【龍谷大教授 松島泰勝さんインタビュー】琉球は侵され続けた主権の回復をめざす 日本人は「本当に主権国家なのか?」自らに問え!(人民新聞 2013年4月25日号掲載分)
編集部…政府が4月28日に「主権回復の日」祝賀行事をおこなうと決定しました。
松島…4月28日は、琉球にとって「屈辱の日」です。1952年当時、琉球は、憲法もなく人権が無視される苦しみの中にありました。だから、平和憲法の下で生まれ変わった日本に帰属すれば、平和と人権が保障されるのではないか、との期待から復帰運動が展開されていました。
ところが日本政府は、この日、琉球を切り離して「独立」を宣言したのです。安倍首相が、政府として初めて祝賀式典を行いますが、琉球・小笠原・奄美諸島を切り捨てての独りよがりの主権回復であり、我々を蔑ろにした行事です。
琉球はもともと独立国でした。それが1879年、住民の同意も国際法上の手続きもなく、日本に併合されました。第2次大戦においては、多くの人間が住んでいる地域としては日本で唯一地上戦の戦場とされ、集団死を強制され、スパイ容疑で虐殺された住民も多数います。さらに戦後は、米占領軍の統治下に捨て置かれたのです。長い歴史を見れば、琉球の主権は未だに回復されていないのです。
4月27日、沖縄国際大学で「4・28を前に琉球の主権回復を考える・日本の主権回復? 琉球の主権回復!」というシンポジウムを行います。琉球は、「これから主権を回復していくのだ」という決意を込めた集会です。
安倍首相は「主権回復」と言いますが、果たしてそうでしょうか? 日米地位協定は、憲法を越える権限をもち、米軍兵士・軍属・家族は、日本国民よりも大きな権限をもっています。オスプレイ配備・在日米軍の訓練は、一方的に米政府が決めており、日本の主権は及ばないのです。琉球から見ると、「日本の主権」には「?」を付けざるを得ません。
分権化で基地はなくならない
編…独立論が高まる背景は?
松島…オスプレイが配備され、辺野古新基地が建設されようとしています。琉球の全ての自治体・議会が反対決議をあげ、全ての自治体首長による直訴にもかかわらず、何一つ変わりませんでした。これを見て普通の琉球人が、「日本政府からの分権化(道州制導入など)に期待をかけても、米軍基地はなくならない」ことを理解し始めました。
分権化(道州制)は、経済政策・金融・外交・安全保障を中央政府に委ねることが大前提です。したがって、琉球の米軍基地がなくなる保障は全くありません。米軍基地をなくすためには「独立」しかありません。
琉球の怒りを遡れば、鳩山元首相が「米軍基地の県外移設」の約束を破ったことがあります。鳩山元首相が全国知事会で基地受け入れをお願いしたところ、大阪の橋下知事以外、拒否しました。その橋下知事も、前言を翻しました。結局、日本のどの知事も、同情を口にはするが、代わりに基地を受け入れることはない、という事実を琉球人は知ることになりました。これ以降、一般の琉球の人々も、「沖縄差別」という言葉を発するようになりました。
地元紙の社説で「植民地」状態の沖縄が語られ、「自己決定権」という言葉が語られるようになりました。「米軍基地をなくすには、琉球独立しかない」と考える琉球人が増えてきています。
植民地経済からの脱却
編…琉球独立論は心情としては理解できますが、経済的、国際関係からみて実現可能性はあるのでしょうか?
