保障段階の分類(訳注:国連食糧農業機関の食料残善分析ユニット):ガザ人口の半数にあたる110万人が餓死寸前の壊滅的食料不安に直面している。
*救援物資トラック19台が数カ月ぶりに、イスラエル軍の攻撃や妨害を受けずに、ガザ北部のジャバリアへ到着した。
*UNICEF事務局長キャサリン・ラッセル: 飛行機から落とす救援物資や港のないガザへの船による旧物資は必要な人道支援から見れば「バケツの中の水滴一つ」にしかならない。
*UNICEF: ガザ北部の2歳以下の赤ちゃんの3人に1人が極端な栄養失調状態にある。
*ガザ保健省: この24時間内でイスラエルの攻撃で81人が死亡、116人が重傷。
*NBCニュースによれば、米ミシガン州とジョージア州における世論調査で、ガザ戦争に関与しているためにバイデンへの支持票が大きく減少したことが判明し、バイデンが「大声で罵った」という。

イスラエル軍の再三にわたるアル・シファ病院攻撃
 3月18日早朝、イスラエル軍は戦車と大砲でガザ北部のアル・シファ病院を攻撃した。同病院はこれまで何回も攻撃され、多くの死傷者が出ていた。ガザ保健省によれば、避難民、患者、病院職員が病院内に封じ込められ、イスラエル軍の狙撃兵はヘリコプターの機関銃の標的となった。病院入り口が燃え上がり、内部の人たちの中には煙で窒息死したひともいた。この攻撃の2時間後に、軍は、ハマスが病院をテロ活動の拠点にしているので、精密作戦を行っているという声明を出した。「我々はハマスの上級テロリストがアル・シファ病院に立て籠って、イスラエルへのテロ攻撃を指示していることを知っている」と、軍のスポークスパーソンのダニエル・ハガリがXにポストした映像で語った。
 前の3回の攻撃でも使った根拠のない主張である。ハガリのXビデオは英語で行われ、食糧や水の「人道的」供給も行うと述べ、患者と病院職員は避難する必要はないと言った。
 しかし、もう一人の軍スポークスパーソンのアヴィチャイ・アドレイはアラビア語でXビデオを流し、パレスチナ人は病院とその付近建物ら早急に立ち去ることを命じた。「死にたくなければ、今直ぐ立ち去り、西方へ、アル・ラシード(アル・バフル)通りを越えて、南部のアル・マワシへ行け」と言った。
 アル・マワシはベドウィン村でイスラエル当局が「人道的安全地帯」と呼んでいるところ(訳注:イスラエル・テレビのチャンネル4ニュースのインタビューで、イスラエル政府のスポークスパーソンのエイロン・レヴィは「ガザがハマスから解放されるまで安全ではない」と言った)で、時々イスラエル軍の攻撃があるが、比較的安全と見做され、避難民で溢れかえった人口密集地である。『アル・ジャジーラ』のハニ・マフムード特派員は「イスラエルが空からアル・シファ病院とその付近から安全な場所へ移動せよと勧告するビラを撒いたが、戦争開始以来病院へ避難してきた数千人の人々は軍ビラを信じて避難したら安全になるのか、それともそのまま病院の中で避難生活した方がよいのか、迷った」と書いた。(訳注:マフムード記者は「イスラエルは人々に避難せよと命じ、人々が避難先に到着すると、そこで殺害した」とインスタグラムで語っている)彼は、「去年12月初め、イスラエル軍は根拠のない主張を並べ立てて、アル・シファ病院を攻撃した。病棟や貴重な治療施設や備品うぃ大量に破壊し、約250人のパレスチナ人と逮捕して連行した」と書いた。
 『タイムズ・オブ・イスラエル』は軍がアル・シファ病院を完全支配し、80人を身柄拘束したという軍発表を報道した。
 『アル・ジャジーラ』は、「病院占領という犯罪行為はネタニヤフと彼のナチ軍隊の勝利というイメージにならない。混乱と軍事的達成の欠如の表明するだけ」というハマスの声明を報道した。また、「病院を攻撃標的にしたのはイスラエルのパレスチナ人絶滅作戦の継続であり、国際法や国際的慣行に違反する」というパレスチナ諸党派の共同声明を掲載した。
 ガザ保健省はアル・シファ病院攻撃を「病人、怪我人、避難者の虐殺」と表現し、その犯罪行為を即時停止の圧力をイスラエルにかけよと国際社会に呼びかけた。さらに、「イスラエルの行為は国際人道法の破廉恥きわまる違反であり、嘘の談話で世界を騙し、犯罪行為を正当化している」と言った。

