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福島原発事故14年目特集② 三田茂医師に聞く放射能被害 人体の基本構造「恒常性」の破壊(24年3月5日号)

「反原発」の転換・進化を。①は「向き合うべき戦時状況と健康被害 緊急事態宣言=戦時下で隠し慣らされる 東日本全域の死者・病者」 

目次…三田氏の疑問・観察 被害者はまず中高年
被害は血液中の「好中球」減少
能力減退症―原爆ぶらぶら病 職場や学校に行けず家事できず ミス・事故多発
体内環境を一定に保つ生物の基本 ホメオスタシス(恒常性)破壊が原因
DNA障害と小児甲状腺がんのみ注目は原子力村の罠 新ヒバクシャ・能力減退症という本当の土俵へ
被害は治療や避難・移住で解決できる 諦めずに危険から退避し健康な生活を
編者より終わりにー避難し未来へ生きることが「復興」

東京から避難した三田医師の発見
「新ヒバクシャの能力減退症」「恒常性異常」

編…これまでの経緯を。

三田…私は東京の開業医の息子です。専門家・研究者よりゼネラリストになりたいと思ってきました。専門的権威の発言の多くは一面的で、実臨床の経験、体験にそぐわない。日々の診療で臨床医として疑問、違和を感じる「定説」が、10年経つと間違っていた経験をよくします。学説や定説は時間がたつと通用しなくなることが多いからです。

学問的な先入観を持たず、自分の観察、感覚を大切にしたい。医学界は権威的で、医療は今や政策に支配されています。でも私はいち開業医の良心に従って、患者さんの側から考えたいと思ってきました(そういう最後の世代かもしれません)。

勤務医時代に放射線診断学に携わり、医療被曝を受けた経験があり、放射線治療を受けた患者も見てきたので、放射線の怖さは分かっています。

私の話は、首都圏から岡山へ脱出移住した自身の診療体験に基くものです。原爆被爆者や、原発作業で高濃度汚染した人々ではなく(それも大事ですが)、自分が生まれ育ち働いた首都圏に関係し、現在診療している岡山の住民を観察、治療する中で得た、臨床医的観点の「低線量被曝に関する仮説」です。その解明と救済が、この事故には必須です。

東京時代に三田医師が病院に張り出した被害結果と、避難の告知。現在は岡山市で開業・診察中。

三田氏の疑問・観察
被害者はまず中高年

編…被曝を巡る定説に、疑問を感じたそうですね。
三田…放射線被曝とそれによる健康被害は、どう理解されてきたでしょうか?
(定説)・γ線による外部被曝とα・β線による内部被曝があり、影響が大きいのは内部被曝である。
・食べ物から、呼吸から、皮膚から、放射性物質を体内に取り込むことで内部被曝は生じる。
・単純な放射性元素としてではなく、ホットパーティクル(高い放射能を含む微粒子)として被曝源を考えることが重要だ。
・放射線障害は、ミクロ(細胞レベル)の電離作用による分子の切断、特にDNAの切断・破壊によって説明され、主に発癌を中心として議論されている。 
・よって、障害は細胞分裂の盛んな小児に強く、高齢者には影響が少ない。
・チェルノブイリで起きた、放射性ヨウ素の内部被ばくによる、小児甲状腺癌の多発が放射線障害に特徴的であり、福島事故でも被害の中心である。

 でも、これらは本当か?3・11後の早期から、様々な前提に疑問を感じました。低線量ではあるが被曝したことは間違いない東京で引き続き診療を続けることで、現実が分かると思い、全ての年齢層に検査を呼びかけました。
 東京でも多く見られた喘息や副鼻腔炎の悪化、皮膚炎は、放射能が粘膜に直接作用したと考えて無理ないでしょう。普通ではない鼻血を、「この程度のヒバク線量では、骨髄抑制による血小板減少は起きる訳がない」と非難したのは論外です。しかし、ホットパーティクルによる鼻粘膜障害とする説(高名な医師に多い)は、臨床医感覚として納得できません。
 他にも患者から多く聞いた不思議な現象=アザの多発、下痢、血尿、発熱、骨折、不整脈、感染症の異常な流行などに、納得いく説明は聞けません。
 初めに健康を害したのは、細胞分裂の盛んな小児ではなく、実際には高齢者、難病患者、虚弱・過敏体質者でした。
甲状腺検査は、いくら行なっても首都圏『新ヒバクシャ』の、特に小児には全く異常が見られません。 フクシマ県民調査の甲状腺検査を見ても、年齢構成など、チェルノブイリとは全く違います。