松島…私は、太平洋の諸島で暮らしてきました。グアムは、米属領という植民地です。米大統領を選ぶ権利はなく、グアム選出の連邦下院議員は、発言権はあっても議決権はありません。独自の議会はありますが、そこで議決された法案は、米連邦議会や連邦政府によって全て覆すことができます。グアムの将来を、島の先住民であるチャモロ人が決められないのです。
一方、パラオ共和国は、人口2万人、1994年にアメリカの信託統治領から独立しました。パラオでは、外国資本は土地を所有することができません。パラオの土地、言葉、文化、企業、雇用、環境を守るための条項が憲法・法律で定められているからです。島外の勢力が、島を支配することはできません。「独立」の意味を両地域の違いから実体験しました。
国際法で保障された人民の自己決定権の行使には、3つの選択肢があります。①完全独立、②自由連合国(パラオ、ミクロネシアなど)、③対等な立場での大国への統合、です。国連監視下での住民投票によって、住民の意思が問われねばならなかったのですが、かつて琉球では一度も行われていません。
琉球は140万人の人口です。独立は、居酒屋談義や夢物語ではなく、具体的な選択肢の一つなのです。植民地状態から脱するためにはどうすればいいのかを、琉球人は真剣に考え始めています。
編…経済的自立をどう展望していますか?
松島…まず、琉球経済は植民地経済であり、持続可能でもありません。復帰後41年間で、10兆円の沖縄振興開発資金が投じられましたが、経済発展どころか、日本企業による支配と依存が深化しました。地元企業は日本の大企業に系列化され、琉球の利益を本土に環流するシステムが作られました。植民地経済でいくら税金が琉球に投入されても、本土に戻っていくだけです。
日本政府の開発政策も、道路建設や海の埋め立てなどインフラを整備して日本資本の進出を促す、というものです。公共事業の半分以上は日本資本が受注し、リゾート開発で自然環境が破壊され、赤土が海に流れ出て、海岸線の汚染が進みました。
独立すれば日本政府からの補助金はストップしますが、沖縄県は現在、国税として年間2700億円の税金を日本政府に払っています。さらに、地方税収入は約1100億円あります。独立すれば琉球政府は、翌日から合計約4000億円を自由に使うことができます。
課税権もあります。琉球開発による利益は、東京や大阪にある本社に蓄積され、税金も日本に落ちます。琉球独立政府が課税権を持てば、琉球で経済活動をした企業に課税できます。
また、米軍基地関連収入は、琉球経済全体の5%に過ぎません。基地を全て返還し跡地利用すれば、雇用効果、経済効果が何十倍にもなることは、実証されています。おもろまち・読谷村・北谷の美浜の跡地開発効果を検証すると、基地を返還して再開発した方が経済発展の可能性は大きくなることが明らかになりました。今や基地返還要求は、琉球の経済界・保守陣営の主張ともなっています。
独立した琉球政府が、経済主権をもって独自の経済政策を立案・施行すれば、経済的自立は十分可能です。
国境の壁を低くする
編…独立政府はどのような経済政策を採りますか?
松島…琉球には人が住む約40の諸島があります。沖縄島にしても、北部・中部・南部で自然環境も経済環境も違います。那覇市の経済政策を西表島に適用することはできません。それぞれの島ごとに経済政策は変わります。新たな経済政策は、中央政府が集権的に決めるのではなく、それぞれの島の住民が自己決定していく、島嶼連合型国家になるべきだと思います。
日本政府は、国境の壁を高くして、排他的経済圏を前提とした経済政策を琉球にも押しつけてきました。私が育った与那国島は、台湾とわずか100㎞しか離れていないのですが、直接貿易は禁止されています。沖縄県は過去2回、国際交流特区構想を日本政府に申請しましたが、却下されました。
独立琉球国は、国境の壁を低くして、経済的貿易のみならず、文化的・社会的交流の拠点となって、国際交流を活発化させる方向です。島国は、国境の壁が低ければ低いほど繁栄します。
50万人くらいの琉球人が世界各地で暮らしています。こうした人的ネットワークも、国造りの大きな資産です。琉球アイデンティティとは、国民国家の枠を越えるものであり、琉球人とは、琉球列島に住む人に限らず、琉球に出自をもつ全ての人々です。
