釜ヶ崎野宿者立ち退き訴訟 「仮執行延期」判決

司法記者クラブでの弁護側会見編集部 河住和美

 大阪府が昨年4月に大阪市西成区のあいりん総合センター(以下、センター)周辺で暮らす野宿者22人に対して立ち退きを求めた裁判の判決公判が12月2日、大阪地裁であった。横田典子裁判長は被告にセンター周辺の土地を明け渡すよう命じる一方、強制排除の仮執行は見送った。被告側は判決を不服として、13日に大阪高裁に控訴した。
 仮執行見送りに伴い、控訴審判決まで被告らはここで寝泊まりできる見通し。
 男性支援者(50代)は「敗訴とはいえ画期的」と、安堵の表情を見せた。とはいえ、判決は府の無理筋とも言える主張をほぼ全面的に採用しており、控訴審でも被告らの前には大きな壁が立ちはだかる。
 府は、被告らが立ち退きに反対し、センターの周囲全体を集団占拠していると非難した。
 一方被告側は、野宿者排除が国連の定めた社会権規約に違反するとの主張に加え、名指しされた22人のうち1人が亡くなり数人が不在であるなど府の人物特定の曖昧さ、フェンスが張られた部分も含めて「全体を占拠」とした立論の不適切さを指摘した。
 府の提訴自体が、異例の措置と言える。これまでの野宿者排除は主に大阪市の長居公園(東住吉区)、扇町公園(北区)など公園を舞台に、都市公園法に基づき行政代執行が行われてきた。しかし今回は排除の法的規定がなく、所有者が国、府、市であるにもかかわらず、公的施設を前提とした「行政代執行」は使えない。このため、あえて「土地はセンターを運営する財団法人の私有地」と強弁、私有地からの排除に使う「仮執行」を求めた。

ーー再開発で野宿者の生きる権利を奪う巨大資本と大阪府・市

 これに対し、弁護団の牧野幸子弁護士は「公的施設の使用停止や不法占有者の立ち退きには条例などの法的根拠が必要。府に根拠法はなく、全く恣意的な議論」と批判する。
 府は提訴後の昨年7月、行政代執行の仮処分申請も行い、同年12月に却下された。移設された新センターの耐震性を巡る議論や、センターの跡地活用についての地元協議が膠着していることから、緊急性はないと判断したためだ。今回の仮執行見送りも、その延長線上にあるとみられる。
府が野宿者の排除を急ぐのは、25年の大阪万博を控えて周辺の再開発構想が加熱しているからだ。釜ヶ崎一帯にはJR大阪環状線や大阪メトロ(地下鉄)御堂筋線、南海電鉄などの駅が集中、関西空港はJR新今宮駅からわずか40分。地の利の良さに目を付けた大阪市は、8年前から「西成特区構想」を立ち上げ、大規模な都市改造や外国人向け大型ホテルの建設を進めている。
 23年には大阪メトロ・なにわ筋線(北梅田駅〜新今宮駅)が開通、24年には梅北再開発(梅田駅北側)が完成する予定で、かつて日雇い労働者の街だった釜ヶ崎は大阪の「ミナミ」を越えて「キタ」とも直結、新たな観光拠点となるのだという。   金儲け優先の維新行政の下、大阪府・市のコロナ関連死者(人口比)は全国平均を大きく上回った。しかも、住処を奪われた野宿者の死は、そこに含まれていない。法の名の下で彼らを排除し、死に追いやることが何を意味するのか。大阪高裁には、人権尊重の立場に基づく判決を望みたい。

写真:司法記者クラブでの弁護側会見

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