被害は血液の「好中球」減少

同時に行った血液検査で驚いたのは、首都圏の子どもたちの白血球中の「好中球」の減少が著しいことでした(白血球の中の骨髄系の細胞の一種。白血球全体の約45~75%を占め、細菌や真菌感染から体を守る主要な防御機構)。
 「被曝での白血球減少は、リンパ球の減少によるもの」が、専門医の「定説」でした。しかし、三田医院の検査で首都圏『新ヒバクシャ』に実際に見られたのは、リンパ球より好中球の減少でした。
 また23区東部などの高空間線量地域の子どもたちに特異的に見られたのが、異形リンパ球の出現でした。心配した血球異常はありましたが、危惧した内部被曝としての骨髄障害によるものではなさそうだ、と思いました。

能力減退症―原爆ぶらぶら病 職場や学校に行けず家事できず ミス・事故多発


三田医師の24年1月の講演会スライド

編…中高年にも様々な被害、16年前後に急増した、これは首都圏に残っていた私も実感しました。自分の心臓病をきっかけに30~50代の友人知人をよく見ると、突然末期がんや白血病になり死ぬ、様々な疾患で虚弱化し杖がないと歩けない、風邪や欝が治らず悪化し続けるなどが増えていました。そこで三田さんの『新ヒバクシャ』『能力減退症』に、これだ!と思いました。

三田…岡山避難後も、開業して診療を続け、従来の説明と異なるメカニズムが働いていると思いました。

 2016年の被曝5年後ごろから、疲れやすく、眠気が強く、気力がなくなるなど、「原爆ぶらぶら病」に類似した訴えが増えてきました。仕事を休む。学校に行けない。家事、育児に大きく影響し、健全な生活が送れない。これを『能力減退症』と名付けました。
 広島・長崎の被害者救済に尽力した肥田舜太郎医師が、「ヒバクシャが一番苦しんだのは原爆ぶらぶら病」と言ったことが知られています。今回も同じようなことが起き始めていると思いました。

 自覚していても未自覚でも、首都圏の『新ヒバクシャ』に起きている生きづらさ、ミスや事故の多発、不健康、突然死、社会の荒廃はこれに関連していると思います。通常の検査では捉えにくく、検査しても異常なし、気のせいと言われてしまう。理解されず救いがないという点でも、原爆ぶらぶら病と同じです。

体内環境を一定に保つ生物の基本
ホメオスタシス(恒常性)破壊が原因


作成:三田医師

編…そのメカニズムは?
三田…『能力減退症』は、ホメオスタシス(恒常性)の異常によるものです。ホメオスタシスとは、生物が内部や外部の環境変化に関わらず、体内環境を一定に保つ力のことです。

 体温、血圧、PH(水素イオン濃度)、水分量の調整、異物排除、創傷の修復などです。これらにより自動的に健康が保たれる、生物としての基本中の基本です。

編…私も被曝10年後頃から、雨や低気圧などの気圧変動=外部の環境変化で、めまいが悪化しています。
三田…ホメオスタシスは、脳の深部、間脳視床下部に中心があります。全身に張り巡らされた自律神経と、内分泌(ホルモン)による支配と、それらによる免疫力で維持されています。 
 異常の原因は放射能のみではなく、化学物質や電磁波、ある種の感染も可能性があります。
 それらの刺激も加わって、結果として間脳機能異常=自律神経の乱れを、引き続いて脳下垂体機能異常=内分泌の乱れを引き起こすのです。こう考えるのが無理がないと思います。
 脳内に入り込んだ放射性物質が、直接内部被曝を引き起こすとは考えない方がしっくり来ます。旧来の研究のように、局所(遺伝子レベル、細胞レベル、臓器レベル)の放射性物質の量と、それによる直接影響を論じることのみでは理解できません。生体全身の/全体の機能的ネットワーク=恒常性の変調だと捉えると、理解しやすいのです。
 さらに、症状の発症はとても個人差が大きいです。今まで最も重視されてきた、被曝線量の多寡(科学的エビデンス=証拠)よりも、もともとの体質(虚弱さ、敏感さ)が大きく影響します。
 『能力減退症』は、単独の疾患より複数のメカニズムが複合した症候群というべきです。自律神経異常の傾向が強い例、ホルモン異常が強い例、混合する例などです。