琉球独立論を強化する
日本の排外主義
編…日本で排外主義が高まっていますが…。
松島…尖閣問題がクローズアップされて以降特に、日本の右翼が盛んに琉球に来て活動しています。これは、琉球の怒りが大きくなっていることの裏返しです。日本で排外主義が高まり、隣国との緊張を高めようとする世論が跋扈するようになると、琉球ではますます「こんな日本とは一緒にやっていけない」と、独立論が高まっていくでしょう。
ナショナリズムには、①マジョリティのナショナリズムと、②抑圧からの解放を求めるマイノリティのナショナリズムがあると思います。パレスチナ人のナショナリズムは、抑圧される側=②マイノリティのそれです。琉球独立を求めるナショナリズムも同様です。
昨年「琉球独立への道」を上梓すると、ネット右翼から攻撃され、「日本から出て行け!」といった脅迫ファックスも送られてきました。米軍基地についても、「中国からの脅威に対抗するため必要」という主張のようです。
しかし、戦後一貫して日本に外国軍が存在し、その兵士と家族は日本人よりも広い特権を有して活動しています。日本の国土が侵されていることについて、彼らはどのように考えているのでしょうか? 問いたいですね。
若い琉球人が独立を支持し始めた
編…反基地運動に沖縄の若者の参加が少ないと聞きますが…。
松島…琉球の若者は、大きな矛盾を抱えています。まず就職です。20才代の失業率は30%近くですが、「できれば島で就職したい」と希望しています。沖縄県庁や米軍基地は、琉球の中でも多くの就業者がいる「安定した雇用先」とされています。基地に反対する気持ちと就職口としての米軍基地、という矛盾の中に生きています。
琉球にとって米軍基地は根源悪なのですが、就職のために口を塞がざるを得ない現実に直面しています。しかし、若者が世界に出て、グアムやハワイなどとの交流によって、反基地を主張する人も増えています。経済的発展の展望を示せば、若者はより一層、独立への志向を高めるでしょう。
「経済発展」そのものも、問わねばなりません。琉球は、失業率が日本一高くても、飢餓が発生しているわけではありません。食えてはいます。むしろ、肥満が寿命を縮めています。何が豊かさなのか?根源的な問いが必要です。
日本も「主権」の内実を問うべき
編…今後の行動予定は?
松島…「琉球民族独立総合研究学会」を5月15日に設立します(事務局は沖縄国際大学)。独立に関する政治・経済・国際法・国際関係・文化などあらゆる学術的研究を積み重ねます。
さらに、①一般の琉球人の参加も募って、②研究だけでなく、国連の脱植民地化独立委員会や人権委員会・人種差別撤廃委員会などに代表を送り、③グアムやハワイ、フランス領ポリネシアなど、太平洋諸国で独立をめざしている人々とネットワークを結び、④スコットランド(英国)やカタルーニャ地方・バスク地方(スペイン)といった欧州で独立を志向する地方と比較検討し学ぶ、という実践型の学会にしたいと思います。
学会の中心的な担い手は、ほとんどが復帰後生まれの30~40才代の若手研究者です。復帰後に生まれた若い世代が、独立論を支持し始めています。
復帰運動のように日本に期待するのではなく、私のように海外生活を経験して国際的視野から琉球の未来を考える場となっています。60才以上の長老の方々も、自分たちがやってきた復帰運動とは何だったのか?反省しながら独立を語るようになっています。
4月25日、「沖縄から主権を問う」とのシンポジウムが行われます。琉球では、主権とは何かを根本的に問う機運が盛り上がっています。琉球独立は、自分たちの生活と未来を自分たちが決めたいという原則的な要求であり、もはや琉球全体の意思になりつつあるということです。
だから、翻ってこうした動きを日本人はどう捉えるのか? 人民新聞の読者も、考えていただきたいと思います。
(人民新聞 2013年4月25日号掲載分)
【お願い】人民新聞は広告に頼らず新聞を運営しています。ですから、みなさまからのサポートが欠かせません。よりよい紙面づくりのために、100円からご協力お願いします。