「赤ちゃんは泣く力もない」
 ガザのパレスチナ人は封鎖のために飢餓常態になり、特に北部ではイスラエルが救援物資の搬入を妨害するために餓死寸前といってもよい状態である。
 英国の慈善団体オックスファムはイスラエルの救援物資搬入妨害を非難し、イスラエルが国際司法裁判所のガザでのジェノサイドをやめよという命令を無視していることを批判する声明を出した。オックスファムは、イスラエルがガザへの2通路を名目的に開けては入るが、救援物資搬入維持を監視システムを機能不全にし、人道主義的活動を取り締まるなど、救援物資の配送を止める7つの方法を指摘している。オックスファムの中東・北アフリカ担当理事のアビ・カリルは「国際司法裁判所の判決にイスラエル指導者は驚いたに違いないが、判決後ガザへの仕打ちはいっそう酷くなった」と語った。
 UNICEFによれば、ガザ北部では赤ちゃん3人に1人がひどい栄養失調になっている。児童担当事務局長のキャサリン・ラッセルは、「何も食べることができないと、身体が身体を食べて、酷い栄養失調となります。それは子どもにとって大変な苦痛を伴った死です。私は栄養失調で苦しむ赤ちゃんの病棟にました。病棟は静寂そのものでした。なぜなら赤ちゃんには泣く力もなかったからです」と語った。彼女はCBSニュースのインタビューで、「食物摂取治療をすれば子どもたちは生存できるかもしれませんが、一生発育不良障害が残るでしょう。例えば、知的能力障害が一生残ります」と語った。
 一部の援助物資が空中投下や船で運ばれているが、専門家や、NGOや、住民はそれらは二百万人以上の人々の飢えを凌ぐには微々たる量である。ラッセルはそれを「バケツに一滴の水滴を入れるようなものだ」と言っている。「救援物資を届ける道が非常に限られていますし、多大の障害があります。トラック輸送が一番効率的なのですが、攻撃され、妨害され、お役所的手続きで苦労します。軍事に利用できるものがあると許可されません。医療用品には当然ハサミやメスが含まれますので許可されないし、プラスチックパイプもだめです。まるでカフカの小説のような官僚的迷路があって、それへの対処で大変です」と彼女はCBSニュースで語った。
 避難民のザール・サクルも、「想像を絶するような酷い状況で、空中投下や船の輸送はたしかに助かりますが、大海の一滴程度です。ガザの全人口が飢えているのですから。それでも人々は海岸で少ない援助物資を競い合って取り合っています」と、アル・ジャジーラに語った。
 空中投下は混乱を引き起こし、落下荷物のパラシュートが開かずに、人々に直撃し、何人か親だ。
 「私たちは援助を待っています。船にせよ飛行機にせよ、それは解決になりませんが、私たちは援助物資を待っています。飛行機から品物が落とされると、人々は競い合って取り合います。何人かの子どもが援助物資を取ろうとして海で溺死しました」と、ハーン・ユーニスの住人ワル・ミクダットが言った。
 国連は飢餓状態の人々が60万人いると言った。避難民のイマン・ワディは「生活状況は非常に悪く、食べることも、水を飲むこともできず、援助物資は非常に乏しいのです。南部には援助物資があるとイスラエルは言いますが、非常に乏しいのです」とアル・ジャジーラに語った。
 オックスファムのアビ・カリルは「イスラエル当局は国際社会の人道支援の手助けをしないばかりでなく、積極的にそれを妨害している。イスラエル政府は軍のジェノサイドを止めようとしていない。イスラエルは人道主義を破壊する最悪の暴風雨を創り出した。それを止めることが出来るのはイスラエルだけです」と言った。

