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福島原発事故14年目 「反原発」の転換・進化を①向き合うべき戦時状況と健康被害(24年3月5日号) 

緊急事態宣言=戦時下で隠し慣らされる 東日本全域の病・死者

 2011年の「史上最悪」の福島原発事故から14年目。全国で「福島を忘れない」「再稼動反対」を例年通り掲げて行動がなされる。だが、そもそも事故の被害は何で、どうなっていて、どうするか?共通点は見出されず、主題にされない事も多い。問題の巨大さと、政府の復興政策に巻き込まれているからだ。
 これは公害であり、問題は放射能汚染と人体被害と公的救済だ。本特集では、①でそれがなぜ曖昧にされたかを論じる。そして②で、東京から岡山に避難し避難者・被ばく者の治療続ける三田茂医師に、ついに解明した被害のメカニズムと大状況を聞いた。
 事態は空前だ。本紙編集部であると共に、避難者で、健康被害に苦しむ者として、3.11直前に皆さんへ渾身でお届けしたい。(園良太)

特集②「三田茂医師に聞く放射能被害 人体の基本構造「恒常性」の破壊」
特集③「特集の補足と新連載 福島原発事故の放射能加害と命の救済」

チェルノブイリ以上のジェノサイド

 まず、記事一番上の地図を見てほしい。市民が計った地元の土壌汚染だ(「みんなのデータサイト」より、21年)。国は空気中のガンマ線の放射線のみを測り安心と言い張るが、放射能は11年3月の高濃度放出(初期被曝)に加え、14年間ほこり同様地面に降り積もる。その土壌汚染が実際の汚染度だ。濃い目の色は東日本の広範囲に及び、福島と平野で一繋がりの首都圏も福島に匹敵する。これが基礎的事実になる。

そのため編者など避難者は、東の親族や知人の多くの不調や死亡を見た。そして、その被害や恐怖を表に出すことがタブー化していると痛感してきた。

例えば、再注目される「だめ連」のぺぺ長谷川さんもその1人だ。昨年50代で病死したが、生前に「(不調の原因は)被曝も原因だ、避難すべきか考えている」と語っていた。だが追悼の場や言説で、それが話題になることは筆者が知る限りほぼない。
また編者は、3.11後の主に東日本の大病や長期不調を、「放射能●●病」と名づけること。そうして病気をプライバシー扱いせずに、「公」=「公害」として口に出して表面化させるべきだ、と思っている。そのため、上京時に自分や東日本に広がる被曝被害を言い続けた。すると知人から、「自分も甲状腺異常がある、このことは初めて人に言った」と明かされたことがあった(これらは一例に過ぎない)。

そして何といっても、若者~中高年の著名人のがんや突然死が圧倒的に増えている(逆に関西限定で活動する吉本の芸人などが突然死したことはほとんどない)。今やそれは受け流されているが、1993年にアナウンサーの逸見正孝氏が、40代後半での末期がんを公表した時、世間もTVも大騒ぎになったことを思い出してほしい。あまりにも普通のことではなく、誰もが衝撃を受けたからだ。「今や2人に1人ががんの時代」など、2011年3.11後に国が言い出した隠ぺいに過ぎない。国はがんや様々な病気の、2011年以前の患者数と以降の患者数の違いと、現在の患者数を、公表するべきなのだ。

森林で住民が少なく、石棺にして収束させたチェルノブイリ事故でも、百万人以上が被曝影響死してきたと言われる。福島原発事故は東北や大都市関東に約5千万人も住み、核爆発級の事故から半永久に放射能が出続け、国は被曝を押し付ける。チェルノブイリを大きく超えるジェノサイドが淡々と進んでいると捉えるのが妥当だ。

 これほどの事態だからこそ、「被曝から防護」「再稼動反対」が事故直後に高揚した。いま逆なのは、風化ではなく、国が「原子力緊急事態宣言」を出し続けているからだ。憲法改悪で危惧されてきたように、「緊急事態(宣言や条項)」とは戦争状態を作り出すことで、政府は社会を「戦時下」として何でもありで統制することだ。その意味で、社会運動が反対してきた「緊急事態」は、原発事故においてすでに実現しているのだ。

被曝を受忍させ、住民の口を封じる

 宣言下=戦時下では、
・国が全て独裁で決める。
・福島原発の状況や被ばく被害は基本全て隠される。
・居住地や食品等の放射線許容量が事故前の20倍に引き上げられ、常識にされる。
・住民はそれを受忍させられ、全て自己責任で救われず、健康被害が激増する。

 今東日本住民は、かつて戦時下で国に生活統制され、空襲を受けたように、被曝を日々受忍させられている。事故直後は集団避難や自治体ごと新天地で暮らすサテライト構想が試された。それを覆したのは安倍政権だ。被曝の恐怖や避難は「アンダーコントロール」「福島復興」とすり替えられ、異常が通常状態にされている。独裁的な首相は何より3・11を封印するために必要とされたのであり、後の数々の悪法強行や強権も、その点に根源がある。

被曝被害は「自分や周囲の変化」基準に「全世代」「東日本全域」と見ること

 こうして住民は棄民にされ、戦時下である事、公害を受けている事、見えない放射能は考えず過ごすしかなくなった。だが身近すぎて完全に忘れるのは無理だ。頭や心の片隅にある。向き合うと絶望し、その場=東日本に居られなくなるため、被曝被害や避難を口にしたら「風評被害=寝た子を起こすな」と叩き、我慢し続ける。住民は前代未聞の実験場にいる。
 昨年原発汚染水を放出する際、隣国との温度差や、マスコミらが「処理水」だ、放出反対は隣国の過剰反応だと断じる官民一体が際立った。東京に本社を置くマスコミや住民が被曝を受忍し続け、今更自覚したくないからだ。これが戦時下の国内生活統制で、海洋放出は国外侵略の再現に例えられるだろう。「3・11●周年」で私たちが論じ変えるべきは、この状況である。
 その核心部は健康被害だ。「国は絶対に公表しないので、自分や周囲の変化を基準に見る」。「福島だけでなく東日本全域」。「子どもや甲状腺がんだけでなく、全世代にあらゆる不調が起きる」が基本となる。
 編者は15年夏に心臓病になり、翌年大阪に避難したら回復すると共に、東より病者が少なく皆元気で驚いた。安全な空気・水・土に安堵し、その生物の基本が失われた場所は終わりと痛感した。

東京から岡山県に避難した三田茂医師の内科医院は、医者が無視する被曝を扱うため、大勢の避難者や東日本の健康被害者が来続ける。診察結果を元に、16年に『新ヒバクシャに能力減退症が始まっている』と発表した。福島事故の被曝者は従来と異なる『新ヒバクシャ』で、気力体力が落ちてまともな生活が送れなくなる『能力減退症』である、と名づけた。
 そして、その後の知見を元に、被害を生むメカニズムは「人体の恒常性(ホメオスタシス)の異常」だ、と発表する予定だ。
 三田医師もこれが空前の事態である事、被害は関東全域に及ぶと主張し続ける。編者は21年に避難者仲間と三田氏の講演会を開き、自分の能力減退症の治療を三田氏に受け、連携している。そこで三田医師に被曝被害の真相、対策、思いを聞いた。(②の三田茂医師インタビューに続く)


三田医師の24年1月の講演会スライドより。

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