DNA障害と小児甲状腺がんのみ注目は原子力村の罠 
新ヒバクシャ・能力減退症という本当の土俵へ
 


能力減退症による機能低下のグラフ。三田医師の24年1月の講演会スライド

編…健康被害論は小児甲状腺がんが主で、それを論じる自分たちの能力減退症のような被害は無視されてきたと思います。
三田…
加えて、子孫に影響を及ぼすかもしれない遺伝的影響も考えたいです。
 チェルノブイリ周囲の比較的低線量地域でも、二世三世の健康被害は重大です。三田医院検査でも、3・11後に生まれた子どもたちに、下垂体機能の低下や発達障害を認める例があります。
 00年頃以降、遺伝の研究はDNAそのものより、epigenetics(遺伝子以外の要素)を重視するようになっています。いつまでもDNA障害のみを論じていては、学問的にはすっかり時代遅れです。
 原爆の黒い雨裁判関連で、原爆二世・三世の遺伝的影響を知るため(不安を払拭=否定するため)、国が今後ゲノム調査を進めるといいます。でも、喜ばず騙されないよう用心すべきです。DNAは無傷でも、疾病が生じ次世代以降に引き継がれる可能性=epigeneticsがあります。
 そしてIAEA(国際原子力委員会)は、チェルノブイリ事故の一般住民の健康被害を、「放射性ヨウ素被曝による小児甲状腺癌」だけ認めました。
 しかし民族も、国状も、生活様式も、被曝様式も全く異なる日本の3・11被曝に、IAEAのチェルノブイリ対応を適用するのは、政府の意図的な矮小化、論点ずらしです。私たちもそれに乗せられていると気付くべきです。
 何度でも言います。「日本ではチェルノブイリ型の小児(乳幼児)甲状腺癌は発生していない!」。
 三田医院でも、フクシマ県民健康調査でも。甲状腺癌は本当の土俵ではありません。もう10年以上皆で場外乱闘に熱を上げており、権力の罠にすっかりハマっています。
 それは、現在放射能被曝を説明する説・理論は、原子力を推進するICRP(国際放射線防護委員会)、IAEA、UNSCEAR(国連科学委員会)など、古くは米国のABCC(原爆傷害調査委員会。原爆被爆者を加害者の立場で標本のように調査・隠蔽した)に元を発するものだからです。
 また、せいぜいそれらに批判、修正を加えたものだからです。
 高線量被曝を受けた者には当てはまるでしょうが、『新ヒバクシャ』の実態とはかけ離れています。
 『新ヒバクシャ』は、核汚染された人類として、壮大な科学的実験の対象群になってしまいました。でも私の知る限り、冷静で客観的な調査研究は全く行なわれていない。権威の意図的な誘導と、被害者側の感情的な反論に終始していると思います。

被害は治療や避難・移住で解決できる
諦めずに危険から退避し健康な生活を


関東からの避難と、副腎ホルモンのコルチゾールを三田医院で補充した事で、被害が改善した例。

編…被曝を逃れ、被害を改善することはできますか?
三田…
広島・長崎では諦め耐えるしかなかった「ぶらぶら病」=『能力減退症』は、投薬などの治療で解決の可能性が見えてきました。歳を取ったせいなどと決めつけて諦めず、被害を受けたのですから、『新ヒバクシャ』は生活を振り返り、改善に取り組んでほしいです。 
 健康被害は『能力減退症』だけでなく、日本全体、北半球が被曝したので、今後起きる発癌を中心とした放射能の晩発性影響への対応も必須です。
 首都圏を含む汚染地で無防備な生活を続ける人たちに、健康被害が進んでいる自覚が必要です。基本は、避難・移住です。
 権威が都合よく定めた理論枠組みの土俵から降りて、私たちの感性に従い真理を追究すること。東日本の危険な汚染地域に留まり続けながら、古すぎる議論を繰り返している場合ではありません。まず危険からは退避、避難をすることです。私たちは健康な生活を送る権利があり、子孫たちへの義務があると思います。(了)

編者より終わりにー避難し未来へ生きることが「復興」

東日本住民は被害の直視を。岡山の三田医院は患者の被曝と丁寧に向き合い、漢方や西洋薬を駆使し治療している。電話相談し、来院してほしい。
 そして、東日本からの避難移住を。できないのではなく「できなくさせられている」。当初一定の避難政策がされ、人々も一時避難し、各地は受け入れたからだ。まず自分から移動する。また取り残しなきよう地域や自治体で集団避難でき、農家や漁師は避難地で生業を再開できるよう、国に全面支援させる。それこそ「復興」で、3月に限らず反原発や各運動の基礎になる「生存・未来」だ。

 ジェノサイド阻止へ汚染地に時間は無い。初期被曝で発病に苦しむ避難者もいる。賠償裁判も放射能被害の話が増えている。汚染食品が出回り原発が動く全国も当事者で、運動を進化させる時だ。 次号以降、避難者や健康被害者の話を連載で掲載する。
★参考…避難者運動「ゴーウエスト」

「③ 特集の補足と新連載 福島原発事故の放射能加害と命の救済」に続きます。



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