救援物資がジャバリアに届いたが、「差し迫った飢餓」に直面しているガザ人は100万人以上
 3月17日夕方、アル・ジャジーラもカメラは19台の救援物資トラックがガザ北部のジャバリア難民キャンプへ入るのを捉えた。小麦、米、その他の食料をUNRWAの配送センターへ運ぶコンボイであった。ガザ回廊南部から北部へイスラエル軍の妨害なしに救援物資が運ばれたのは、4カ月ぶりであった。
 飢餓状態を調査する機関であるIPC(総合食料安全保障段階分類)は、ガザ人の半数が「差し迫った」飢餓状態にあると発表した。「ラファへの地上軍侵攻など戦争拡大という可能性の高いシナリオによれば、3月半ばから6月半ばの間に、ガザ回廊人口の半分(111万人)が、IPC分類段階でフェーズ5(IPCスケールで最も段階)にあたる壊滅的な状態になる。これは前回に発表した数より530000人増加(92%)である。」
 最悪シナリオの場合、残りのガザ人も2024年7月には「飢餓に直面するであろう」とIPCは予測している。「南部のデイル・アル・バラやハーン・ユーニスやラファもIPC分類段階でフェーズ4(非常事態)になるであろう。」

イスラエル軍、軍事目標達成まで長い道程
 イスラエルの同盟国も含めた国際世論のガザ攻撃をやめよという声にもかかわらず、ネタニヤフ政府はガザ攻撃をやめる意向をまったく示さない。イスラエル国防軍参謀総長のヘルジ・ハレヴィは記者会見で「わが軍は多元的で複雑な戦線の中でかなり多くのことを成し遂げたが、 戦争目標達成までにはまだ道程は長い」と言ったと、アル・ジャジーラが伝えている。さらに、彼は「これまで主要ターゲットにしてなかった地域でも作戦行動を行う」と言った。これは150万人のパレスチナ人が避難しているラファ攻撃を言っているのである。「軍は追加地域の攻撃の準備をしている。攻撃の時期と方法は政府と相談して決定する。ハマスが潜んでいると思われるところは、どこであろうと、攻撃する。ハマスの部隊をそのままにするのは間違っている」とハレヴィ。
 しかし、元司令官のイツハク・ブリックは、対ハマス・ガザ回廊戦争ではイスラエルの敗北だと言っている。「いつまでも国民を騙し続けることはできない」と、彼はイスラエルの新聞『マアリヴ』に書いたと、アル・ジャジーラが伝えている。「早晩、ガザの本当の戦況やレバノンの対ヒズボラの戦況が、国民の知るところとなるであろう。」彼は銃後の国内に言及し、「銃後の戦線は地域戦争に対する準備ができていない。国内で内戦となれば、ガザ回廊の戦争よりもはるかに困難な戦争になるだろう」と警告した。

バイデン、来るべき選挙に心配
 バイデン大統領が、彼のイスラエルの大量殺戮を一貫して支持している姿勢が、今年の大統領選挙において彼の支持票を減少させているということを知って、逆上したという報道がある。ミシガン州とジョージア州の世論調査で、彼のガザ戦争支援政策のために彼への支持率が低下していることを知って、大統領は口汚い言葉で罵ったと、NBCニュースが伝えた。それは、1月にホワイトハウス大統領執務室で議員団と大統領との会合で起きたことで、記事はそれに参加した一人の議員の発言として報道した。バイデンは、政治的な影響にもかかわらず、自分が正しいと信じていることを行っていると、議員団に語った。そのときの模様を質問されたホワイトハウス・スポークスパーソンのアンドリュー・ベイツは、「大統領は国家の安全保障の必要に基づいて国家の安全保障政策を決定しているだけで、他の要素はない」と言った。
 しかし、アムネスティ・インターナショナルは米国製武器弾薬が使われて3万人以上のガザ住民の殺戮が行われていることをバイデンに思い起こさせ、大統領に即時停戦を提起し、イスラエルへの武器弾薬の供与をやめることを要求した。
 3月17日、アイルランド首相のホワイトハウス訪問の歓迎儀式のとき、バイデンは
ガザには停戦協定が必要だという点でアイルランド首相レオ・バラッカーと同意したと語ったが、イスラエルに停戦圧力をかける計画を示さなかった。CNNによれば、「バラッカー首相と私は、ガザへにの人道的救援の早急な必要と人質解放と二国解決案へ向かう停戦交渉の必要で一致した。二国解決案が平和と安全の意継続への唯一の道である」とバイデンが語った。一方、バラッカーは、アイルランド人はパレスチナ人に共感している、何故なら「パレスチナ人の闘いの中に自分たちの歴史、強制退去、土地の略奪、民族的アイデンティティの否定、強制移民、差別、飢えの歴史を見るからである」と、語った。
 以前にイスラエルへの武器供与で米国を批判したバラッカー首相は、米政府がイスラエルの武器供与を続けると決定したことに「驚かなかった」と言った。


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